その人は聖人でした。











万病を治す聖水を

祈りによって生み出し分け与える





聖人。











少年が、聖人に会いに行きました。

少年の母は病を患っていたのです。

聖水さえもらえれば、母の病も治るんだ・・・!

しかし教会には、長蛇の列が。


それもそのはずだ。
聖水は、無償ではないが、少しばかりの寄付でもらうことができる。

万病に効くともうわさされ、薬を買うよりも格段に安く手に入るため、皆がこぞってそれを求めて並んでいる。

母のためにも、早く手に入れなきゃ・・・

並んだものの、列が短くなる気配は一向にない。

不思議に思い、前の方の列を眺めていると、せき込みながら、列に割り込んでいるひとがいる。

その数は、一人や二人程度ではない。

十人割り込んだ辺りまでは、少年も許した。



しかし、こちらも事は急ぎである。
母の容体が変わらぬうちに、なるべく早く、届けたい。

少年は意を決して、割り込んだ前の列の人に声をかけてみることにした。

あの、どうして割り込むんですか?
僕も急いでいるんですけど。

この子、流行り病なの!
急がないと死んでしまうわ・・・!

隣をみれば、ひどくせき込む少女の姿があった。

ゴホッ!ゴホ・・・!

確かに、体調は悪そうではあったが、外に出て歩ける分だけ、少年の母よりも格段に容体はいい。

でも、母が病で倒れてて、僕も急いでるんです・・・!

しかし、近くのひとが、少年に言う。

本当にそうなら、倒れている母と一緒に来いよ。

母はベッドから起き上がれないくらい容体が悪化してるんです・・・!

どうだか?
行商人が聖水を転売するために、人を雇って並ばせてるって話もあるからな。

お前もそんなのなんじゃないのか?

違います!
本当に母は・・・!

切迫した様子の少年を、品定めするように男は見つめて、それから耳打ちをした。

なら、銀貨一枚で、ここの前に入れてやるよ。

なっ・・・!
よりにもよって教会の前で、そんな商売をしているんですか?!

払えるか払えないかだけ答えろ。

寄付の金額しか持っていません。

なら、用はない。元の列に戻れ。

そこへ、さえぎる声が一喝。

どうやら、教会の目の前で犯罪が行われているという噂は、本当の事だったようだな

な・・・!
聖人様・・・!?

申し訳ありません!!

その声の主の姿を一目見て、男は慌てたように地に伏した。

許そう。
人それぞれ、違う苦労があるのだろうからな。
お前は金に困っていてこれをした。違うか?

聖人の寛大な態度に、男は胸をなでおろした様子で、面を上げる。

おっしゃる通りです!
私には借金がありまして・・・!

だが、言い訳はいい。
神が許せど、法では許されぬのだから。

罪を償った後に、また並ぶがよい。

なっ・・・!

男は衝撃を受けたように固まり、聖人の呼んだ衛兵に大人しく連れ去られて行った。

少年。
彼を見つけることができた礼に、列の先頭に並ぶことを許可しよう。

いいのですか!?

本当に容体の悪い者は、自ら来ることはかなわないのは確かだ。お前の言葉、信じよう。

こちらへ。

そして、少年は聖人の後をついて、教会の中へはいって行った。

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