【第二十二話】
『最終章』


~1カ月後~

窓もはなく、あるのは机と椅子だけの無機質な部屋で、ガラスを間に一枚挟み、二人の男が対峙していた。

久しぶりだな

・・・

元気にしてたか?

・・・・・・

想像よりも遥かに快適なもんだろ。時代の流れってやつだな。ってか、快適すぎて刑務所生活が居心地良いって思われるとアレなんだけど―――だってほら。知られちゃうとわざと捕まりたがる人とか増えちゃうじゃん

・・・あのさ

ん?・・・あっ。俺、また不謹慎な事言っちゃった?

違ぇよ

じゃぁ何?

20回目

ん?

『ん?』じゃねーよ!左右田さん、どんな手を使ってるか知らねぇけど、一カ月で20回も俺のトコ来てんの!酷い時は一日に2回も来てんの!全然久しぶりでも何でもねーの!そんで今日が丁度20回目!

じゃぁ俺と七星の記念日になるな

ならねぇよ。筋肉バカ

ちょっ―――バカはなくね?

じゃぁ筋肉。直ぐに帰ってくれ

いや、今日は帰れない

はぁ?

不便だろ



左右田は立ち上がると、トキオの右腕を指さした。その先には本来腕がある筈が、今のトキオには無かった。逮捕された時にトキオ自ら外し今は片腕で生活をしている。

そりゃ・・・ただ、俺が決めた事だし

まぁな。そこでだ



左右田が突然視線をトキオから後方に移したので、トキオもつられて後ろを向いた。そこには二人の警官が立っていた。扉が開く音も閉まる音も聞こえず、まるで最初からその場にいた様でもある。
二人とも大きなアタッシュケースを持ち、ケースの表面には大きくSAULの文字が刻まれていた。警官の一人がトキオに近付き無言でアタッシュケースを差し出しす。

開けてみて



言われるがままに開けると中には、機械で作られた右腕が入っていた。

これ、7ARMじゃんか

あぁ

いや・・・『あぁ』じゃなくて

使っていいよ。渡しても悪用する人間じゃないだろ

脱走とかするかもよ。俺ってキマグレだし

そうか、それなら条件を出そう

・・・最初から何か条件あんだろ



トキオが後ろにいる一人の警官が持つもう一つのケースを顎で示した。

バレてたか。七星は気付かないと思ったんだけどな。ほら。大雑把じゃん

あのなぁ―――



会話の途中で、警官にアタッシュケースを差し出された。当然の様に警官は無言で手渡すと直ぐに元の場所に戻る。

―――とりあえず、こいつ等、無愛想にも程があるって話だよ・・・で、左右田さんコレ開けていいの?

開ける前に約束して欲しい

何?何だよ

手を貸して欲しいんだ

はぁ?

あの事件から、コンバイドの脅威は徐々に衰退している。しかし別の問題が発生してるんだ

別の?

オメガに変化する人間が増えて来ているんだ。人の進化を促したコンバイド事件が何等かのキッカケになたのかは定かではないが・・・一人でも優秀な戦力が欲しい

・・・で、俺?ムリムリ。だって俺、刑務所にいるし。ってか、坂本に頼めっての。あの人なら変な魔法でドカーンって解決だろ

魔法ってのは、ちょっと無理な話ですねぇ



聞き慣れた声に振り向くと、後ろにいた警官の一人がスーツ姿にシルクハットの坂本に変わっていた。

神出鬼没!ってか、こっちに出るのはマズイだろ。どんだけ警備が甘いんだ?

いやいや、私にかかれば出るのも入るのも自由なんですよ

知らねぇよ。ってか左右田さん・・・

坂本さんには俺のパートナーとして今は一緒に働いてもらってるんだ。だから、どうだろう。七星の力も貸して欲しい

・・・つまり、協力するならコレを開けて、NOなら返せってか

そんな感じだ

・・・ただ、俺は罪を償わなきゃいけない。協力したから罪が軽くなるとかってならNOだ

そんな事は言って無いよ七星。腕を返す交換条件と言っただろう



悩むトキオの目線の端で、鳩を何度もシルクハットやら、袖口から出し入れしてる坂本がチラ付く。見ない様に視線を外すが次に視界に入った時は、どこか高級な白いテーブルと椅子が用意されており、コーヒーを飲む姿が見えた

ちょっと坂本!アンタは何でもありかッ

悩む事はないですよ。別にこの場所に存在する事だけが、罪を償う事とは私は思いませんし、償いの方法はいろいろあると思いますよ―――それに、トキオくんの罪は近いうちにきっと軽くなります。健気に署名活動してる女の子がいるんです

・・・女の子って―――そうか

さて、どうする七星?

答えなら最初から決まってた



アタッシュケースに手を伸ばすと、重々しい見た目とは裏腹にケースは簡単に開いた。

中には1つのマスクが入っていた。

なんだコレは?

ん?ほら、当面は顔がバレるといろいろな方面から苦情が来るだろ。だから顔を隠す為の仮面っす

・・・ってか、何で頭から目許までしか隠れないで鼻から下が丸見えなんだよ

景気悪いからコスト削減ってやつ

いやいや、半分の仮面しかねぇじゃん!身体を守るスーツとかないのか?

景気の悪化で

アホすぎるだろ。昔、こんなヒーローいたよな?ってか、Aシリーズで充分なんだけど

まぁまぁ。そう文句ばっかり言わないで、トキオくん。被ってみてくださいよ

・・・この流れで被れるわけないでしょ



横から坂本に、ガラス越しに左右田にボケとも本気ともとれる言葉を投げかけられ、トキオはやや面倒な気分で項垂れると、頭に衝撃がはしる。



…視界が突然暗くなり、音も余り聞こえない。頭を触ると少し冷たい感触がある―――。

うんうん。左右田さんが言う様に案外似合いますね

でしょでしょ。軽く変態チックなトコとか良い雰囲気出てるっすから



微かに聞こえる会話に確信を得た。無理やりアノ仮面を装着させられたのだと・・・その考えにたどり着くと同時に仮面に手をかけ外そうとするが、外れない。

おい!坂本ぉぉ!コレ、外れねーんだけど・・・

そうですね。押さえてますから

はぁ?ちょっと勘弁してくれよ

嫌だなぁトキオくん。押さえてるのは私じゃないですよ。それに被せたのも私じゃないですよ

はぁ?

坂本さん。もしかして、電源入ってないんじゃないっすか?

なるほど、さすが左右田さんです。着眼点が違いますね

スイッチってあるの?

微かに聞こえる声に、左右田とも坂本とも違う声が聞こえた。

そうっすね。首の後ろの・・・そうそう



突然、目の前の暗闇がブラウン管テレビの電源を入れた時の様に一瞬光った後、徐々に視界が広がって行く。




完全に見える様になったら、絶対暴れてやると心に決めた。



決めたのに・・・目の前に飛び込んできた笑顔を見たら、一気に削がれたんだ。

似合ってるぞ。正義の味方



―――鳴海。

俺は・・・上手く返事できなかったと思う。

【PROJECT-SEVEN-ARM】・・・Closed


・正式タイトル
HEROシリーズ-PROJECT-SEVEN-ARM-

・作者
貴志 砂印(-SIGN-)

NEXT...PROJECT-SEVEN-ARM+ZX...?

【第二十二話】『最終章』

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