裏風紀委員会

01,純真可憐、ストーカー女子高生

社(やしろ)優仁(まさひと)は、
本校の女子生徒へ性的暴行を働いている

　そんなおかしな文面の紙が、今朝、職員室に貼り出されていた。

　データも監視カメラの映像も残っていなかったが、テストプリントした紙が数枚見つかったことから、学校のパソコン室で刷られたものだと判明したのが昼休み。

　当然、臨時職員会議が開かれることになり、午後の授業は中断。

　生徒達はその会議に喜び、早く帰宅する者や部活動に励む者……教室でお喋りを続ける者と、個々に楽しく放課後を送っていた。

　もちろん、職員室内の空気は打って変わって、陰鬱である。

　女性教員や新任の男性教員は同情の言葉を漏らすも、年配の教頭は怒り心頭といった具合だった。

　アハハと苦笑いしながら頭をかいているその男こそ、社優仁である。

　ダボッとしたカーディガンと首から下げたネームプレート。
　黒淵の眼鏡とサラサラと揺れる綺麗な黒髪はまさしく、文系男子といった感じだ。

　二年の学年主任である女性教員はやたらと社の肩を持つのだが、それも彼女達が先程から話しているよう、社の外見・内面の双方に問題はあった。

　
彼のニコニコとした物腰柔らかな笑顔と整った顔立ち。

　押されれば敗けてしまう弱さ、そして不必要なほど人の良いその性格。


社という教員に本気で恋をする女子生徒が現れるくらい、また教員からも好意を持たれる男は、この学校で知らない者はいない程だ。

　体育の教師が教頭側に寄った所で女性教員達からブーイングの嵐。

　当の社はというと、こそばゆさと口の挟みづらさからずっと会話に入ろうか入るまいか口を開け閉じしている。

　今日朝イチで職員室へ到着し、件の紙を発見した一年生の数学教員が声を上げる。

　それを聞いてそうだそうだと教頭は紙を揺らす。

昨日の放課後、
社優仁から性的暴行を受けたという密告があり、
通達した所存である

　教頭の鬼の形相に迫られた社は言葉を探すのに必死で目が泳いでいる。

　他の教員も尋問じゃないんだから……と教頭をなだめようとした、その時だった。

　と、ある女子生徒の声が扉の開く音と重なって聞こえた。

　何だ？　とドアの方へ全員で目をやると、そこにはつい先週入学したばかりの一年生女子が。

　向陽と呼ばれたその女子生徒は他の生徒達同様、社の外見にやられた口のミーハー系女子と言えば良いだろうか。
　イケメン教師のピンチを救おうと待機していたらしい。

　向陽の掲げる携帯に表示された写真には確かに、自販機には置いていない缶コーヒーを手にレジに並んでいる社が写っていた。

　撮影時刻は十六時二十一分。放課後だ。

　そして消される証拠写真。
　事件の内容を知っている教員全員がその目で確認したということで、証拠はもういらなくなった。

　その言葉で臨時職員会議は幕を閉じた。

　やれやれという言葉がちらほら聞こえ、教員は各々自分の仕事に戻りにデスクに着いたり外へ出て行く。

　向陽に圧倒されながら社は愛想笑いを浮かべると、何かを閃いたように辺りをキョロキョロと見回し、それから向陽に声をかける。

続く...