マサヨシがヨシキに微笑みかける。
――ヨシキ、おかえり
マサヨシがヨシキに微笑みかける。
ただいまあ!
繰り返しながら、ヨシキはマサヨシにタックルをする。
おいおいと困ったように笑って、マサヨシはヨシキの頭を撫でる。
タカシ兄ちゃんも、ただいまあ!
俺にもタックル。うお、と俺はヨシキを受け止め、マサヨシに負けないほどに頭を撫でてやる。
昨日さあ、気がついたらミドリお姉ちゃん帰ってたね
そうだね
ミドリお姉ちゃんにね、すぐに会えるの、知ってる?
ヨシキが、目をきらきらとさせて微笑む。
どういうこと?
絵本があるの! ヨシキ、ミドリお姉ちゃんの本、すごく好きなの!
そういえば、ミドリは絵本作家だと言っていた。
読んでみたいな
じゃあ、読もう!
うちが舞台になってる絵本もあるんだよ!
でも、特別に一番のお気に入り、見せてあげるね!
いい? マサヨシ兄ちゃん!
おう、遊んでもらえ。……タカシ、いいか?
もちろん、と俺は快諾する。気が紛れる何かがあったほうが、いい。
ところで、ヨシキ。
ミドリお姉ちゃんに絵本を読めばすぐに会えるって、マサヨシがいつも言ってるのか?
うん
こら、ヨシキ!
マサヨシが慌てる。俺はほうほう、とにやついてやる。
セイさんもちゃちゃを入れてくるかと思ったが、サンザシと同じように黙ったままにやついている。
なるほど、サポーターの心得はある程度あるらしい。
読みに行こうか
お気に入りはねーお兄ちゃんの部屋にあるの!
ヨシキ、あの本は特に大切にしろよ
マサヨシが言う。もちろんだよ! とヨシキは言って、階段をかけのぼった。俺も、慌てて後を追う。
ヨシキはマサヨシの部屋に入り、たくさんの本の中から、そっとひとつの本を取り出した。
その動作はとてもゆっくりで、その本がいかに大切にされているかがよく分かる。
これ、すごい本なんだよ
ヨシキが、はい、と厳かに絵本を差し出してくる。
友情絵本、というタイトルの本だ。
ああ、友情絵本ね
俺は微笑んだ。幽霊の男の子が、人間の女の子と友達になる物語だ。
知ってるの?
知ってるよ
ヨシキは目を丸くする。
これ、世界に一冊しかない本なんだよ
今度は俺が、息を飲む。
俺と、マサヨシ兄ちゃんと、ミドリお姉ちゃんしか知らないと思ってたのに!
お姉ちゃんが、中学生の頃に初めて描いた本なんだよ!
いつ読んだの? 凄いなあ、マサヨシ兄ちゃんとそんなに仲がいいんだね!
ヨシキが頬を染めて笑っている。その声が、遠くに聞こえてくる。
矛盾がある。