僕には、お父さんとお母さんと過ごした思い出など何もない。何故って?確かなことは誰も教えてくれない。ただ皆がそろっていう事は、十年前に終戦した第五次世界大戦で死んだという事だけだった。
 第五次世界大戦は僕らの世界を大きく変えた。
 一つは魔法が生まれた事。
 一つは日本の東北地方より南の地域が全て砂漠化
 した事。
 一つは、魔物が現れるようになった事。
 そしてもう一つは、人間が魔物と契約し、自由に契 約した魔物を召喚し、戦わせられる召喚士が生まれ た事だ。
 僕の村には召喚士など僕以外誰一人としていない。いたとすれば、すぐに軍に入隊させられるからだ。召喚出来る事を隠していたとばれただけで村を一つ焼き払われるらしい。
 だから今まで僕は召喚できないフリをして過ごしていたんだ。
 だが、それが軍にばれてしまったのか突如、村に黒いマントで全身を覆い隠した五人の召喚士達が村に攻め込んできた。

村長

に、に、逃げるんじゃっ!
村に召喚士が襲撃に来たじょ!

ウェェェェェェッェッェェェェェンッ!
ウェェェェェェェン…ゲホッゲッホ!

村人A

非常用の飛空艇が村の大人分しかありません。

村長

やむおえまい…。ここに住んでいる者たちは皆他の村から追い出された者たちが大半じゃし、子供全員見捨てても大丈夫じゃろ。むしろほかの村から感謝されるかもしれないしな。

村人A

・・・分かりました。皆にそう伝えます。

 反対したものもいたが、大多数が村長の判断に賛成した。これが僕らの村の大人達。

村長

 皆も船に乗り込んだことだし、出発じゃ!

 空に向かって飛空艇がゆっくりと浮上していく。
僕はその様子をじっと眺めていた。
その間、僕の周りの子たちも皆誰も嘆かず、僕と同じように、じっと眺めていた。

名もなき者

子供を置いていったのか。・・・やっぱりな。
だから大人は信用できないんだ。
特にこの村の連中は最悪だ。

村の出入口から聞こえてくる召喚士達の指示。

村の北口

召喚士A

レッドドラゴンッ!すべてを焼き払えッッッ!

村の南口

召喚士B

オーガよ、全ての建物を破壊してしまえ。

村の西口

召喚士C

スコーピオン、全ての人間を殺せ!

村の東口

召喚士D

フリーズドラゴン、二丁拳銃に武器化せよ!

そして、僕のいる村の中央。
目の前には、黒いマントをかぶった赤髪の男がいる。

召喚士E

やっぱり、力がない奴らを殺せるほど面白い事はないね。
なあ少年‼

 確かに僕は魔物を召喚できることは知っていた。だがそれを知っていたのは、唯一赤ん坊の頃、ある龍を召喚した記憶があるからだ。ハッキリ言って確信などなかった。だがどうして目の前にいる男たちは僕が召喚できると分かったのだろうか。

召喚士E

おい、無視かよ。
お前のせいで村がこうなってんの知ってんだろ。
それで、ごめんなさい僕が間違っていました。
だからどうかもう誰も殺さないでくださいくらい言えないのかよ。…殺すよ。

 一か八か、やってみるか。
 あんまり覚えてないけど、あの龍を呼ぼう…。

召喚士E

サモン、イフリート。

名もなき者

現れよ、我が第十三の隷、バハムート。

 バハムートを呼んだ瞬間、僕は意識を失ったのか目の前に見えるのは何もない真っ白い壁の部屋。
その壁際に僕と同い年ぐらいの女の子が壁に背を預ける形しゃがんで座っていた。

ゼロ

ここは何処?
君は誰?

バハムート

あなたが呼んだ十三番目の隷、バハムート。
ここは、私の部屋なの。

生活感のない真っ白な部屋。なんて寂しい部屋なんだ。

バハムート

別に寂しくなんかないわよ。
それにこの部屋は、あなたの心の中でもあるのよ。

名もなき者

僕が今何を思っているのかわかるのか。

バハムート

そうよ、だって私はあなたの隷なんですもの!
それに私は幸運な事に他のバハムート使いのバハムートとは違って完成体なのよ。
これも、あなたの両親のおかげなの。

 僕の両親のおかげ?

名もなき者

どういう事?
僕は自分のことも両親の事も何も知らないから、バハムートが言っている意味がよく分からないんだ。

バハムート

それはね、あなたの両親が世界の半分近くを生贄にしたの。あなたを守るためにね。
現に砂漠化しているでしょ?

名もなき者

僕を守る為?
何から守るために世界の半分を生贄に捧げたんだ?

バハムート

いずれ分かる日が来るわ。
この私が召喚されたんだからね。
後、言い忘れていたことがあったんだけど、
いいかな?

名もなき者

いいよ。

バハムート

ごめんなさい、私、力が強すぎちゃってあの村吹き飛ばしちゃった。
子供たちは誰も傷ついてないけど。
アイツらは、私のブレスで消滅してしまったは。

名もなき者

いいよ。アイツらは別にどうなったって良かったしね。

名もなき者

そういえば、あれから僕はどうなったんだ?
君を呼んでからずっとここにいるけど・・・。

バハムート

もうあれから二日経っているよ。
君の体をずっと砂漠の中を歩きっぱなしにしといたんだ。
そろそろ命にかかわるかも。
それと、この会話はここに来た時にしか思い出せないようにしたからね。

名もなき者

命にかかわるというかかかわっているよ。意外と怖いことするね。

バハムート

私のマスターなら大丈夫よ~♪

名もなき者

ここでの会話をここ以外で思い出せないようにしたのは、たぶん心を読む魔物を召喚できる召喚士に警戒してのことだろ。その証拠に、今バハムートは僕の心を読んでいる訳だし、聞く必要はないな。それよりも早く肉体のもとへ行かねばヤバイな・・・。

バハムート

さすが私のマスターだわ。言わなくてもわかるのね。お父さんそっくりよ。

名もなき者

そんなことより早く戻して!

バハムート

分かったわ。いきなり痛覚に襲われると思うから気おつけてね。

名もなき者

気おつけても何も君が歩きっぱなしにしたんだろ。
どうやってやったかは知らないけど。

 旧東京都、世田谷公園。

名もなき者

頭がすごく痛い。おなかも空き過ぎてなんか気持ち悪い。体も思うように動かせない。汗も長時間出てないようだ。
周りに村がある様子は微塵たりとも感じない。
てか、ここはどこだ?
なんで僕はこんなところにいるんだ?
あの時、僕はバハムートを召喚したところまでは覚えている。でもそのあとは何も、思い出せない…。

 周りにオアシスもなければ、人の気配も微塵もしない。あるのは目の前に広がった砂の大地と激しく照り付けてくる真南の太陽だけだ。

名もなき者

もうダメだ…。

僕は力尽き、そして灼熱の太陽が熱した砂の上に倒れた。細かい砂の粒が大気に舞う。

名もなき者

誰か助けて…。

僕がそう願った矢先、僕が倒れている位置から五メートル辺りの位置から大型サソリ、俗にいうスコーピオンが僕を囲むように現れた。

ゼロ

本当にヤバイな…。僕はここで死ぬのか?そういえば、僕召喚できるんだよな。何で今まで隷を召喚しなったんだろう…。

 スコーピオンたちは僕を確実に仕留めようと逃げ道を塞ぐようにゆっくりと近づいてくる。

名もなき者

現れよ、我が第十三の隷、バハムート

バハムート

呼ばれたから来たよマスター!

モンスターに囲まれている僕の目の前に伝説の龍バハムートが降臨(?)

名もなき者

えっ!竜じゃなかったけバハムートって。というか、そのままじゃん。って僕、バハムートの姿見るの初めてのはずなのに変だな。そのままなんて。まぁ良い、こいつ等を…。

バハムート

もうやっといたわよ。こいつら雑魚だし。

名もなき者

さっきまでいたスコーピオンがいなくなっている。すごいなバハムート本当にバハムートは。

バハムート

そうでしょ、だからもっと褒めて褒めてっ!

ゼロ

うん助かったありがとう…。それよりも早く、僕を保護してくれるような場所につれってってくれないか。マジで。

バハムート

分かっているわよマスター。どんなに辛く苦しい時でもいつも私がそばにいるから、だから困ったときはいつでも呼んでよね。

ゼロ

うん、ずっと一緒だ。ずっとな。

こうして名無しの僕と、伝説の女の子いや、龍バハムートとの戦いの日々が幕を開けた。

Half Blade 第壱話 宿命

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