真っ赤な満月の夜だった。

 俺は、大豪邸の寝室にいた。

 そこには重々しくおごそかな家具があった。

 ひと目で高級なものだと分かる巨大なベッドがあった。

 石造りの床は、ピカピカに磨かれていた。

 床にはボロボロになった衣類が散乱していた。服を脱がされた女が突っ伏していた。

 そして女を、俺が踏みつけていた。

いやあァァアアア!!!!

 女は絶望に身悶え、悲鳴を上げていた。

 それが復讐を果たした俺には、心地良く聞こえている。

 快美に満ちた音楽のように聞こえている。

痛いッ! 痛い痛い痛い痛い痛いィ!!

 女の絶叫が響きわたる。

 しかし、どれほど叫んでも懇願しても、無駄である。

 救いに来る者など、ひとりもいない。

 俺は残忍な笑みで、女を見下ろす。

 女を踏みつけている足に、ふたたび力をこめる。

 まっ白な女の肌に、革靴のカカトがめりこんでゆく。

痛いッ!

 女が悲鳴を上げる。

痛い、痛い痛い痛い痛いィ!!

 女が悲鳴を上げている。

止めなさいッ!

 と、美由梨(みゆり)が悲鳴を上げている。

もう止めてッ!

 と、綺麗な金髪をぐちゃぐちゃにして、美由梨が悲鳴を上げている。

もう止めて! 止めてッ……

 と、学園理事長のひとり娘・鷹司美由梨が、悲鳴を上げているのだ。

 そして彼女は、俺に向かって一心にこう叫ぶのである。

止めてください!!

………………

 俺は、彼女の懇願を無視した。

 沈黙を楽しんだ。

 それから全能感に満ちてこう言った。

なぜ止めないといけないのだ?

 すると、美由梨は床に突っ伏しながらも、凛(りん)として言った。

これだけ反省しているのです! 赦(ゆる)しを乞うているのです!! 赦して当然です!!! それが人の道というものではありませんか!!!!

はァ――!?

 と、俺は息をもらして失笑した。

 それから力いっぱい、美由梨のその豊満な胸を押しつぶすように踏みつけた。

 すると美由梨は、

神だってお赦しになります

 と、あえぐように言った。

 彼女は凛として、しかも、とても清らかな顔をしていた。

 俺はその顔を見て、狂ったように笑った。

 それから、まるで汚物でも見るような目で――かつて美由梨が俺に向けたような目で――吐き捨てるようにこう言った。

おまえまさか、クラスメイトを自殺に追いこんだくせに、天国に行けると思っているのか? 親の力で自殺をもみ消し、何食わぬ顔で学園生活を満喫している、そんなおまえに、まだ、神が救いの手を差しのべてくれると、そう考えているのか?

 美由梨は、なにか言おうとして口をとがらせた。

 俺は、それをさえぎるように言った。

彼女の写真は削除した。これから同じような写真を撮ってやる

やめてぇ!!

ダメだ

ひどいっ!

ああ、そうだな。俺はひどいヤツだ。それは自覚している。だから俺は天国に行けるなどと、これっぽっちも思ってない。だいたい、これだけ下劣で、えげつないことを散々しておいてなァ、今さら改心しました赦してください――ってのは、ふふっ、虫がよすぎるだろ

 絶句する美由梨を、俺は嘲(あざけ)り見下ろした。

 そして言った。

尊厳を奪われた彼女の痛みを思い知れ

格差が拡大・固定化した学校では

権力者はやりたい放題、奪いたい放題

俺たち下層の人間は

地べたに這いつくばって、奪われ放題だ

しかし、俺はあきらめない

権力者の横暴には絶対に屈しない

必ず奪い返す

そんなときは悪いヤツらが最高の味方となる

懲戒免職された元教師

サイバー犯罪者

無敵のケンカ中学生

万引き常習犯

選択肢は2つ
報復か、復讐

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