そりゃあさ、肉体が在った世代で、現実に耐えられなかった人はいたよ?

だけどさー。人員管理のときの出生申請とか、今学校行ってる子供とかさ。見ると、思うんだよ

コイツら、残して死ねないなって

俺たちが、先に行ってやらなきゃって

俺たちは、肉体を知る最後の世代なんだから

でなきゃ、こうまでがんばっている意味無いじゃん

そうだろ?

……

 私は、虚を衝かれたみたいに呆然と彼を見詰めていた。
 彼は前向きだった。常に。いつだって。
 肉体を棄てるとき、私が、恐怖に駆られ立ち止まったときも。

行こう

 怖気付いて動けず、大人も困り果てているところ、私の手を引いてくれた。
 嫌になるくらい、彼はいつも私の前を歩いて引っ張っていた。

……まぁ、こう言ったって、俺たちだって大変だと思うけどな

 彼は、取り繕うかの如く苦笑した。もしかしたら、少々気恥ずかしいのかもしれない。助け舟を出すように私も同意した。

そうね。今更生身で動ける気がしないわ

だなー。だからさ、俺たちががんばらないと、示し付かないじゃん!

 後続の世代に。彼は軽く言うけれど、星に着くとき、私たちだって、どうしているかも判然としないのに。考えて。

目的地に着くころには、おじいちゃんおばあちゃんかもよ?

 指摘すれば、彼は実にあっさり。

それはそれ。これはこれだろ

 簡単に言い切ってくれる。ここまで来ると、私も笑いが洩れて来る。

私、

うーん?

あんたのそう言うところ、好きだわ

っ!

 大きくは無いけれど、止まらない笑いを抑えつつ、私が零すと、なぜか彼が顔を逸らした。私はきょとんとして、この拍子に笑いも引っ込んだのだけど、どうしたのだろうと覗き込んだ。

どうしたの?

……。どうもしません

何で逸らすの

逸らしてません

嘘仰有い

 私が覗く、彼が逸らすをしばらく続け、埒が開かないので不機嫌を隠しもせず睨み付けた。しばしその状況で膠着状態に陥っていたら彼が観念したらしく。

スタート地点に辿り着いたら、話します

 と宣うので賺さず私は返した。

死んでるかもよ

 どっちが、とも明言しないけれど。そうしたら彼はばっとこちらを勢い良く見た。だって、おじいちゃんおばあちゃんの可能性が在るなら、死んでいても不思議は無い。彼も同じ思考に行き着いたのだろう。凹んだみたいに。

今度、今度申し上げます……

 顔面を両手で覆って項垂れた。何で敬語。思いながら、私は敢えて言及しないで上げることにした。

 星を探す旅は、いつ終わるとも知れない。
 ここに物質的なモノは存在しない。肉体や植物、そう言った生物を構築するための様々な元素は積んでいるけれど。
 また、実体の無さから、私は己を見失うかもしれないけれど。
 だけれど。

“俺たちが、先に行ってやらなきゃって”
“俺たちは、肉体を知る最後の世代なんだから”
“そうだろ?”
 私の生きている意味を示してくれたから。

 まだ、私はがんばれる。

 大丈夫。

   【 Page loaded! & END| 】

pagetop