今より少しだけ、先の世界。
 今と景色もそう変わらない程度の、そんな近しい未来。
 そこでは、交流できる存在が人間だけではなくなってきていた。

 ーー人口知能。

 人工音声、広大なネットを脳とした、作られた知能。
 今の人工知能は、利便性を重視し感情面や交流といった要素は排除され、いかにも機械的な存在であった。
 しかし、技術は進み、そして、孤独も進んだ。
 便利になればなるほど、人々の結びつきは細く、大きく広がっていった。
 ネットに繋ぎ、SNSなどの交流ツールを使えば、画面の向こうにいる人間とコミニケーションが取れる。
 しかし、その傍らに、実体はない。
 つながっている、しかしそれは、細い電気ケーブルで繋がる絆だ。
 その孤独を、無意識に人々は感じていたのだろう、あるいは面白半分かもしれない。

 ーー交流型人工知能<billion>

 その発売が決定されると、そのダウンロード数は一週間で百万を超えたという。

 それを耳にした、一人の少年が、父親にねだり自分の端末にも入れて欲しい、とせがんだ。
 テストの点数がよかったら、と条件を付けられて必死に勉強し、そしてついに父親からダウンロード用のチケットを渡された。

 楽しみで、震える指を画面に触れさせる。
 自分用のタブレットに踊るbillionの文字。
 そして、小さなぽーん、という起動音とともに、画面に人間のような姿が映し出された。

ビリオン

初めまして、マスター
私は、billion、今日からあなたの端末にお邪魔しました、宜しくお願い致します。

なめらかな電子音声で、そう挨拶した彼/彼女との、生活が幕を開けた。

act.0 cyborgー電気人形ー

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