猫屋敷棗

…おはよう、こんな早い時間に起きるのは久しぶりだから、つま先だけ夢の中に残しているような気分…

猫屋敷棗

プロデューサー、今日のサイン会は… ああ、幻燈社の新刊の発売日だったよね
発売予定日、すっかり忘れてた…

猫屋敷棗

私の外側で形を成した物語は、形を得て、帰ってくるまで遠くなりがち
でも、サイン会は楽しみにしてたの

猫屋敷棗

…今あなた、とても変な顔をしてる
私がサイン会を嫌がらないのは、そんなにおかしなこと?

猫屋敷棗

…確かに人がたくさんいる場所はあまり得意ではないけれど、サイン会とライブ会場だけは別

猫屋敷棗

だってそこで出会う人たちは、私が書いた物語を知りたがってくれた人。私からあふれた言葉を受け取ってくれた人

猫屋敷棗

ここは私の物語を愛してくれる人たちの言葉に触れる、奇跡のような場所だから…… 嫌いではないの…

猫屋敷棗

それより…あなたの物語に登場する私は、ひとが嫌いで偏屈で気難しいの?
まるで硬い殻に閉じこもる貝のように?

猫屋敷棗

…謝るのはどうして? 私、怒ってない
自分の認識とは違った自分が、あなたの中に生まれたのは、なんだか面白い……

猫屋敷棗

…私の目に映ったあなたの物語は、もっと時間があるときに教えてあげるね

…行こう、みんなが待ってるよ…

1|epi.1 棗のサイン会

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