午後の授業が面倒で、サボっていつもより少し早い時間に帰宅したせいか、最近あまり見ることのなかった飛行機雲が目に入りボーッとしてしまったせいか、朝飯を食わなかったせいか、CMで流れていた曲が耳から離れず鼻歌を歌ってしまったせいか…。



帰り道、一つしかない曲がり角で運命の出会いをした。

そいつは甘い苺ジャムのように真っ赤な血に濡れた誰かの右腕を口にくわえて走ってきた。

ぶつかった瞬間その右腕を口から落とし、落ちた腕がべちょっと不快な音をさせていた気がする。

とは言っても、驚きで気絶したようであまりしっかりとは覚えていない。

というか、あれは夢か?

周りを見回してもここは自分の部屋で、今寝ているのは自分のベッドだ。
漫画やアニメのように、良く見たら部屋にあいつがいたなんてこともない。
ただ、どう家に帰ったのか覚えていないのは少し怖い。

携帯がチカチカと光っている。
開いてみると、友人からメールが入っているだけだった。

違う、嘘だ、ごめん。

勢い良く携帯を置き一息つく。
自分でも誰に謝っているのか良く分からないごめんなさい。
とりあえず携帯はベッドの上に放置して晩飯を食いに階段を下りた。

晩飯はハンバーグだった。

珍しく中にチーズが入っていて、俺の大好きな唐揚げも三つ添えられている。
今日は機嫌が良いのかいつもは俺を良いように使ってくる姉が唐揚げを一つくれた。
一月分の良いことがまとめてやってきたような日だ。
やめてください、ごめんなさい。
ゆっくりと時間をかけ、他の皿が片付けられてもまだ唐揚げを食べていた。
食べ終わると麦茶を飲んで風呂に入る。

風呂から出ると重い足取りで階段を上がっていく。
部屋の前で一度深呼吸をしてから扉を開く。少しだけ。

僅かな隙間から部屋の中を覗き様子を窺うが、当然のようにおかしな所は何もない。

安堵のため息をついてやっと部屋の中に入りちらりと横目で携帯を見る。

ん、?

良く見ると今朝までは無かった筈の染みがあった。
醤油か何かが付いてしまったのかと手に取り良く見る。

…っ

固まったせいで濁って少し黒ずんで見えるそれは、確かに赤い血の染みだった。

何だよこれ…っ

ティッシュを何枚か取り、擦ってなんとか赤い染みを消す。
綺麗になった携帯を見て、少し気持ちが落ち着いた。
もし今朝のあれが現実だったとしてももう二度と会うことはないのだろうし、何も心配する必要はない。

また携帯がチカチカと光った。
そういえば明日は土曜だ、何処か遊びに行って気分を変えよう。

そんなことを考えながら携帯を見ると、一通のメールが来ていた。
祖父母の家で飼っている犬の写真だった待ち受け画像は、何故か今朝ぶつかった奇妙な男が笑顔でピースしている写真に変わっていて、見るのが二度目とはいえ流石に穏やかではいられない。

口角が上がった口元は真っ赤に染まっていて、目元には深い隈がある。
どう現実逃避しても今更口元を赤くしているものがケチャップやトマトジュースだとは思えない。

何度も心の中でもう会うことはないと唱えメールを確認する。

『こんばんは、大丈夫だった?』

知らないアドレスからのメールだった。
この人が俺を家まで運んでくれたのだろうか。
態々心配して連絡をくれるだなんて、本当に親切な人に助けてもらえたようだ。

『こんばんは、大丈夫です。
助けていただきありがとうございました。』

そう返事を返してからそろそろ寝ようと布団に入る。
するとすぐに返事が来たのか携帯が光ったので、開いてメールを確認する。

『それは良かった、明日何か予定とかある?良ければ、会いたいな』

調度明日は何処か遊びに行こうと思っていたし、お礼もできるし迷うことなく『何も予定はありません。俺も会いたいです。』と返した。
そしてまたすぐに返事が来た。

『じゃ 、明た、1、時に今ぅ会った 所で』

忙しくてミスったのか携帯の調子が悪かったのか、最後のメールだけ少し様子がおかしかった。

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