もうすぐ学校の文化祭。
俺のクラスは劇をやることになったのだけれど、何故か主役に選ばれてしまった。
魔法少女『まじかる★ブルーローズ』という、女児向けアニメの劇だ。
投票で強制的に主役のブルーローズをやることになった俺は、こうして夜の学校で嫌々練習をしている。
くっくっくっ……ここまでだ。
魔法少女プリムーローズ!!
きゃあたいへん、騎士が操られてしまったわー。
正気に戻って騎士様~
あぁプリムローズ。
愛しいお前を殺せば、私はこの苦しい気持ちから解放されるのか……
やめて騎士様~。
どうしよう、どうしたらいいの。
でも、わたしはこんなところでやられるわけにはいかないわ。
だって、おうえんしてくれるみんながいるんだもの
おい、アオイ!!
棒読みにもほどがあるだろう!
ちゃんとやれ。私の迫真の演技が台無しになるではないか!!
ならヒカルが変われよ!
なんで女のお前が騎士で、男の俺が魔法少女役なんだよ!!
もうすぐ学校の文化祭。
俺のクラスは劇をやることになったのだけれど、何故か主役に選ばれてしまった。
魔法少女『まじかる★ブルーローズ』という、女児向けアニメの劇だ。
投票で強制的に主役のブルーローズをやることになった俺は、こうして夜の学校で嫌々練習をしている。
しかたないだろう。私だって魔法少女をやりたかった。
大体、魔法少女の劇がやりたいと密かに投票箱に入れたのは私だ。
ヒカルは苛立ったようすで、黒板に拳をドンと叩きつける。
ギロリと恨みがましい目で睨まれた。
なのに満場一致で騎士とはどういうことだ。
全員私に男になれと言っているのか。
というかアオイ。
私以外の票を全て集めて魔法少女になった癖に……それは嫌みか?
あ……なんかごめん
幼なじみのヒカルは、背が高くイケメン顔だ。
運動神経抜群で、成績優秀。
実家は剣道道場で、幼い頃からおじいさんに育てられたヒカルは、男勝りで古風なところがある。
……騎士というか、侍っぽいというか、そんな感じだ。
何でもそつなくこなし、さばさばとした性格から女の子にもてる。
それはもう、男の俺から見ていてもうらやましいくらいに。
しかし、本人は結構少女趣味だったりして、昔から可愛いものが大好きだ。
皆には内緒にしてるけど、日曜朝の魔法少女アニメを心から愛している。
それはどういう謝罪だ。
男だけどヒカルより断然可愛くて魔法少女が似合ってゴメンね★てへぺろ☆ってことか
いや、誰もそんなこと言ってないだろ!
男の癖に可愛いとか、いっそ……もげればいい!
ちょ、剣を振り回すな!
八つ当たりかよ!!
ヒカルの剣を魔法のステッキ(笑)で受け止めて、攻撃を流していく。
この美少女顔のせいで昔からろくな目にあってこなかった俺は、幼い頃に身を守るため剣道道場に通い、そこでヒカルと出会った。
それ以来こういうやりとりが日常と化していた。
もう、やめよう……互いにむなしくなるだけだ
そうだな……
汗だくになったところで、不毛な争いをやめることにする。
もう教室に人はいない。
そろそろ帰ろうかなと思ったとき、ふいに足下がぐらついた。
なっ!!
足下に不思議な模様が浮き上がっていた。
魔法陣……とでもいうのだろうか。光で描かれた円の中に、まるで泥の沼のごとく俺の体が飲み込まれていく。
おい、アオイっ!!
振り返れば慌てたようにヒカルが走ってきて、俺の手を引こうとした。
魔法陣に足を踏み入れたヒカルの体までも、そこに飲み込まれていく……。
……!?
ここはどこだ?
天井のステンドグラスから、光が降り注いでくるのを見ながらそんなことを思う。
ゲームに出てくるお城みたいな場所だ。
……ついさっきまで学校にいたはずなのに。
おい、アオイ! ここはどこだ!?
なぜ私達はこんなところにいる!!
ヒカルが俺の胸ぐらを掴んで揺さぶってくる。
相変わらず馬鹿力で、脳がぐらんぐらんと揺れて考えるどころじゃないからやめてほしい。
そんなの俺が聞きたい。
やったー! さっすがワタクシ様!
不可能とされてる、『皇帝』のカードの召喚に成功するなんて♪
側には浮かれた格好をした美女。
角……みたいなの生えてるんだけど、コスプレか何かだろうか。
衣装がきわどい。胸がこぼれ落ちそうなのに、ぴょんぴょん跳びはねて、全身で喜びを表現している。
その膨らみを目で追うのはしかたないことだと思うのに、ヒカルに思いっきり足を踏まれた。
さすがこのスペードの国をおさめる女王様!
他の国にはできない真似を軽くやってのける!
そこに痺れる憧れるぅ!!
でしょでしょ?
もっとワタクシ様を褒め称えなさい、チャチャ
茶の髪に猫のような耳が生えた女は、チャチャというらしい。
黒髪に角の生えた女の人は、『スペードの国の女王』というようだ。
……見た目的には、女王っていうより魔王っぽいような気がするけど。
あからさまにおだてられて、女王様はとってもいい気分のようだった。
あの……すみません。
ここはどこですか?
わからないことは聞くのが一番だ。
尋ねてみれば、いきなり女王様に抱きつかれた。
あぁ……しかもなにこの子!
超ワタクシ様の好みだわ!
すべすべの肌、長いまつげにこの愛らしい顔!
げへ、げへへへ!
いっそワタクシ様の恋人にしちゃおうかしら……
女王様、女王様。
よだれが出ております。
本当面食いなんですから……その笑い方はどうかと思いますよ?
猫耳の女の子・チャチャに注意され、あっいけねと女王様がよだれをぬぐう。
美人な人だなとおもったのに、その動作はどこかおっさんぽくて……ちょっと残念な感じがした。
あの……いいかげん、質問に答えてくれないですかね?
あぁ、そうだったわね。
ここはスペードの国。
あなたはワタクシ様によって召還された『皇帝』のカードを持つかもしれないアルカナ候補よ!
光栄に思いなさい!と女王が俺に頬をすりつけてくる。
いや、そんなことを言われてもさっぱりわけがわからないんだが。
女王様、それでは伝わりませんよ。
彼らは異世界から召喚されたばかりで、何も知らないのですから
私が説明しましょうと、チャチャが買って出る。
ここは俺達の住んでいた世界とは違う場所にある魔女の世界。
魔女しかいないこの世界には4つの国があり、常に争っている。
魔女は新しく生まれることはなく、他の世界からさらってくるしかないらしい。
そして今回さらわれてこの世界にやってきたのが……どうやら俺達のようだった。
いきなりそんなこと言われても困る。
さっさと家に帰してくれないかな。
今日スーパーのタイムセールなんだよ!
水曜日である今日は六時から卵が激安だ。
それを手に入れないことには、俺は明日からの一週間をどう生きていけばいいのかわからない。
もはや財布にお金はほとんどなく、この卵を買えるかどうかが……俺の生命線だった。
与えられる生活費から食費を削り、親からの仕送りをできるだけゲームやマンガに費やしたい。
そんな俺の切実な思いが……こいつらには全く伝わっていないようだった。
あなたの事情なんて知りませんよ。
帰りたければ、立派なアルカナの魔女になってください。
そして、数年後に行われるワルプルギスの夜でこの国に勝利をもたらすことです
いや、魔女になれとか言われてもな……俺魔法なんて使えねーし。
そもそも
男なんだけど。
そう言おうとしたら、チャチャがそれを遮った。
もしやあなたの国には、魔法が存在してなかったのですか?
あ、あぁ……
ご心配なさらずに。
あなたは今まで誰も呼び出せなかった『皇帝』のカードを持つ魔女候補。
未知数の力をその身に秘めています。
ちゃんと魔女になるための学園が存在してますし、移住食完全に面倒を見る準備ができているのですよ!
ふふん、とチャチャが鼻を鳴らした。
そんなんで納得すると思ってんのか。
さっさと元の場所に返せ。
このコスプレ女!
自分で言っておきながら、「あっやばい俺も今コスプレしてるじゃねーか」と思ったが、それは気にしないことにする。
いきなり暴言ですか!
可愛い顔してるから大人しいかと思えば、違うみたいですね。
ふふっ、これは楽しめそうです
くくっとチャチャが笑う。
……こいつ性格悪そうだなとなんとなく思った。
まぁあなたの気持ちもわかりますが、あきらめてください。
それに最後まで話はきいてくださいよ。
あなたにとって悪いことばかりではないですから
この国で暮らすにあたっての待遇を、チャチャが説明してくれる。
三食保証、お小遣いも有り。
国が勝利するまで元の世界へは帰れないが、欲しいものは元の世界から取り寄せることが可能。
魔女になるための学園に通い、立派な『アルカナ』の魔女と呼ばれる存在になって、国の代表に選ばれ。
ワルプルギスの夜に行われる国同士の戦いに勝利すれば、元の世界へ帰してくれるとのことだった。
もちろん、あなたが来た時間と場所に、今の姿のままお帰しします。
国が勝利した場合、戦いに参加したアルカナの魔女には1つ願いを叶えて貰える特典があります。
ちょっと間だけ力を貸してくれるだけでいいのですよ。
……悪い話ではないでしょう?
まぁ……確かに
今月メタル○ア5とドラク○ビル○ーズ買っちゃったから、お金がないんだよな。
さすがに仕送りの日まで、一日卵一個と砂糖でカロリーを摂取して暮らしていくのはきついなと思っていたところだ。
ちょっと待て!
何ぐらついてるんだアオイ!
この状況をどうしてそうあっさり受け入れてるんだ!?
そういえばこいついたな。
ずっと黙っていたから、一緒にきたヒカルの存在を忘れていた。
な……なんで男がここに!?
誰が男だ!!
あーそういえば、『皇帝』を召喚する際にうっかり一般人を巻き込んだんだったわ。
まさか男を呼んじゃうなんてね……バレたら大きなペナルティだわ
女王がヒカルに向かって手をかざすと、そこから炎が放たれた!
うわっ!
ちょこまかと!
男は死ねっ!
続いて放たれたのは氷の魔法だった。
本当に……魔女の世界なんだ?
半信半疑だったのに、こうして目の前に現実を突きつけられてしまえば、受け入れるしかなかった。
やめろ! ヒカルはどこからどう見ても男にしか見えないし、中身も男っぽいが、本当にこれでも生物学的には女なんだ!!
おい……お前それは、私に対して喧嘩を売っているのか……?
って、ちょっとまてヒカル!!
誤解を解こうとしただけだろうが!
剣を振り回すな!
それ、偽物だけど痛いんだからな!
『皇帝』がああ言ってますけど……どうしますか女王様?
イマイチ……信じがたいけれど、『皇帝』がそういうのなら、一応は信じることにしましょう。
これで機嫌を損ねられても困るしね。
俺の説得によって、女王はその攻撃を収めてくれた。
ありがとう女王様。
ところで聞きたいんだけど……もしかして、この国で男は嫌われてるの?
女王様のヒカルに対する攻撃からは、殺気が感じられた。
その過剰な反応が……気になってしかたなかった。
この国に男は入れないのよ。魔女の国だからね。
男は魔女の国を破滅に導く害虫だと、昔からいわれているわ。
それがどうかしたの?
えっと……万が一、男がもしも魔女の国に入ったら……どうなるのかな……
そんなの見つけしだい、殺すに決まってるでしょう?
もしくは拷問にかけるとか
当然の処置です
そういえば知っているかしら、チャチャ。
男は股間にキノコが生えていて、それを引き抜くと死ぬらしいわよ?
なんと! 股間にキノコですか!
面妖な生き物もいたものです!!
真顔でとんでもないことをいう女王に、驚きのあまり尻尾と耳がぴーんとなっているチャチャ。
どうやらこいつらはマジでそんなことを言ってるらしい。
珍しいキノコみたいだし、絶対にいつか見つけて食べてみようと思ってるのよ!
女王様は、本当に珍しい物やゲテモノが好きですね。
……先に言っておきますけど女王様。
例えキノコ狩りに成功したとしても、私はそれ、絶対に食べませんからね
取り分が減るから別にいいわよ。
キノコ好きのダイヤの国の女王にも自慢のために一切れあげる予定だし、他にも食べたいって子結構いるんだから。
人数で裂いたら、一人十分の一しか当たらないけど大きいキノコだといいなぁなんて、女王様は言う。
……!
あまりにも酷い会話に言葉を失う。
……これ男だってバレたら、キノコ狩られて殺されちゃう!?
絶対絶命のピンチに、気づいてしまった。