リーダー格の男の子が叫び、行こう行こうと他の子どもたちが跳ねる。

駄菓子屋、トランプ?

 もしかしたら、マサヨシが言っていた未来的な駄菓子屋とやらの名前かもしれない。

敵情視察、行ってみるか

 駆け足で駄菓子屋に向かう彼らの後ろを、大股で俺は追いかける。
 それにしても、トランプ、といったら。

不思議の国の、アリス?

おお、答えですね。その根拠は?

 サンザシがいじわるく微笑む。もちろん根拠など――

……ないので、探しにいきましょう

 不思議の国のアリスだったら、親指姫のときのように複雑な人物構成になっているかもしれない。

 俺はパズルを解くように頭の中で今までの状況を組み立てながら、子どもたちの後をついていった。




 細い道を二回曲がって、大通りの角に駄菓子屋トランプは存在していた。

 入り口の右端に置いてある、大きくて古い赤ポストは錆びている部分がほとんどだ。

 薬屋においてありそうな大きな人形が入り口の左端にある。

 ピンク色のウサギだ。両手を真上にあげ、何が楽しいのかわからないが、大口を開けて笑っている。


 木でできた店は古びた電灯で照らされているが、よく見るとところどころに蛍光灯が見える。

未来的なレトロ、か

 なるほど、その表現に納得せざるを得ない。作られたレトロ感を見てしまったあとは、よりいっそうマサヨシの店が本物だと感じてしまうのだろう。

 もしかしたら、ここのオーナーがマサヨシの店に感じているのは、嫉妬かもしれない。

 店の看板には大きく、駄菓子屋トランプ、と描かれていた。

 大きな口を開けたウサギの顔がこちらを見つめている。どうやら、この店のマスコットはウサギのようだ。

 そのウサギは、手にトランプをもっている。

 残念ながら不思議の国のアリスのような雰囲気は醸し出されていない。

アリスがモチーフだったら確定だったんだけどなあ

 小さな声でため息をつくと、サンザシはこちらを見てにこりと微笑むだけだ。

 ヒントなし、ちぇ。


 駄菓子屋の中は、子どもで埋め尽くされていた。一通りまわってみたが、マサヨシの店より品揃えは少なく思えた。

 よくよく見れば、マサヨシの店の方が大きい。

そりゃほしがるはずだ

 俺はなにも買わずにその店を出た。子どもたちに、もっと品揃え豊富な駄菓子屋があるよ、と教えてあげたい気分だった。











 駄菓子屋に戻ると、マサヨシが俺たちを見つけた瞬間、ほっとしたような表情を浮かべた。

なかなか帰ってこないからさ……迷ったのかと思って

悪い悪い

どこで道草食ってたんだ?

 言うか言うまいか、一瞬迷ったが、隠すことでもないかと思い

敵情視察

 とだけ言って、買い物袋を手渡した。眉間にシワを寄せ、マサヨシはいいのに、と小さく呟く。

お前らは気にするなよ

そうもいかないよ……トランプ、見てきたけど、この店の方が広いし、品揃え豊富だし

 言って、そういえばこの店の名前を知らないことに気がつく。

この店、なんてごめん、俺、店の名前知らなかったよ

 店の外に出て、看板を探し、思わずぽかんと口を開けてしまう。

……あー、サンザシさん

 サンザシは知っていたのだろう、にこにこと歩み寄ってきて、なんでしょうかと微笑んだ。


 俺は、店の名前を指差した。

駄菓子屋、カメノコ、だそうで

ええ、そうみたいですね

5 駄菓子屋の記憶 記憶の原点(13)

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