いらっしゃいませ。
 3名様ですね、ただいま店内が
 混み合っておりまして、少々
 お待ち頂いてもよろしいでしょうか?

 いらっしゃいませ。
 喫煙席はただいま満席で――……
 ああ、誠に申し訳ございません、
 またのお越しをお待ちしております。

日曜日の昼下がり、カフェの店内はざわざわと
活気にあふれており、家族連れやカップルで
にぎわっていた。

最近雑誌で紹介されたこともあり、休日とも
なれば店の外まで行列ができるなんてことも
ざらにある。
今日も当然、混み合っているのだが――…

 ――……んがっ……

 ねえちょっと、あの席の人、
 もうずっと寝てるわよ?

 コーヒーあれ、空よねえ?
 私たち、もうずっと並んでるのに……

とっくに飲み干した空のコーヒーカップが
置かれたテーブルに突っ伏して、ひたすら
居眠りしている若い男性がひとり。

まいったなあ、外にまでお客様を 
待たせているっていうのに……

 けどなあ、あの手の客は下手に
 声掛けると大声出したり、暴れたり
 しそうだしなあ……
 なんとか穏便に席を空けてもらえない
 かなあ……

うーん……
――よし、分かった! 
ちょっとやってみる! 

そう言うと彼は紙とペンを取り出し、
さらさらとなにかを走り書きをした。


そしてその紙を小さく折りたたむと、すたすたと
未だ寝息を立てる先ほどの男性客のもとへと
歩いていった。

ZZZ……

 お客様、お客様

……んあー……ああ? 
なんだぁ?!

肩を叩かれ、顔を起こしたものの不機嫌そうに
唸る男性客に、彼はなにか耳打ちをすると、
先程書いた紙切れをそっと手渡した。


男性客は折りたたまれたそのメモを開き、
そして。

か、会計だ! 
早く! 
幾らだ!!!! 

男性客は猛然と立ち上がると荷物を抱え、
店員の彼に金を渡すと、
「ありがとうございました」も聞き終えない
うちに猛ダッシュで店から走り出ていった。

あまりの素早さにぽかん、としていると、
にかっ、と笑顔を浮かべて彼が戻ってきた。

いやあー思ったより 
うまくいったね!

 お、お前、
 いったい何やったんだよ?!
 あの客、まだ全然出る素振りなんか
 なかったのに、あんなに慌てて……!

ん? 知りたい?
実はね、さっきの紙にはね、
こう書いたんだ。

  あなたに、
  一目ぼれしちゃいました。

そしてそれをあの客に渡すときに、
こう言ったんだ。

お客様、先ほど店を出ていかれた可愛らしい女性が、これをあなたに渡してほしいとのことです。

今ならまだ追いつけるかも……?

 …………今頃、
 必死に探してるんだろうなあ……
 ちょっとだけ同情するわ……

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