…私は夜景を見ながら、遠い昔の記憶のようになってしまった高校時代のことを思い出していた…
…綺麗な夜景だろ?真琴!
…
…真琴!?どうした?
気分でも悪いのか?
えっ!?ごめん。ぼ~っとしてた。
気分は悪くないわ。
本当に、首都高速から見るレインボーブリッジは格別よね!
そうだよな!
うん!
…何とか誤魔化せたみたい。
それにしても、私のバカバカ。
何で彼と一緒にこんな綺麗な夜景を見ているというのに、高校時代のことなんか思い出しちゃうのよ…
…私は夜景を見ながら、遠い昔の記憶のようになってしまった高校時代のことを思い出していた…
…亜美先輩!少しぐらい、いいじゃないですか。片付けなら、私たち1年でもできますし
そうだよ亜美。それに、入賞した美琴ちゃんは、来年けやき商に入学する予定らしいしさ
煉先輩の発案で行われた、私が高校1年生の時の『けやき祭』でパソコン部主催で行った入力スピード大会終了後のこと。
私と煉先輩、妹の美琴と当時の部長さんの一団と、次期マネージャー長の鳳城先輩は、部外者である美琴がパソコン室に居るために、大会の後片付けが進まないことでもめていた。
そうは言っても、まだ部外者は部外者です。そうですよね、部長!!
まあ、そういうことにはなりそうだが、もう私は引退しているし、やはり、こういうことはもう煉の判断でいいんじゃないのか?
…分かりました。
でも、部外者であることに変わりはありません。
早めに退室して頂きます!
おい、亜美。なんなんだよ!
別に!
それに、次期部長さん。
あなたが私のことを『亜美』と、いつから呼べるようになったんです?
…それは…
はい、それじゃ片付けがありますから、部外者の方は退室願います
…
煉先輩と鳳城先輩のこういったやり取りは日常茶飯事だった。
故に、私自身はこの状況にも慣れっこになっていたのだが、妹の美琴は違った。
美琴の顔を見ると、目線が明後日の方向を向いている。
どうやら放心状態になってしまったようだった。
私は、美琴の肩を軽くと叩くと、意識を現実世界へと引き戻した。
そういう訳だから、美琴、外に行きましょう
…えっ…うん…分かった。
私は美琴の手を取ると、OA教室の出口に向かい始めた。
…それじゃ、後片付け、宜しく頼んだよ
煉先輩は、ばつが悪そうに片付けを始めたマネージャーの方々にそう言い放つと、私と美琴の数歩後ろから、部長さんと一緒にOA教室の出口へと向かい始めた。
しばらくすると、美琴が煉先輩達に聞こえない程度の声量で話しかけた。
それにしても、あの人、一体だれなの?それに、煉先輩にも何だか可笑しな事言っていたようだし…
あの人は、鳳城亜美。煉先輩と同じ2年生で、パソコン部のマネージーさんよ。
へぇ。で、あれはどういうこと?『亜美』と呼べるとか呼べないとか…
ああ、そのことね…
煉先輩は、どうやら亜美先輩のことが好きで、数か月前に想いを告げたようだけど、返事してもらえていないらしいの。
で、亜美先輩は自分の彼氏にしか、呼び捨てにしてもらいたくないみたいで、煉先輩はそこを逆手に利用して、私たちと同じようにわざと下の名前で呼んでいるようだけど…
…煉先輩が鳳城先輩のことを好いているって分かっているから、私は何も言わないけど、私だって…
そうなんだ、片思いの相手、ね…
美琴は一瞬後ろを振り返ると、煉先輩達に向かって手を振った。
先輩達は、その姿を見て手を振り返している。
私はその姿を見て、美琴に問いかけた。
…美琴、ずいぶん煉先輩のことを気にしているようだけど…。
あなた、もしかして…
そんなんじゃないよ。そりゃ、とってもカッコいい人だとは思ったけど…
そう!
…美琴はやっぱり煉先輩のことを…
…もう、私をからかったのね
美琴と他愛もないやりとりをしていると、不意に部長さんが私達の横まで来ていた。
真琴ちゃんに美琴ちゃん!
今日はこれで部活のイベントは終了したから、特にクラスとかで問題がなければ、煉と一緒に校内を回るといい!!
はい。分かりました
よし!煉先輩の部活以外の一面を見るチャンスだわ!
えっ、煉さんと一緒に校内を回れるんですか…
そうだ。
煉は来年度の部長だから、自分が来年入学して、所属しようと思っている長を、少しでも観察していくといい。
それじゃ、私はこれで…
そういうと、部長さんは手を振りながら、雑踏の中へと消えていった。
その後、後から私と美琴に追いついた煉先輩と一緒に、けやき祭の各ブースを回ることとなった。
ほらっ!クレープ3人前、お待ちっ!!
煉先輩!いいんですか?
煉さん!ありがとうございます!!
ああ。このクラスは去年もクレープ出していて、味には定評があるんだ
煉先輩、甘いもの召し上がるんですね!
!!男が甘いもの、なんておかしいだろ!?
でも、俺は大好きなんだ!
そうなんですか!何だか、先輩の意外な一面を見れた気がします!
煉先輩…やっぱり素敵です…
こうして私は、模擬店で飲食したり、展示ブースで趣向を凝らした展示を見て楽しんでいるうちに、煉先輩の意外な一面をたくさん見ることができた。
そうこうしているうちに、夕日もすっかり落ちて、あっという間にけやき祭の終了時刻となった。
煉さん、今日は本当にありがとうございました!
私、一生懸命受験勉強頑張って、来年けやき商に入学します。
そして、煉さんの下で一緒に部活動を頑張ります!
美琴ちゃん。
その日が来ることを、俺も願っているよ!
煉さん…ありがとうございます!
私はクラスの後片付けがあるから一緒には行けないけど、気をつけて帰るのよ
今日は美琴のお陰で、煉先輩と一緒の時間をたくさん過ごせた…
やっぱり先輩は素敵な人だ…美琴も先輩のことを好いているみたいだし、私からもアクション起こしていかないと!!
分かったよお姉。
煉さんもお元気で!
美琴は煉先輩と固い握手を交わすと、けやき商を後にした。
それじゃ先輩!また次の部活で!
今の私に何ができるかはわからないけど、煉先輩に困っていることがあれば、全力で力になっていこう…
そうすれば、煉先輩もきっと…
ああ真琴!また来週な!
そういうと、私は先輩にペコッと一礼すると、自分のクラスへと戻っていった。
第2話 に続く