プロローグ
プロローグ
生まれた時から持っていたオルゴールは、いまも壊れず回っている。
シリンダーに点々と配置されたピンが櫛歯を弾いて奏でる旋律の正体は、かの有名な作曲家、滝廉太郎の代表曲。
『荒城の月』。四つの章からなる、もの悲しいメロディと歌詞が織りなす叙情歌だ。
私はいつも、この曲を聞いていた。
何は無くとも、このオルゴールだけは持ち歩いていた。
だからといって、この曲が好きな訳ではない。何か私にとって意味のある歌詞だとも思わない。文言の一部に地名が記されているが、生憎と私の出生地は全く違うところだ。なのに、いまとなっては体の一部みたいにこの曲とオルゴールそのものが浸透している。
聞いたところによると、これは姿も見せない産みの親が唯一私に残した、最初で最後の誕生日プレゼントらしい。
産みの親がどうなったのかは、いまも分からず終いだ。
だからこそ、これはいまの私にとって、産みの親と私を繋ぐ唯一の線だ。
本当はもっと、繋がっていたいのに。
願わくば、出会いたかった。
点と点の、線上で。