【第二十一話】
『それぞれの正義』
【第二十一話】
『それぞれの正義』
トキオは獣を倒し、坂本が部屋のコンバイドを一掃した今。へたり込む様に座り、放心状態にある大宮の前には左右田と坂本が立っていた。
この星には人類の知らない歴史が数えきれない程眠っています。貴方の言うコンバイドの種は、言わば私その者。私は長い地球の歴史の中、徐々に開花した存在。それを強制的に開花させ、更には人体に送り込み進化を促す行為は決して許されない。しかし貴方は人だ。人間なら人間らしく裁きを受けなさい
坂本は言い終えると左右田を見て頷く。その意図を理解し、左右田は大宮の腕を取り、手錠をかけようとした―――その時だった。
嫌だ!
へたり込んでいた先程までがウソの様に力強く、左右田の腕を振り解き、素早く立ち上がり走る。
嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌ぁぁだ!嫌だぁぁぁぁぁ!
だが、直ぐに大宮は止まる。
彼の前にはトキオがいた。
や、や、やめ・・・止めて
後ずさり尻餅を付く大宮。その先いるトキオは右腕の銃を構えていた。その姿を見て一同は声を上げる。しかし誰よりも早く反応したのは左右田だった。
何をしてる七星!
悪いな左右田さん。俺の目的は親父の仇を撃つ事でもあるんだわ。鳴海も坂本さんも動かないでくれよな
しかし左右田は動いた。一歩一歩とトキオに近づいた。
止めろ
やっぱし、左右田さんは面倒なヤツだな。けど、俺は止めない
止めろ
止めない
左右田は躊躇う事なくトキオに近付く。左右田がどんなに距離を縮めてもトキオは銃口を大宮から外す事はなかった。そのトキオの行動から揺るがない覚悟を左右田は感じていた。
左右田さん。俺はコイツに―――家族を殺されてる。何の恨みもない左右田さんに俺の気持ちはわからないだろ
恨みならあるよ。この人が船橋さんをコンバイドにしたんだ。そして俺の目の前で船橋さんは死んだ
それなら、俺を止める理由もねぇだろ
ある!
じゃぁ左右田さんならどうするんだよ
逮捕する
気づけばあと少しで大宮に触れられる位置まで左右田は来ていた。
・・・犯罪を法律が裁くか、人が裁くかの違い。ただ・・・人は人を裁けない・・・か・・・やっぱし、左右田さんは面倒なヤツだよ
七星・・・
でも逮捕すんのはコイツじゃなく、俺にしてくれよな
―――銃声が響いた。
左右田さんは坂本の名を呼ぶと飛びかかってきた。坂本は大宮の元へ向かう為に走っている。鳴海はその場に座り込んだままだった。
左右田さんは飛びかかる勢いのまま、俺を殴るとそのまま馬乗りになり襟首を掴んだ。坂本は大宮の元へ近付いたが、何も言わずただ首を振っていた。
だから俺の銃は大宮の脳天をしっかりと撃ち抜き、即死だった事を確信した。
馬鹿野郎!お前は馬鹿野郎だ!
左右田さんの大きな声が耳元で聞こえる。
泣いていた。
泣いているのに俺の事を真っ直ぐ見てる。本当に面倒なヤツだよ・・・面倒な程アツイんだ。そんなにアツかったら、俺の固まった気持ちが溶けるだろ・・・ほら。また考えちまうよ。初めて会った時、俺が逃げないでこの人に話してたら結果が変わったんじゃないかって・・・直ぐに力になってくれたんじゃないかって・・・ダメだなアツすぎる・・・。
トキオは泣いた。
やり直しも取り返しも付かない状況に、やり直したくも、取り返したくも無いと決めた気持ちだけが揺らぎ、まるで自分の世界が壊れたようで泣く事しかできなかった。