咥えタバコの男は鼻歌を歌いながら手馴れた動きでケンイチの亡骸を黒い遺体袋に詰めている。



カリヤ

悪いがその鼻歌をやめてくれないか



カリヤは苛立たしそうに顔をしかめながらいう。



消し屋

ああ、すまない、牧師さん。耳障りだったかな、下手くそな歌で悪かった





カリヤ

いや、そういうことじゃないんだが……





消し屋

あぁっ、そうか! 不謹慎って事かな?




カリヤ

いや、もういい。兎に角、わからないようにやってくれたらいいんだ




全身黒ずくめの男はしゃがんだ姿勢から立ち上がると不自然にあごを上げたポーズでカリヤを見た。

そしてその上下斜視でやぶ睨みの顔をくしゃくしゃにしてニヤリと笑った。


消し屋

ああ、心配しなくても大丈夫だよ、ちゃんと判らないように消すから、硫酸の樽でジューって溶かしちゃうんだ、最初はすっげえ臭えけど一週間できれいに消えちゃうよ、あ、硫酸っていったけど本当は塩酸も混ぜるんだ、そうしないと樽まで溶けちゃうからね、そこらへんのコツっていうか、さじ加減が難しいけどよぉ。まあ俺は熟れてっから、ばっちりよ。言うなら門外不出の特殊技術だな。俺しかできねえ。まかせといてくれよ、牧師さん!



男は胸を張って自慢げにいった。

カリヤ

……。 ああ、わかった、よろしく頼む



カリヤはたじろぎながら返答した。

消し屋

死亡診断書は後で送るから、その後に代金は振り込んでくれればいいよ、お得意様だから今回は一割引きでいいってボスが言ってた。よかったな、牧師さん!





カリヤ

ああ、悪いな……





消し屋

いや、悪くないよ、こっちも商売だ。このガキが生きてたって世の中の害になるだけだし、牧師さんはいい事したって事よ



そういうと男は遺体袋を肩に担ぎ部屋を出て行った。






カリヤは自分の犯した院生に対する性的虐待が発覚する事を恐れケンイチの死体を極秘裏に始末したのだった。



こうしてケンイチの死体は闇組織の死体処理屋によって施設より運び出された。








車は施設を出てしばらく走ると廃屋と化しているドライブインの駐車場に止まった。


処理屋は車から降りると小走りで駐車場の隅へと急ぐと立ち小便をはじめた。





消し屋

ふう、もう少しで漏らすとこだった。この時間はやっぱりまだ冷え込むな



時刻は明け方四時半、男の吐く息は白い。

用を足しながら見上げるとかろうじて『旭屋』と読める朽ち果てた看板がかかっている。

辺りは人影はおろか猫の子一匹いそうにない寂しいばかりの風景である。




消し屋

あのガキも可愛そうに。牧師さんもお祈りくらいしてやればいいのに……
















車に戻って乗り込もうとしたとき、トランクから微かに物音が聞こえたような気がした。



消し屋

!?






消し屋

確かに音が聞こえる……。なんだぁ、気持ち悪いな……、お願いだから、化けて出ないでくれよ。オレは殺しちゃいねえからな



男は恐々トランクを開けた。




遺体袋の中から腕が伸びている。身をよじる様な音と呻き声が漏れている。


消し屋

あわわ、このガキまだ生きてやがる!





男はあわててトランクを閉めるとポケットから携帯を取り出した。





大変だ、ボス、ガキがまだ生きてますよ

へえ、確かに頭に弾ぶち込まれてましたけど……

トランクの中で死体バックがごそごそ動いてやがる、気持ち悪くて

牧師さんに返してきましょうか?

はあ、無理ですか……

えっ! バラせって……、俺がですか!? とんでもない、嫌ですよ!コロシなんてできませんよ

困ったなあ……

え、どこの研究所?

そこに運べばいいんですね



男は車を出すと逃げるようにその場を後にした。









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