どうやら、ここはあまり使われていない階段のようだ。
手すりは錆びており、壁も黒ずんでいる。
ところどころ特に黒くなっているのは血が付いた跡だろうか。

ルーチェ・アルマ

そういえば、セラータが昔ここに住んでいた貴族は魔物に殺されたと言っていましたが・・・・・・

恐らくは、その戦闘の名残なのだろう。
いや、戦闘と呼べるものであるかどうかも怪しいが。

ルーチェ・アルマ

こんな場所を何年も本部として使っているとは、西エリアの隊長には驚かされますね

近くに騎士がいないのもあって、ルーチェは大きな声で皮肉を言う。
勿論、それを咎めるものはいない。
それどころか、城の中は誰もいないのかのように静かだ。
声どころか、足音すら聞こえない。
ルーチェの足音だけが響く。

しかし、ルーチェには確信があった。
「奴」は必ず城の中にいる。
わざわざ隊長室から騎士の帰還を出迎えたくらいだ。
その中に、異様に目立つ自分にも気づいているだろう。
顔は見えなかったが、軽い挑発はしておいた。
奴は、敵討ちにと向かっていった騎士達を返り討ちにした後、今度は自分に狙いを定める。

ならば、自分もそれに乗るまでだ。
先刻から計画を丸潰しにされて、いい加減鬱憤も溜まってきている。
これ以上溜め込むのは思考の妨げになる。

ルーチェ・アルマ

さて、僕の邪魔をするからには相応の報いを受ける覚悟があると見ます

ルーチェ・アルマ

少しは楽しめると良いんですが

大きな廊下に差し掛かった。
10人以上の人が並んで余裕で歩けどうなほどの広さだ。

その丁度真ん中に、ボサボサの髪の少年がうずくまっていた。

アッシェ・エンブリョー

・・・・・・・・・・・・

顔を腕の中に押し込めているので、表情は見えない。
しかし、遠くからでも分かるくらい震えている。

ルーチェは迷うことなく近づき、少年の側にしゃがみこむ。

ルーチェ・アルマ

こんばんは、今日は生憎の天気ですね

アッシェ・エンブリョー

・・・・・・・・・・・・

――震えが一瞬止まった。
ルーチェは内心ニヤリと笑う。
しかし、決して表情に出さずに話し続ける。

ルーチェ・アルマ

随分分厚い雲ですね。雷でも鳴るんじゃないでしょうか

アッシェ・エンブリョー

・・・・・・・・・・・・

ルーチェ・アルマ

しかし、この城は静かですね。まるで僕らしかいないみたいで、なんか怖いですね

アッシェ・エンブリョー

・・・・・・・・・・・・

ルーチェ・アルマ

おやおや、そんなに体を震わせて。何か面白いことでも――――

アッシェ・エンブリョー

お前、うるせえよ

少年の体から電流がほとばしる。
少年・アッシェ・エンブリョーはゆっくりと立ち上がり、ルーチェを見下ろす。

アッシェ・エンブリョー

どうして気づいた

ルーチェ・アルマ

あれだけ笑っていれば普通気づきます

アッシェ・エンブリョー

そうだろうな。いや、今までの騎士達が簡単に引っかかってくれたからよ、つい嬉しくてな

ルーチェ・アルマ

彼らと一緒にされるとは・・・・・・侮辱された気分ですね

アッシェ・エンブリョー

安心しな、お前はあのザコ共よりはマシだ

ルーチェ・アルマ

それはどうも

アッシェ・エンブリョー

俺はアッシェ・エンブリョー。異名は<クヴィスリング・ドンナー>

ルーチェ・アルマ

<雷の反逆者>ですか。随分大仰な異名を・・・・・・

アッシェ・エンブリョー

うるせえよ

アッシェ・エンブリョー

ほら、お前も名乗ったらどうだ?

ルーチェ・アルマ

ルーチェ・アルマ

アッシェ・エンブリョー

なんだ、異名持ちじゃねえのか

失望したように息を吐くアッシェ。
そのまま踵を返し、階段へと向かう。

ルーチェ・アルマ

どこへ向かう気ですか

アッシェ・エンブリョー

一対一ならこんなに広くなくてもいいだろ。心配するな。じっくり遊んでやるからよ

そのまま、アッシェは階段を下りて行った。
ルーチェも少し間をあけて階段に向かう。
正直、後ろから攻撃しても良かったが、どうせ倒すのだから構わないだろう。
ここには(気絶しているセラータを除けば)アッシェとルーチェしかいない。

だったら、こちらも少し遊びに付き合ってもいいだろう。
何より、彼が向かったのは地下なのだ。

ルーチェ・アルマ

全く、なんでここの騎士といい彼といい、こんなに慢心しているのでしょう

ルーチェ・アルマ

井の中の蛙だということ、教えてやらないといけませんね

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