【第二十話】
『無限じゃないっしょ』
【第二十話】
『無限じゃないっしょ』
行くぜ!チェンジ・ソぉぉードアぁぁぁぁぁーム
声と同時に右腕が光を放つと、右腕は剣の形状へと変化していた。
左手のチェーンアームで天井に鎖を伸ばすと、トキオの身体は浮き上がり、まるでターザンの様に移動すると、遠心力を活かしたまま獣との距離を一気に縮め、右腕のソードアームで獣の背中を斬りつけた。
しかし、攻撃は浅い。
着地と同時に獣の両足―――いや、身体が飛んで来る。両手を地面に置いて、腕の反動で身体ごと放つ攻撃は野生そのものだった。
でも当たらないんだな
トキオはこの獣の攻撃を自分のソードが浅かった時から既に読んでおり、容易に避ける事ができた。
振り返れば後方に飛んだ獣と目が合い、間を置かずに突進してきた。当然それを迎え撃つが、トキオは身構える事も避ける事もせず、左手を前に突き出すだけだった。
その腕は先程までの鎖が巻かれた腕ではなく、銃の形状へと変化していた。
しかし、銃口から放たれるのは弾丸ではなく大量の煙り。
トキオの周りから周囲に煙が立ち込めた。
当然、煙幕程度で獣の動きは止まる事もなく突進は続いたが、トキオが本来立っていた場所には既に彼の姿はなかった。
目標に当たる事のない攻撃は止まる事が無いはずだった。しかし、獣の動きはピタリと止まり、その場に前のめりに倒れ込む。
やがて、自然と煙幕がかき消えると獣の足には一本の鎖が巻かれているのが見える。その鎖はトキオの左腕と繋がっており、自動で手元へ引き戻るその鎖と周囲に広がった煙幕が獣の虚をつき足を取る事ができた。
チェンジ・スティングアームっ!
トキオの声に反応し右腕が針の形状へと変化し、トキオは跳躍して倒れた獣の背中めがけて右腕を突き立てた。
砕っっけろぉぉ
突き立てた拳―――いや、針は背中に大きな衝撃を与えると拳は程度の風穴を開けた。
トキオの攻撃は1度では終わらず、2度3度と背中に風穴を開ける。
その度に獣の声が部屋に響き渡る。もがきながらも腕を振り回す獣にトキオは危険を感じて、背中から離れる。
離れ過ぎず近過ぎずの一定の距離を保つが、左腕の鎖は未だに繋いだままだった。
それが今回は災いした。
当然、息の根を止めていない中、完全な安心はなどはしないが、数カ所の穴を開けた事から次の攻撃まで余裕があると思い、呼吸を整えようとしてしまった。その一瞬が大きな隙となる。
獣はその場でコマの様に回転する、それが獣にとっての起き上がる為の動作であったのか、それとも計算された動きだったのか答えは誰にも分からないが、確かな事は、鎖で自分とを繋いでいたトキオの身体が宙に浮き大きく揺さぶられた事だった。
突然の動きに、あわや壁に激突かという所でトキオの身体が空中で凍った様に一瞬止まる。鎖を自動で手元に引き戻し獣との距離を再び縮める。
直線的に飛ぶトキオに獣は拳を構えて迎撃の態勢を取り、トキオ目がけて正拳突きのスタイルで拳を突き出す。だがこれを冷静に身体を反転させて直線的だった軌道を変えて空中で紙一重で回避する。
獣の足元に着地したトキオは直ぐに目の前の足に右腕を突き立て風穴を開ける。視線を上に向けると、先程背中から胸にかけて開けた傷は既に塞がっていた。
超絶な回復力だね―――でもさ
更に右腕を何度も突き立て、複数の風穴を開ける。
それって、無限じゃないっしょ
腕が上から振り落とされるが、トキオはこれにも反応しバックステップで避け、直ぐに振り落とされた腕に攻撃を当て、今度は腕に風穴を開ける。
更に踏み込み風穴をだらけの足に更に攻撃を加え、やがて足を切断するに至る。獣はバランスを失い、大きな両腕を前に着き四速歩行の格好になる。
その両手で挟む様にトキオを狙うがこれもバックステップで回避される。
未だに残る足にはトキオの鎖が巻かれており、この状況だけは崩さない。次は鎖にわざと余裕を持たせ、急な動きに自分が振られない様に対応している。
ラァァァァァァァァァァギャァァァァァ
獣の叫びが部屋に響くと切断された箇所から新しい足が生えていた。同時に腕に開けた穴も塞がる。
さて・・・次に行きますか!チェンジ・ソードアーム!
右腕が再び剣の形状に変化すると、また鎖の巻き戻しを使い勢いを付けて獣へと突進する。
そして先程と同じ様に相手の迎撃を避け、突き出た腕の肘関節部分を切断し、返す刃で肩口を狙うが切断には至らず、また距離を取る。すると、また獣の切断された箇所から新しい腕が生えてくる。
やっぱし、なかなか簡単に斬り落とせねぇか
三度目の攻撃を仕掛けようとしたが、様子が変わった為にトキオは警戒した。
それは獣の身体から数本の赤色の触手が突き出してきていた。
これに対しトキオは距離を取る危険性を感じて前進を試みたが、遅かった。
鞭の様に動くそれはトキオ目がけて高速で放たれる。
当然目では追えないが、トキオは瞬間的に前進する身体を止め、右腕を顔の前にして大きくバックステップをして距離を取る事で回避を試みた。その瞬間強い衝撃が腕に伝わり獣の攻撃が腕に当たった事を理解した。
チェンジ・シューティングアーム!マシンガンモード!
右腕が銃の形状へと変化すると、トキオは直ぐに獣の目がけてマシンガンを乱射した。
トキオと獣の間で赤いものが飛び散る。
それは弾丸に当たった獣の触手。
攻撃が見えない中の苦し紛れの乱射であったが、効果はある。
だが、相手の攻撃は止まらない。次から次へ飛んで来る触手にトキオの右腕は熱を持ち始め限界を向かえようとしていた―――いや、それ以前に攻撃が徐々にトキオの側に来ていた。
完全にマズったな。無駄に余裕みせすぎた腕も熱ぃし
どんなに知恵を絞っても打開策が見えない中、思わぬ事が起きた。
大きな音が複数響くと共に獣の身体が炎に包まれる。
行けぇぇぇ!七星!
そこにはロケットランチャーを構える左右田がいた。
言われなくても行くぜ!
右腕の鎖を自動で巻き戻し、獣の目がけて一気に間合いを詰める。
焼け焦げる嫌な匂いと爆炎の中、トキオの目に飛び込んできたのは左腕だけが異様に大きく、身体は細々とした獣の姿だった。
やっぱ、そうなっちゃうよね
左腕は盾の様な形状をしていて、焼け焦げた後が多く目だった。それは左右田のロケットランチャーから身を守るための防衛策。
懐に飛び込んだトキオの左腕は先程までの鎖の形状から剣の形状へと姿を変えており、細くなった胴体を横になぎ払い切断した。
吹き飛ぶ上半身。
下半身はその場で崩れ、空気を抜かれた風船の様に萎んでいく。それを確認し、トキオは飛んだ上半身に追撃を与えようと、既に熱くなっている右腕の銃を放ちながら歩を進める。上半身だけになった獣は弾丸を浴びる様に受け続け、肉片を飛び散らせながら、みるみる小さくなる。
剣の間合いに入ると銃を止め、剣で斬る。
―――斬られればそこを修復し、また斬られる。
その繰り返しだった。
お前ってさ、つまり粘土みたいな感じだろ。『回復』じゃなく、身体のどっかを削り失った部分に代用し、減った分はコンバイドを食って補う
気付けばトキオと同じくらいのサイズになった獣は徐々に人と似た姿に変貌してゆく。
でも適正サイズがあるんだろ。大きすぎれば身体の全てを維持できなくなるから維持する為に食う―――それって、結局不便だろ。傷を負えば負うほど回復はするが防御に回す部分が無くなり攻撃も弱くなる。長期戦には向かない・・・ってか、知性が感じられないお前には向かない仕様だわな
たとえ人の姿になってもトキオは躊躇い無く剣を振るった。攻撃を止めたら反撃を受けるという気持ちではなく、目の前の名前すらない悲しい運命の生物を救う為に―――。
安心して眠っていいんだ
その言葉を告げるとトキオは最後の一撃を振り下ろすと、獣は力無くその場に崩れ徐々に萎んで、やがて消えた。