チュン...チュン...

頭が痛い。なんでだっけ?

夢うつつに歌川広重は思った。
目を開けると世界が歪んで見える。

広重

ああ、そうか、俺、夕べ寝落ちしたんだ。

文机の上、開かれたまま仮閉鎖(すりーぷ)状態になった機械帳面(のーとぱそこん)の前で、突っ伏したまま朝を迎えたことに気づき、ちょっと青ざめる(ぶるー)。

体も心も、何となくだるい。
気ままな一人暮らしの身が甘えを生んで、
もう、このまま二度寝してしまおうかと投げやりに思いかけて、背後に人の気配を感じた。

広重

……誰?

縁側に、誰かいる。

かッチこッチ…かッチこッチ…

柱時計の音が不気味に響く。

トロンと眠りかけていた脳が、氷水を浴びたように急速に寒熱を繰り返し覚醒を促す。

キーーーーン
耳鳴りがした。

ずるずると不気味な衣擦れの音がする。
不審者が縁側に腰掛けたようだ。

心臓が早鐘を打っても、広重は文机に突っ伏したまま後ろを振り返ることができないでいた。

どくん、ドクン、どくん、ドクン…

一分もそうしていただろうか。
だが広重にはそれが、無限の時間に感じられた。
だから、不審者の盛大なあくびを聞いた時、広重はなにもかも馬鹿らしくなってしまったのだ。

ふぁー~あ

広重

……

広重はくるりと振り返り、二分前まで不審者だと信じていた絵師の顔を見据えた。

北斎

彼こそが稀代の絵師で広重の恋人、葛飾北斎その人である。

これは、付き合い始めて三年目なのにまだ数回しかHが出来ていなくて欲求不満気味の広重と、どっちかっていうと絵の方が大事だけど広重も大事・・・かな? と曖昧さを滲ませつつもそこは、ねぇ? 的な北斎の日常を現代風にアレンジしたようなしないようなお話です。

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