福島県・磐梯熱海町・蓬山遊歩道。

林道を歩く真。
そのすぐ傍を流れる五百川。

私の家、近所にあんまり同い年の子がいなかったからずっと一人で遊んでました。裏山を散歩しながら歌を歌ったり、花を探したりして。あ、秘密基地も作りましたね

回想。

咲の家。

裸でベッドにいる真と咲。

秘密基地?

そう。ちょっと家に帰るのが嫌な時期があって。そういうときは裏山に作った秘密基地…というか廃墟に私物を持ち込んだ隠れ家でしたが。独りボーっと過ごしてました

何で家には帰りたくなかったんですか?

その時、家庭が荒れてて…姉は16で妊娠して家を出て、母はバイト先で自分とは20も離れた男の子と不倫してて…それを知った父は次第に私に暴力を振るうようになりました

それで、ご家族は?

そのまま自然に離れ離れに。私も父と家にいるのが苦しくなって…中学生にもなってその秘密基地に逃げ込んでました。すいません、リアルホームレス中学生なんです私

…そして、どう生きてきたんですか?

はい、それからは中学を出て、東京で貴子と会って二人でいろんな地方を転々と…私、中卒なんです。卑しい生き方しかしてこなかった

そんな事に引け目を感じないで下さい。僕は…あなたに助けられました。はじめて妹の事を人に話したし、自分の弱さを見せれた。それはあなたが心豊かな人だからですよ

抱き合う真と咲。

真さん…嬉しい

遊歩道。

山の頂上へ歩いていく真。
茂みの中に蔓がたくさんかかった廃墟を見つける。
秘密基地である。

秘密基地。

中に入る真。
古びたラジカセ、本棚がある。
窓の外には花壇。

スノウドロップはまだ咲いていなかった。この土地に冬はまだ訪れていないのだろう

その中の日記ノートを読む。

1996年、11月20日。
もう家 族は戻らないと思う。私はお姉ちゃんやお母さんのような女にはなりたくない。この中で一生ずっと独りでいられないだろうか。花に囲まれ、オザケンを口ずさみながら気ままに生きれないだろうか?

1996年11月21日。
一晩考えたのだけど、春になって卒業したらこの町を出ようと思う。東京で独りで暮らして、お金が貯まったらオザケンのライブを観に行こう

ノートに落ちる真の涙。

もっと早く…もっと早く出会って、彼女の心の闇を知る事は出来なかったのだろうか。そしたら僕は…

1996年3月15日。
予定通り、今日私はこの町を出る事に決めた。悲しいけど悔いは無い。最後にいたずら書き

ノートの末尾に書かれた相合傘。
右側に“松島咲”
左側に“愛真”
と書かれている。

いつになるかわからないけど、もしいつかこの町に帰るとき、好きな人と一緒にこの秘密基地に来よう。そしてここに名前を書いてもらおう…これは一生の秘密。バイバイ 松嶋咲

続けざまに2010年11月20日の日記。

2010年11月20日。
14年振りの帰郷。
この基地も含め、ほぼ変わらない街並みに驚く。無くなっていたのは私の家だけ。
この頃思い描いていた私の未来と現在はどれくらい差があるのだろう。
この頃の私は今の私に納得してくれるだろうか。
まだ彼はこの町を知らない。
私がここに来る事さえもずっと知りえないだろう。
私は誰よりも彼を愛している。
彼は私の運命の人。
それを今日は記しに来た。
それが私の宿命だから。
相合傘のフライングはその証

またね

松島咲




僕にとっても

松島咲は運命の女だった。

ただ彼女の宿命を背負うには

僕は余りに弱く

時が短すぎた



続く

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