我らSR同盟ですぅー!

はーっはっはっはー

道を開けるっすよー!

 と、名乗るみんながレッスン場に殴り込んだのは、本日のことだった。
 みなさんはぽかーんとしています。

 ミミタンやはなびちゃん、瑠璃ちゃん、それに他のRの子たち。
 中でも、あの三春さんまでぽかーんとしていたのは、珍しいものが見れたなあ、という感じです。

 なのですが……。

はっ、芦原愛子! なんであんたまでそっちにいんの!?

ひょえー

 見つかってしまいました。

こ、これには事情がー……

どうせ情にほだされたか、ただ単純に流されただけでしょ!

はなびちゃん、わたしのことよくわかっていますねぇ~……

まったく、あんたどんだけ八方美人なのよ!

び、美人だなんてそんな! はなびちゃんにそんなこと言われたらわたし、舞い上がっちゃいますよぉ!

だめだこいつ、話通じないわ!

 はなびちゃんが地団駄を踏みます。

 それはともかくとして、キューちゃんはRのみんなにノリノリで指を突きつけます。

勝負ですよぉ! レアのアイドルたち!

ええっ!?

キューたちに負けた場合、あなたたちは一生キューのドレイとして過ごすのです! ドレイアイドルです!

略してドレイドルだー

なぜ略す意味が……

 それはわたしにもわかりません。
 はなびさんは腕まくりします。

だったらあんたたちが負けた場合、あたしたちRのドレイドルになるってこと?

ドレイドルさっそく定着しちゃった!

というわけで、そっちからも代表の三人を選んでくださぃ。キューたちSRアイドルとアイドルの腕を競って、勝負ですぅ

望むところだわ!

 なんてスピーディーな展開なんでしょう。
 売り言葉に買い言葉。はなびちゃんは拳を握り締めます。

あんたたちにギャフンと言わせてやるわ!

ぎゃふんて

……

 とまあ、そんなのを眺めながら、わたしはふと思いました。

わたしが拉致されたの、なんで!?
















はい、というわけで始まりました、ドレイドル決定戦!

解説はわたし芦原愛子と、白雪瑠璃でお送りいたしまーす

なにやってんのよあんたたち

 というわけで、なし崩し的に始まったこの対決。

第一回戦はスマイル対決ですね、瑠璃ちゃん

アイドルには笑顔はとっても大事ですもんね!

 先鋒として現れたのは、丘ちゃんだった。

ふっふっふ、丘のミラクルスマイルでばっちりと決めてみせるっす

笑顔かあ。得意なジャンルではあるんだけどねー

 自信なさそうな顔で、R軍団の先鋒、ミミタンも前に歩み出てきます。

このカードどう思いますか、愛子センパイ

やっぱり丘ちゃんのパラメーターはSRだからね、ミミタン選手は苦しい戦いを強いられると思います。ミミタンは逆転を目指してがんばってください!

なお、計測にはこのスピードガンみたいな発揮値測定器でおこないます

科学のちからってすごい!

ではふたりには、自己アピールのあとに笑顔を浮かべてもらいましょう

負けるんじゃないわよー、宮古ー!

がんばるよー

 まず先攻は丘ちゃんである。
 自己アピールが始まった。

SRアイドルの丘恵美っす! イベントでしかもらえない上位報酬の丘は、とってもすごいんすよ! なんたってSRっすからね! こんなSRの丘をよろしくっす!

 ぺかーという笑顔を浮かべる丘。
 だが、それを聞いた各々の顔は微妙です。

SR、SR、って……

それしか言っていないわね

丘さん使えないですねぇ

ええっ!?

 後攻がミミタンです。

初めまして。十七才の高校二年生、宮古ミントです。子どもの頃から歌ったり踊ったりするのが大好きで、それでアイドルをしています。でも一番大好きなのは、お客さんが幸せそうな顔をしているのを、見ることかな。えへへ、よろしくお願いします

ミミタンかわいー!

 わたしは骨抜きにされました。
 でろーんと机に広がるわたしの横、瑠璃ちゃんがうなずく。

さすがミントセンパイです! 天使です!

で、でも! ステータスは嘘つきませんよ!

 丘ちゃんが叫ぶ。
 確かにその通りです。どんなに印象がよくても、結局はステータス次第なのです。ああ、ソシャゲの世界せちがらい。

 だけど、測定器の結果、スマイルパワーはミントちゃんが僅差で優っていた。

よかったぁ~

 胸を撫で下ろすミミタン。
 その横で、丘ちゃんが狼狽している。

な、なんでっすか!?

愛子センパイ、これって

スキルが発動したんですよ!

 ミミタンのスキル『笑顔のおまじない』はその通り、スマイルパワーをパワーアップするものだ。
 その力で、丘ちゃんを上回ったのだ。

そ、そんなぁ……

 丘ちゃんはがっくりしていた。
 そんな彼女を見下ろして、キューちゃんがニコニコとつぶやく。

ああ、丘さんはホンットに使えないだめだめのダメSRですねぇ~、ノーマルからやり直したほうがいいんじゃないでしょうかぁ

うわぁぁぁぁん! もうノーマルはイヤっすぅぅぅぅ!

 あれ?
 わたしは目をごしごしとこする。

 気のせいか、キューちゃんはとっても楽しそうに微笑んでいた。






 そして第二回戦は、ダンス対決です。

さ、かかってきなさい!

腕組みして立つはなびちゃん! 自信満々です!

喜多村センパイが一番得意なものは、ダンスですからねー。センパイのステップ、いつも参考にしています

そして対するはー、SRの青き流星、陽子ちゃんですよー!

うん、よろしくね

 はなびちゃんに微笑みかける陽子ちゃんは、自然体です。
 むしろどちらかというと、はなびちゃんのほうが気負っているみたい。

 そして、曲が流れ出す。


 今回はふたりが同時にダンスをします。
 陽子ちゃんはきたばかりなのに、新曲の振り付けを完全に覚えているようだ。
 すごい、すごいなあ、SRって……!

……ふぅ……ふぅ……

 指先までピンと伸ばして踊る陽子ちゃんは、とても綺麗でした。

 それを横目に、はなびちゃんの顔がこわばってゆきます。
 
 そのとき。

……ふふっ……

 陽子ちゃんが口元にあどけない笑みを浮かべました。
 それは、体を動かすのがとても楽しいと言うような、無垢な笑顔です。

 曲が終わると、はなびちゃんはタオルを受け取って汗を拭きます。
 けれど陽子ちゃんは楽しそうに伸びをしました。

ううーん、いいきもち。ね、また一緒に踊ろうよ、はなび!

……べ、別にいいけど

ふふっ、夢中になれるなにかがあるって、とっても素敵なことだよね

……まあ、そうね

 はなびちゃんが目を逸らします。

 結果は、SRの貫禄を見せた陽子ちゃんの勝ち。

……

 こうしてドレイドル決定戦は、一勝一敗で大将戦にもつれこみました。

 第三回戦。
 つまり、最終戦です。

相手方はSR同盟のリーダー、キューちゃん! 対するは、R軍団一番の歌唱力を誇る歌姫、ミハリンポンです!

誰がミハリンポンよ

というわけで、勝負内容はソング対決です! キューちゃんとミハリンポンセンパイのどちらに軍配があがるのか!

え、白雪さん、あなたもなの?

 三春さんが絶望した顔でつぶやきました。
 対するキューちゃんの目は、希望に輝いています。

このキューが引導を渡してあげるのですぅ、ミハリンポンさん!

待って。ミハリンポンは私の名前じゃないわ

 腰に手を当てて胸を張るキューちゃん。
 三春さんはなにかを考えるようにして押し黙る。

じゃあ、課題曲は新曲の『まっすぐアイドル!』で、よろしいですかぁ?

……

異論がなければそれで――

待って、キューさん

 三春さんは手を挙げました。

このまま勝負しても、私の負けは目に見えているわ

えっ

ちょ、ちょっとなに言ってんのよ、矢中!

 三春さんはいつも通り、涼しい顔です。

SRのあなたとRのわたしのパラメーター差は歴然よ。だから私は棄権しようと思っているわ

矢中!

 はなびちゃんの疾呼の奥。

 しかし、そんなとき。
 ――徐々にミューちゃんの顔が暗くなってゆくのが見えました。

 あれ……。
 このままなら勝てるはずなのに……。
 どうしてだろう。
 

で、でも! そしたらあなたたちがドレイドルになるんですよぉ! わざわざなりたいっていうんですかぁ!?

そ、そうよ!

今さらだわ。だってもともとそういうものでしょう

え?

 先ほどまでの喧騒が嘘のように。
 レッスン場が静まり返りました。

Rは絶対にSRには勝てないわ。ステータスの上限が決められているもの。いずれ、SRが十人揃えば、私たちはみんなお役御免になるでしょう。どんなに取りつくろっても、それは避けられない未来だわ。だったら別に、今ここでRがSRのドレイになるのも、変わらないことじゃない?

そ、それは

 三春さんの静かな圧力に、はなびさんが息を呑みます。

個性や好みなんて、しょせんパラメーターには勝てないの。むしろパラメーターが高いからってメンバーに入れているうちに愛着がわいて、徐々に好みになってゆくものだと思うわ。好きだけで続けられるほど甘い話ではないの。SRの子だって、より強いSRが出てきたら、『餌』にされる宿命よ。そうでしょう?

そ、それはぁ……

……

餌、餌はもういやっす……

 SRの子の顔も、どんどんと暗くなってゆく。
 そのときだ。

そ、そんなことないと思います!

 そう叫んだ途端。
 みんなの目がわたしに集まった。

……愛子さん?

あ、えと、あの

 どうして口出しちゃったんだろう。
 でも、なんか、嫌な気がしたんです。
 三春さんがそんな風に言っちゃうのが。

わ、わたしはアイドル好きですよ! どんなにつらいことや、苦しいことがあっても、ライブをしているときはすごく幸せですし、レッスン楽しいですもん! 好きって気持ちは、とても強いんだって、わたしは思います!

……そう? でもそれはあなたのことでしょう。ここで問題としているのは、プロデューサーのことよ。あの人の手の中に私たちはいるのよ

ぷ、プロデューサーさんだって!

 わたしは叫ぶ。

一緒にトップアイドルを目指して走り続けてきた人を、そんなに簡単に『餌』にしちゃえるような人じゃないって、わたし、信じてますもん! わたしたちの好きって気持ちが伝われば、それはパラメーターなんかよりずっと大事なはずです!

……

だ、だって

 わたしは思い出していた。
 そう、かつて自分が『ソシャゲのプロデューサー』だった頃の気持ちを。

 いつまでたってもノーマルから昇格しないアイドルの子がいて。
 でも、その子のことが好きだったから。
 わたしは、ずっとその子をセンターに置いていた。

 弱いアイドルだったけど。
 でも、そんなのは関係ない。
 好きだったのだ。

 これは、強さがすべてのゲームじゃない。
 アイドルを育成するためのゲームだから。
 だから、ノーマルでも、レアでも、スーパーレアでも。
 その子の価値は、自分で決める価値なのだ。

 わたしたちのプロデューサーがどういう人かわからないけれど。
 でもわたしは、プロデューサーを信じたい。
 だって、わたしたちのプロデューサーなんだから。


 わたしはぽろぽろと涙を流していた。
 だって、だって。

……だから、三春さん、もう自分が『餌』にされちゃうみたいなこと、言わないでくださいよぉ……。みんなで一緒に、これからもアイドルやりましょうよ……、ね、三春さん……

そうね

 三春さんがわたしの頭に手を置く。

ごめんなさいね、愛子さん。悲しい気持ちにさせてしまって

うぇぇぇん、三春さぁん……

ということで

 三春さんはキューちゃんに笑いかけました。

この子も泣いちゃったし、勝負は延期にしない? きょうはこのまま、レッスンしましょうよ。みんなで

 キューちゃんは怒ったような顔で、頬を赤らめながらつぶやいた。

し、しかたないですねぇ。SRのキューたちも一緒に加わってあげますよぉ、今回だけですからねぇ~

うふふ、ありがと

 徐々に喧騒がレッスン場に戻ってくる。
 その中で、三春さんの微笑みは、やけに色っぽく見えました。












 結局。

おー、きょうも『特訓』すっかなー

 えー!?

 と、そんな風にわたしたちの日々は続いてゆきます。




















 ある日、落ち着いた頃にわたしは三春さんに聞いてみました。

もしかしてあのときって、三春さんがひとりで悪役になるつもりだったんですか?

……え?

SRの子たちが一緒にレッスンに混じりたくて、でもそれをRの子たちが受けいれなかったから、だから自分が悪役になって壁を取り払おうって

愛子さんは、想像力が豊かね

 三春さんがわたしの額をツンとつつきます。

私はそんなに優しい人じゃないわ。愛子さんと違って、ね

え、ええー?

 微笑みを残して、三春さんはその場を去ってゆきます。
 三春さんは初めて出会った頃から、ずっとずっと優しかったけどなあ……。

 なんだか煙に巻かれた気がします。  




















 わたしがふとレッスン場を見ると、SRの子たちもRの子に混ざって、ダンスをしたり、歌ったりしています。

 それはSRだとか、Rだとかも関係がない、アイドルを目指しているみんなが一丸となった、とても素敵な光景に見えました。

 
 よっし。      
 きょうからもまた、アイドルがんばるぞー。

おー!














――そして、わたしたちは新たなるステージに向かいます!

 すべて書き下ろしのイラストで描かれる、『ソシャつら』の新たなる物語。

 公式版『ソーシャルゲームの世界に転生したら、さっそく合成材料にされそうでつらたんです』

 https://storie.jp/official/storie-official/10721

 毎週火曜日更新。

 どうぞお楽しみください!





第18話 「さよならレアリティ」(後編)

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