強大で邪悪な魔竜の前に少女が立つ。
刺々しい牙をのぞかせる凶悪な咢を開き吼える竜に対して、少女は面倒そうに一足飛び。
誰の目にもとまらぬ速度で魔竜の頭部まで飛び上がり、一息に叩き潰す。

うー。

お疲れ様ですお嬢様。

本当に忌々しい鐘の音。
デーミック膝。

承知しております。こちらへ。

魔竜の遺骸の片づけが始まる屋敷の外庭で、そのまま少女は正座したデーミックの仕立てのいいズボンの上に頭を伏せて寝転ぶ。

頭が痛い……お話してデーミック。

どのような話にしましょうか。

気がまぎれるならなんでも。
この忌々しい位階の鐘の音をかき消すような話を。

では本日は趣向を変えて唄を謡わせていただきます。

そういったデーミックの口からはしっとりと落ち着いた、優しげな声で唄がこぼれる。

優し気な魔鉱石の灯り ほのかに明るく
疲れた貴方の心を癒すでしょう
街の風にふきつけられて 凍えた心とかすのは
故郷の母の温い手料理 気遣いのあまやかさ
その時貴方は涙を流す 悲しみではなく喜びで
暗き魔界の民 非道にして無慈悲な悪魔
それでもいつしか 求めるは温もり
無垢なる魂に惹かれ いつかは光に帰るが定め
闇の煮凝り 惡の華
それでも還るのは 光あふれる天の国

いかがでしたか、お嬢様。

……そんな歌も、歌えたのね。

長く生きておりますから。

ねぇデーミック。

はい。

私は貴方の無垢な魂になれているかしら?

お嬢様は無垢というよりもの知らずでございます。

なによもう、台無しじゃないの。
いい雰囲気になりそうだったのに。

ふふ、貴女ならそうでしょう。
お嬢様なら、ね。

なによ。
嫌味な男。
ああ、まだ頭が痛いのに……もっと唄を、デーミック。

畏まりました。
我が愛しきお嬢様。

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