サキはこの駅から週に2日塾に通っていた。
サキはこの駅から週に2日塾に通っていた。
妹の死因は知ってる……?
ニュースで観ました……。
特急電車が入って来た時、ホームから転落したって……
……事故と自殺
両方で捜査してるんですよね……
そう……
本当のことはまだわからない……
私たちは在来線の駅から地下鉄の方へと歩き出した。
ホームは工事をしていて通路が普通よりも狭い。
だからといってそれが事故に直結するとも思えない。
アノ夢を見て、サキも普段から周囲にも気をつけていたはずだ。
霧斗さんは、アノ紙を広げてしばらく見つめていた。
それからホームをグルりと見回す。
白い壁……
そう言われて改めて工事されているホームを見てみると、工事中と張り紙のされた白い壁の様な囲いが
ホームの至る所にある事に気付く。
鉄の……扉……
絵莉の目の前には、鉄製のホームドアがある。
自殺や事故防止の為にホームと線路の間に取り付けられているその扉は、サキが事故にあった時に誤作動があり開いてしまったとニュースで言われていた事を思い出す。
目撃者の証言では、サキは自分から開いた扉から線路に飛び込んだとも言われていた……。
事故、自殺、ともかくサキの死の真相は霧斗さんの言う通りまだわからないのが現状だ。
…………
霧斗さんはある一カ所の場所で立ち止まった。
どうかしたんですか?
…………まだ、残ってる
残ってる?
ナニが……ですか?
人は強い恐怖や悲しみの感情を、時に場所や物に残すことがある……
特に死ぬ直前の感情は残りやすい……
それって……残留思念とかっていう……?
そう……
そっと白い壁に、霧斗さんは左手を付いた。
君たちも、見てみる……?
…………えっ?
私は言われるがままに手を引かれ、壁に付いた彼の手に手を重ねる。
…………へっ?
あの……
戸惑う絵莉の手を、霧斗さんは右手で握った。
目を閉じて……
言われた通りに瞼を閉じる。
一瞬、頭の中に光が走った。
不思議な感覚、何かが頭の中に入り込もうとしている。
そして──
ぼんやりとした映像が頭の中で流れ出した。
大丈夫、絶対大丈夫よ……
塾への行き方も変えたもの、白い壁と鉄の扉のあるビルも私の通る道にはない、大丈夫よ……
コレは──
サキの……
現在、駅改装工事中の為、ホームが大変狭くなっております……
まるで、自分がサキになったようだ。
私の頭の中にサキの思考、周りの音や声が鮮明に聞こえ、周囲の景色もサキの視点から見える。
そして────
駅に着くと、サキはホームを見て愕然とした。
……白い……壁……
さっき私が見ていた白い仮囲いが、ホームにずらっと続いている。
やっ、やだっ!
なんでよっ!? この前はこんなの無かったのに……どうしてよ!!
長いホームに沿って、ずらっと白い壁が立ち並んでいた。
白い壁、白い壁……鉄の……
次に視界に入ったのは、あの鉄製のホームドアだ。
……扉……いや、いやよ!
白い壁、鉄の扉……ひっ、光……そうよあと一つ揃わなきゃ……
すると突然──
目の前が真っ暗になった。
えっ? ナニ……?
サキの不安そうな声だけが辺りに響いている。
なっ、なによ!?
なんで暗いの?
ザーッ………………………………
どこからかノイズのような音が聞こえて来る。
……な……ザーっ……サン……
…………が……ザザーっ……
なっ、ナニ……?
誰かいないの?
サキは音のする方へと進んでいった。
すいません!
誰かいませんか!?
…………マ……ス……
何かのアナウンスに聞こえる。
だが声は途切れ途切れで言っている意味はわからない。
その時────
死出ノ国ヘノ行キカタハ……
アノ女の声だ!
えっ…………!?
暗闇の中、周りを見回すが女の姿は見え無い。
死出ノ国ヘノ……ィ……行~キカタ……ハ……
再び、女の声がした。
はっきりと、まるですぐ後ろにでもいるかのように、アノ女の声が聞こえた。