それから、2年半の歳月が流れた…

沢継 煉

みんな!久しぶりだな~!!

 俺は、けやき商パソコン室で開かれたパソコン部の同窓会を訪れていた。

 俺は銀杏大学の3年へと無事に進級していた。

 若林先生から『大学を卒業したら、私の跡を継いで欲しい』という冗談とも思える申し出を叶えるべく、俺は教職課程に就いた。

 けやき商で商業系の検定の1級をほぼ全て取得していたお陰で、大学での講義やテストもなんなくこなし、2年から履修しているゼミでは教育学を教えている高井教授の下、教育学についての知識を学ぶと共に教養を深めている。

嶋尻 真琴

煉先輩!お久しぶりです!!

沢継 煉

真琴!!
真琴とは、今日まで思いのほか会う機会が少なかったな…

嶋尻 真琴

仕方ないですよ!私は煉先輩と違って「就職」という進路を辿りましたから…

 真琴は、俺が引退した後、部長としてパソコン部をまとめ上げ、けやき商を連続優勝へと導くと共に、自身も個人優勝を果たした。

 その功績が認められ、卒業後は大手鉄道会社に就職し、現在は車掌を務めながら運転士となるべく勉強をしているらしい。

鳳城 亜美

あっ。沢継君…

沢継 煉

鳳城!来ていたのか!!
元気にしているのか?

鳳城 亜美

う~ん…そうでもないわね…

沢継 煉

 亜美は、彼氏である俺の友だちと一緒に、俺とは別の大学に進学した。

 だが、その後俺の友だちとは別れ、大学も家庭の都合で中退したらしい…

三枝 紗代

あれっ?
煉先輩!美琴は?

 紗代も、真琴と同様に就職の道を辿った。

 就職先では、事務員としての能力を如何なく発揮し、活躍しているという。

 そして…

嶋尻 美琴

せんぱ~い!待って~…

 俺の背後の廊下奥から、馴染みの声が聴こえてくる。

嶋尻 真琴

ちょっと美琴!また遅刻な訳!?

嶋尻 美琴

はあ、はあ…
違うもん!先輩の足が速くて置いて行かれただけだもん!

沢継 煉

俺は早くしないと遅刻するから「先に行くぞ」って言ったぞ!

嶋尻 美琴

先輩もひどいです!!
新しくけやき商の前にできたペットショップにいた、可愛い白猫ちゃんを見ていて、気づいたらいなくなってるんですから!

沢継 煉

ごめんごめん!置いていったのは悪かったよ。
この通り謝るから、機嫌直してくれ!

嶋尻 美琴

嶋尻 美琴

分かりました!
帰りに駅のカフェで、何か美味しいものを一緒に食べてくれたら、許しちゃいます♪

嶋尻 真琴

はいはい!ご馳走様!!
いちゃいちゃするなら、美琴も先輩も他所でやって下さいまし。

三枝 紗代

相変わらず、美琴ちゃんと先輩は仲が良いみたいね♪

鳳城 亜美

 美琴は今年の4月、無事に受験戦争を突破し、俺と同じ銀杏大学に入学した。

 俺は、学生となってから知り合った友人にからかわれることもあったが、この2年半、美琴との愛を育んできた。

若林先生

よし。全員そろったみたいだな!
それじゃあ、皆の健康と活躍を願って、ジュースで乾杯といこうじゃないか!

嶋尻 真琴

はいっ!若林先生!

沢継 煉

ここに集まったパソコン部OBの健康と活躍を願って!

三枝 紗代

皆さんとの再会を祝して!

鳳城 亜美

嶋尻 美琴

私と先輩の出会いを祝って!

嶋尻 真琴

美琴!?

嶋尻 美琴

すっ、すみませ~ん…

沢継 煉

かんぱ~~~~~~い

 乾杯の瞬間、俺の脳裏をさまざまな思い出が通り過ぎていった。

 今は浮かない表情をしている鳳城との恋愛、その恋愛相談の相手になってくれた美琴、その美琴への恋…
 そして、秋風に誘われて覚悟を決めた告白…

 その告白から2年半の歳月は、俺と美琴を大人へと成長させると同時に、互いにかけがえのない存在となるには十分すぎる時間だった。

嶋尻 美琴

せん、ぱい?どうしました?

 その美しい顔に見とれていた俺に対し、美琴が問う。

 俺は美琴のすぐ横に行くと、耳元で囁いた。

沢継 煉

今までもこれからも、美琴、君のことを愛してる…

 すると、背伸びした美琴が、俺の耳元で囁き返した。

嶋尻 美琴

そんなこと言っていると、抱きついちゃいますよ!

沢継 煉

…ここじゃだめだよ。みんながいるから、さ!

嶋尻 美琴

…はいっ!先輩!!

 俺は、今のこの時間が永遠に続いてくれることを祈らずにはいられなかった。

 でも、祈っているだけでは、美琴との幸せはきっといつか、俺の腕をすり抜けていってしまうことだろう。

 この幸せを失わないためにも、今まで以上に目の前の彼女を愛し、そして愛されるような彼氏でい続けようと、心に誓ったのだった。

fin

第1部 けやき商編 epilogue

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