漆黒の王子と蒼緑の花嫁
夜は更けて、月が仄かに辺りを照らしていた。
生い茂った木々は鬱蒼としていて、夜の森は陰気で不気味な雰囲気を漂わせている。
そんな森を一人の少女が駆けていた。
時間がないわ。
早くこの森を抜けないと....。
暗澹とした景色に合わせるかのように全身黒ずくめの格好をした彼女は、すっかり闇に紛れ込んでいた。
顔までもが黒い布で覆われ、布の間からは月に照らされた双眸だけが覗く。
それは、月に照らされるたびに緑色に煌き、一度その瞳に見つめられたら抗えなくなるような不思議な魅力を持っていた。
雨上がりでぬかるむ道を俊敏に走り、彼女はとうとう森を抜けた。
そしてそのまま軽やかな身のこなしで彼女の数倍も高い塀を軽々と登ってみせた。
彼女は静かに息を吐いてから呟いた。
ルアール城.....
彼女の目前には、大国ルアール王国の礎、ルアール城がそびえ立っていた。