鞄を持ち、慌てて飛びだす友人の背を見送りながら実里は溜息を吐いた。入れ替わりに店内に入り、今までみせりが座っていた席に座る青年の顔を見たからだ。
……みせり、バイトの時間じゃないの
え? あっ! ありがとう実里!
鞄を持ち、慌てて飛びだす友人の背を見送りながら実里は溜息を吐いた。入れ替わりに店内に入り、今までみせりが座っていた席に座る青年の顔を見たからだ。
……
みせりならもう大丈夫。あの子、仮に忘れ物しても戻って来ないから
……そうか
あの子が居たからメールは見れてないわ。でも、貴方が私にメールを送ったって事は何か不都合でもあったのかしらね
それは、お前の方がよく分かっているんじゃないか
……あの警察、ね
実里は青年――斉藤正樹のメールだけはバイブレーションの種類を変えている。わざわざ携帯を開かずともそれが何らかの強い意味を持つということが分かるようにだ。
実里の言葉に、正樹は暫く黙り込んだ。注文を取りにやってきたウェイトレスにも何も言わないので、実里が代わりに「ホットのレモンティーを」と答える。
……いいわよね
ああ
で、何?
あの警察、少し厄介そうだぞ。何か気付かれたんじゃないのか?
いいのよ別に。私を調べてくれる分には何も出ないし、私を経由して貴方が調べられたとしても大丈夫
……全員もう分かってるっていう訳か
俺達は、共犯だってことを
と、今度は正樹の携帯が小さく振動する。丁度ウェイトレスが運んできた紅茶をちらと見やり、正樹は携帯の画面を見た。
誰?
中島と山崎だ。大方、単純な手に出ようって腹だろう
ああそう。私は構わないわよ。どうせ私は黙ってるだけなんだし。みせりさえ消してくれるなら、それで
…………
今更罪悪感でも? 遅いんじゃないかしら
……山崎があんなことをしなければ、こんなことにはならなかったのに
たらればは無意味よ。悪いけど、私は巻き込まれたくも無いし、捕まりたくもない。だから黙ってるの
…………そうだな
ほんの少し冷めた紅茶を正樹は口に運んだ。砂糖も入れていない紅茶は、正樹にはいつもより苦く感じた。
今日は進展無しか……。まぁ、みせりちゃんからメールは来たし、こっちは少しずつでいいか……
ま、最悪ちょこっと強行手段に出てみてもいいが……。とりあえず明日にならんとハローさんと話せないし、今日は帰って休むか
そういやふぁんしーあいらんど更新されてから見てねぇな……軽くやってから寝よう
恵司は乱雑な思考に身を任せながら夜の街を歩く。時間帯のせいか人通りは少ないが、街灯は明るい。どことなく夜のこの空気が好きな恵司は機嫌よく道を進んでいた。
……にしても、あの実里って女の子、もしかしてわざと俺に警戒させたのか?
頭が悪い様にも、単純にも見えなかった。何かから目を逸らして欲しいのか、それとも自分に目を向けて欲しいのか――
ふと道に立ち止まり、考え込む。しかし、彼には警戒心というものが恐ろしく欠如していた。だから、彼は深く思考を巡らせる自身の背後に、人影があることには微塵も気付けずにいたのだった。