（この書類を提出すれば、
今日の仕事は終わりだな）

すみませんっ！
匿ってくださいっっ！！

どうした？

今、追われているんです！
そいつらが通り過ぎるまで、
生徒会室に入れてください！

……いいだろう。
入れ

ふう、助かりました……

ところでキミは
何者なんだ？

あっ……。
俺は２年Ａ組、
美家 王子です

自分から王子と名乗るとは……。
見た目がまともそうな割には
かなり痛いな

親がつけた名前だから
仕方ないでしょうが！

本名だったのか、それはすまない。
俺は３年Ｂ組の冷静 徹也だ。
よろしく頼む

名前くらい知ってますよ。
生徒会長なんだから

そうか。
ちなみにみんなからは『冷徹』と
呼ばれているが、
別に冷徹な性格ではない

それは知りませんでした

ＢＬ王子ぃーっ！！
せっかくお姫様みたいなドレスを
用意したっていうのに、
どこに行ったんですかー？

俺が悪かった王子！
俺はただ、
お前をお姫様だっこしたかった
だけなんだよ！！

…………

…………

…………

呼ばれてるぞ、王子。
出て行かなくていいのか？

あの人たちから逃げてるから
匿ってもらったんです！

そうか、なるほどな。
しかし逃げ回っているだけでは、
現状は改善されないぞ

そんなのわかってますけど……

待っていても
誰も助けてはくれない！
自分から道を切り開き、
いじめを克服するんだ！

待ってください。
俺、あの二人に
いじめられてるわけじゃ
ないんですが

ほう。
では、なぜ逃げている？

そ、それは……。
ほぼ初対面のあなたには
話しづらいです……

ならばこの生徒会室から
出て行ってくれ

どうしてですか！

俺は戸締りをして
とっとと帰りたいんだ

それに事情すら話さない相手を、
庇い立てする義務は無いしな

わかりましたよ、言います

話す気になったか

さっき叫んでいた男のほうは、
俺の親友なんですが……。
実はホモだという事が
発覚しました

いきなりヘヴィーな話だな

しかも親友が好きなのは
俺だったんです。
その上、それを横で見て
大喜びしている女の子がいて……

なるほど。
それが先ほど叫びながら
走っていた女子か

はい……。
ほっとくとあの二人に、
俺がＢＬの受けに
仕立て上げられそうで……

何点か質問をしてもいいか？

この際だから何でもどうぞ

まず一つ目の質問だ。
その女子はなぜ
同性愛を見て喜んでいるんだ？

えーっと……。
普通の少女マンガよりも、
男同士の絡みのほうが
感情移入ができる女の子が、
世の中には居るんですよ。

なぜだ？

俺に聞かれても
知りませんよ……

では、二つ目の質問だ。
お前が言った『びーえる』とは
なんだ？

アルファベットのＢとＬ、
つまりBoy's Loveの略です

なんだそれは。
直訳すると
少年の愛情になるが……

たぶん和製英語なんでしょ。
男同士のラブストーリーを
総じてボーイズラブと言うんですよ

詳しいな。
お前もそのＢＬが好きなのか？

好きなわけ無いでしょう！
むしろ滅びてしまえばいいとすら
思ってるのに！

それは穏やかではないな

だってこの世に
ＢＬなんてものがあるから、
俺は親友を失うし、
彼女ができないし……

それは違うな

わかってますよ。
俺の努力が足りないから
彼女が出来ないって
言いたいんでしょう？

いや、そうじゃない。
キミが女性よりも
男性に好かれるのは……

美家 王子。
キミが男性にとって
あまりにも魅力的なせいだ

はい？

いや、何も俺がキミに
惚れたというわけじゃない。
あくまで一般論を言っている

あんたの一般は
どこの世界の一般なんだ

まあ、それはともかくとして。
事情は大体わかった。
彼らが帰るまでは
ここに匿ってもいいだろう

助かります

だが先ほども言った通り、
逃げているだけでは
何も解決しないぞ

だったら
どうしろっていうんですか？

自分が思っている事を
誠意を持って伝えろ。
それだけで事態が
好転する場合もある

……事態が悪化したら？

その時はその時だ。
あきらめるしかない

無責任だなあ……

すみませーん！
開けてくださーい！

（ヤバイッ！！
あれは藤吉さんの声だ！）

ロッカーに隠れていろ

は、はい！

（くそっ、狭いな……）

生徒会室に何か用か？
部外者は
立ち入り禁止なんだが

ある男の子を
探しているんです……

そうか。
だが、ここには
俺以外いないぞ

おかしいんですよ。
下駄箱には外靴が有るのに、
学校中どこを探してもいないんです

トイレにいるんじゃないのか？

いえ。
彼を一緒に探していた男の子に
見てもらったんですけど、
どこのトイレにもいませんでした

まだ見ていないのは、
この生徒会室だけなんです！

（ひいいっ）

その一緒に探していた
男の子というのは、
どこへ行ったんだ？

上履きのまま帰っている
可能性を考えて、
彼の家へ向かいました

（もうほとんどホラー映画）

一つ言わせて貰おう。
逃げたり隠れたりしている人間を、
しつこく追い回すのは
あまり感心しないな

でも……。
せっかくサイズが
ピッタリのドレスを
インターネットで見つけたから、
着て欲しくて……

だが本人は
嫌がっているのだろう？

嫌がってるんじゃなくて、
照れているだけです！

（またその理屈キター！！）

俺が今から言うのは、
あくまで一般論だが……

はい

自分の意見を押し付けるだけでは、
要求が通る可能性は低い。
相手の意見もきちんと聞くんだ

私はきちんと聞いてますよ！
彼の心の声を！

（なんかスピリチュアルな方向から
攻めてきだぞ……）

心の声？
それはキミの思い込みだろう

えっ……。
そ、そんなこと無いです！

いや、有る！！

う゛っ

自分の思い込みを
相手に押し付けるだけでは、
永遠に互いを
理解することはできない

せっかく縁があって
知り合えたというのに、
それでは悲しすぎるだろう？

（会長……）

そうですね……。
家に帰って反省します……

待ってくれ、藤吉さん

ＢＬ王子！

よく考えたら俺は、
藤吉さんにちゃんと自分の気持ちを
伝えていなかった気がする

ＢＬ王子の気持ち……？

藤吉さんを初めて見たとき、
すごく可愛い子だなと
思ったんだ

（その直後に
変な子だなと思ったのは
秘密だけど）

（外野がいる前で
よく告白ができるな）

だけどキミは、
俺をＢＬの妄想の対象としか
見ていない。
だから……！

は、はいっ

腐女子を卒業して、
俺のかっ、かっ、かのっ……

かの？

友達になって
ください！

（彼女になって下さい
とは言えなかった……）

だが断る

ッッ！？！？

友達になるのは構いません。
っていうか私は、
もう友達のつもりでしたよ？

では何を断ったんだ

腐女子を卒業する
ってことです。
そんなの無理ですよ

やって見なきゃ
わからないじゃないか！

腐女子を辞めろなんて、
私に息をするなと言ってるのと
同じです！
そんなの死んじゃいます！

３分くらいなら
息を止められるだろう

やってみます！
むむ～っっ……

ぷは～っ！
ダメです！
３分も持ちません！

15秒か……。
堪え性が無いな

何の話をしてんだ
あんたらは！

とにかく、
腐女子を辞めることなんて
無理です……

そんな、藤吉さん……

今日のところは、
ドレスをあきらめます。
その代わり次は体育倉庫に
責田くんと二人きりにして
外から鍵を掛けますから！

（ダイレクトな犯罪予告）

もう時間も遅いので、
帰りますね。
それじゃあさようなら～

…………

見事に撃沈したな

ほっといてください

こんなに
落ち込んでいるキミを見て、
放っておけるわけが
ないだろう

え゛っ？
どうして俺を
抱きしめるんですか？

すまない……。
キミがこういうのを
毛嫌いしているというのは
充分承知だ

だが……。
彼らから守っている内に、
どうやらキミを
好きになってしまったようだ

はい？

キミの意思を確かめずに
口づけをするという無礼を、
どうか許して欲しい

えっ！
ちょっと！
待って……！！

……チュッ

んっ……

ぶはーっ！
何考えてんですか会長ー！！

初めてだったのか？

初めてじゃないですよ！

チッ……。
ファーストキスじゃ
なかったのか

舌打ちしてんじゃない！
１回目も２回目も
キスの相手が男だなんて最悪だ！
ううっ……

なんで背中を
叩くんですか？

元気を出せ

あんたのせいで
へこんでるんでしょうが！！

そうか、
ならば責任を取って付き合おう。
安心しろ。
テクニシャンな俺が優しく……
そして時には激しく抱いてやるから

俺はボーイズラブに
興味は無い！
いい加減にしろーっ！！

あっ……！

（行ってしまった……。
２年Ａ組の美家 王子か、
覚えておこう）

（はあ……。
今日は最低な日だった……）

よっ、王子！
遅かったな

なんだよ、コウ……。
家に帰んなくて
いいのかよ？

おばさんに頼んで、
今日は泊まらせて
もらうことにした

帰れ

えっ？
昔はよく泊まっただろ。
また一緒に風呂に入ったり、
同じ布団で寝たりしようぜ

それはお前が
ホモだと知る前だ！
ついでに言うと
布団は別々だっただろ！

…………

…………

学校でも見たような気が
するけど、
お前は一体何なんだ！

ナチュラル伯爵に
八つ当たりすんなよ

いいからお前は帰れ！！

いってーな。
背中を蹴ることねえだろ

早く帰って手当てしろよ。
じゃーな、おやすみ！

ひでえ……

（でも、そこが可愛いんだよな）