退屈こそが平和なのか。

平和だから退屈なのか。

昨日も。

     今日も。

          明日も。

何をどうしようとも
ボクの周りは平和で
 退屈なことばかりだ。

――――――暇だな。

この学園で教わる内容は、
就学して1週間で全て理解し終えた。

下らない学力テストでトップになれば、
通知表という紙切れの内容は良くなるだろう。

問題は出席日数という
どうでもいい義務だけ残ったが、
それも校長とあることで
交渉し終えて事なきを得た。

何より、ボクはすでに
博士号を13歳で取得している。

天才のボクが、凡人の義務に従う必要など
欠片もないのだ。

学園の連中は、ある事件を境に
関わろうともしてこない。

煩わしさから全て解放された身に残ったのは、
膨大な空白の時間だ。

―――退屈だ退屈だ。
退屈で死にそうだ。

そう言い続けたからだろうか?

突然、机の上に置いた携帯電話が震えだす。

珍しいこともあったものだ。
この時間なら「彼女」ではないだろう。

まあいい。

この退屈から解放されるのであれば、
間違い電話ですら3秒は許してやろう。

そう思ってボクは通話のボタンを押した。


凪咲探偵物語

~真夏の雪女~
(調査編)

はろー!
私の名前は咲。

都心からちょっと離れた平地にある
この私立高等学園の二年生。

ただ今青春真っ只中!

今日もそれなりに授業を
かたずけて、放課後はのんびりと
過ごそうかなー…

と思っていたんだけれど……
それは10分前の話。

幼馴染にして暴虐の限りを尽くす
一つ年下の男の子「凪」に
呼び出されて、いつもの
図書準備室に来たのだけれど……。

来たか咲くん。

ではちょっと、死体でも
見に行くとしよう。

いきなり何を言っているのよ
アナタは!!

ちょっとコンビニに行こう♪

みたいなノリで…

何って。
だから死体だよ死体。

生物が死を迎え
その生命活動を停止している
状態のことだな。

日本語では他に
死骸、遺骸、亡骸、屍、骸…

そういう事じゃないわよ!!

それで……なんで死体?

うん。
実は隣町の住宅で
奇妙な死体が出らしくてね。

 学者の中でも

《特に有能な》

 ボクを頼って

わざわざ
「いつもの警部」が
自らが説明してくれたんだよ

刑事さん…
16の高校生にそんなこと
頼んじゃだめでしょ…。

有能なのは本当だけど
よりによって凪に頼むだなんて…

なんか言ったか?

謙虚で寛大な心は
大事だと思ってただけ。

ああ、ボクのような
天才のことだな

それを傲慢って言うのよ……

昔からちっとも変わらないんだから……

なに、IQ180で博士号を13歳で取得し
世間では日本のライナス・ポーリングと賞賛されているボクを頼りたくなるのは、凡人にとっては仕方がないことさ。

なんでこんなのと
幼馴染になっちゃったかなぁ…

光栄に思うがいい。

さて、早速出発するとしようか。

- X地区 住宅街 -

ふぅ…暑くてシャツが
突っ張っちゃってるわね…

その無駄にでかい
脂肪のせいじゃないのか?

ちょっと!!
それセクハラよ!?

ふん。

さて、ここが被害者の自宅だな?

あれ?

遺体を見に行くんじゃなかったの?

そういう時は
病院とかだよね?

その前に前菜(オードブル)
を食べるのさ。

どうして死体が死体となったのか。
まずは状況が知りたい

うーん、なるほど。

意外にしっかり考えてるのね。

まぁ、後はボクの趣味だな。

被害者の死亡状況が
とても興味深い。

やっぱりそんな事だろうと
思っていたわよ!!

あれ?
でも、「興味深い」って?

被害者はね。

なんとこの8月の
クソ暑い時期に―――




―――《凍死》したそうだよ?


……へ?

不思議だろう?

実に不思議だろう?

まるで雪女でも現れたかのようだと
メルヘンチックで平和ボケした
意見まで貰ってしまったよ。

刑事さんね……。

あ、ところで凪。
ここって勝手に入っていいの?

問題ない。

警察にも、ここの主人にも
許可は貰っている。

まずは色々と調べるとしよう。

それにしても……
綺麗で大きな部屋だねー。

被害者は本城朱里35歳。

昨日の夜に部屋の
中央にあるソファーで
死んでいたのを夫が発見。

死因は凍死。

クーラーはかかっていたが
少し寒い程度の温度だったそうだ。

目立った外傷や争った形跡もなし。

変な話だね。

だから言っただろ?

とても興味深いと。

さて、君は
そこの台所を調べてくれ。

おっと、手袋を忘れるなよ?

う、うん……。

私が触っちゃっても
大丈夫なのかな……?

ちなみにだが
夫婦仲はあまり
よろしくなかったようだな。

最近ここに引っ越してきたせいか
近所付き合いも悪かったらしい。

なんだか昼ドラみたいね……。

わぁ~♪

何か見つかったのか?

すごいよこれ!

30万円ぐらいする
冷蔵庫に高級食材がたっぷり!

子供か君は……。

いや、まて。

中はどれぐらいモノが入っている?

隙間がないぐらいだよ。

あ、これおいしそう……!

高級アイスがいっぱい!!

触ったら六法全書の角で
首の後ろ叩くからな?

六法全書!?

む……これは……

……なるほどな。

どうしたの?

流し台を見てみろ。

スプーンや大きめの皿……
おそらく被害者は死ぬ前に
食事をしていたようだな。

大きなお皿だね。

あれ?

でも油を使った料理じゃ
なかったみたいだね。

浸けてる水に油が浮いてないもの。

……あぁそうか。

……なるほど!

そういうことか。

が、これはあまりにも……。

えっ、もう分かったの!?

なんで!?

どうして!?

ふん、その無駄に
でかい胸に栄養を
持っていかれてるようだな。

だからこんな簡単なことが
分からないんだ。

なっ!? 

む、胸とか頭とかは
関係ないじゃない!

いいや、関係あるね。

少なくとも理論的に
考えることができないじゃないか。

こんな事件…
事件と呼ぶことすら悩ましい。

でも人が殺されているんだよ?

おまけに真夏に凍死だなんて……
やっぱり事件のはずだよ!

………………フゥ。

溜息をつかれた!?

なら仕方がない。

イマイチおつむが足りない
残念な君に、もう一度
事件を整理してやろう。

むー

まずは茶色い吹き出しを
しっかり調べてみるんだな。

案外単純だぞ?
これは。

う、うーんうーん!?

真夏の雪女(調査編)

次回
真夏の雪女(解決編)
ですよー

真夏の雪女(調査編)

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