チュイイィーンッ!
はあ、はあ、はあ……。
なんとか撒けたか?
はあ、はあ……。
優奈お義姉さん、
私たちを追っかけるの
あきらめたのかな?
いや、あいつは普段
研究室にひきこもってるせいで、
体力が極端に少ないから
俺たちを見失ったんだろう
だが、
研究に対する執念だけは
人一倍強い
じゃあ、まだ私たちを
探してるかもしれないね……
しかしお前、
小学生にしては
すげえ足が速いな
だから50メートル走は
クラスで一番
速いって言ったでしょ?
それに私の身体は、
祐希くんと一緒なら
どこへでも行けるように
なってるの!
お前……。
優奈が言ってた恋愛細胞っていうの、
本当に持ってるのかもしれないな
そうなのかな~?
それっていいこと?
いい事なんじゃないのか?
その対象が俺じゃなければ
もっといい事だけどな
祐希くんのいじわる……。
どうして祐希くんを
好きになっちゃダメなの?
(お、珍しく話が通じた)
俺は18歳、高校3年生。
そんでお前は10歳、小学4年生。
年齢に差がありすぎるだろ?
だって、芸能人とかは
年の差結婚してるもん
それは大人になってからの話だ。
大体お前、何歳から結婚できるか
知ってるのか?
えーっと……。
お互いの愛があれば、
何歳でもいいんじゃないの?
やっぱわかってねえだろ。
男は18歳、女は16歳だよ
何それ。
そんなの無視しちゃえばいいよ!
法律で決まってんだよ。
無視して婚姻届出しても、
役所じゃ受理してくれねえよ
意味わかんない
お前には難しすぎたか……
意味わかんない!
私は祐希くんの
彼女になりたいだけなのに、
なんで難しい話ばっかりするの!
なんでって……
祐希くん彼女いないじゃん!
どうして私じゃダメなの?
他に好きな人がいるの?
好きな女がいるって言えば
俺のことあきらめるのか?
あきらめないよ!
その女をこの世から
消し去るだけだよ!
だと思った
えっ……。
まさか本当に、
好きな人がいるの?
なんでだよ
好きな女の人を守りたくて、
私にナイショに
してたんだね……
あ、いや……
私、そんなに
迷惑かけてたんだ。
ごめんね祐希くん……
はあ、バカか……
バカじゃないもん
お前に追い回されてるせいで、
他の女を見てる暇なんて
無かったよ
えっ!
やっぱり私たちって
両思いだったんだね!
ち が う
だって私以外の女の子が
目に入らないんでしょ?
もお~早く言ってくれれば
良かったのに♪
こんだけ時間を割いたのに
話が振り出しに戻ったわけだが
ゼエゼエ、ハアハア……!
見つけたよ、
ふたりとも!
げっ、優奈!
チュイイィーンッ!
キャーッ!!
まだ電動ノコギリ持ってる!
すごく重くて
走るのに邪魔だったよ!
途中で充電が切れたから
家に帰ったし!
(よく警察に
職務質問されなかったな)
どうしてここに隠れてると
わかった?
こんなこともあろうかと、
みずきちゃんに発信機を
付けておいたの
おいおい、
なんでも有りだな
さあ、観念してみずきちゃんを
こっちに渡して!
いや、それはできない
じ~ん…
祐希くん……
どうしてよ?
みずきちゃんを渡したほうが、
お兄ちゃんにとっても
好都合じゃない?
どういう意味だ?
だっていっつも
みずきちゃんのこと、
迷惑そうにしてるじゃない
そんなことないよ!
ほら祐希くん、
言ってやって!
確かに迷惑だな
ほら、聞いた?
全然迷惑がって
ないんだから!
あれ?
このガキ、
また話が通じなくなったぞ?
ほら、お兄ちゃん……。
みずきちゃんは
こうしているよりも、
恋愛細胞として
世界に貢献したほうがいいんだよ
はあ……馬鹿馬鹿しい。
何が恋愛細胞だよ
ひどい!
お兄ちゃんはそうやっていつも
私の話を馬鹿にするよね!
あの、お義姉さん
何?
私かられんあいさいぼーを
取り出したら、
一番先に誰に使うんですか?
そ、それは……。
世界中の、恋愛ができずに
困ってる人たちだよ
だから、世界中の誰から
一番先に使って
あげるんですか?
そんなの
決まってるでしょ
私だよ……
は?
恋愛ができなくて
困ってるのは、
この私!!
お義姉さん……
毎日研究に打ち込んでるせいで、
恋とか愛とかにまったく
興味が持てなくなったの!
友達はみんな彼氏がいるのに、
自分だけ人を好きになれないなんて
辛すぎるじゃない!
だからって、
女子小学生を拉致した挙句
解剖していいって事には
ならないだろ
だったら教えてよ。
どうすればみずきちゃんみたいに
人を好きになれるの?!
そんなの知るか
私……。
お義姉さんの気持ち、
よくわかります
みずきちゃんが?
私も祐希くんと出会うまでは、
恋や愛というものを知らない
寂しい人間でした
小学4年生が何を語る
だけど好きな人っていうのは、
自然とできるものなんです。
だって……
恋愛細胞というのは、
人間なら誰しも
持っているものだから!
嘘よ!
私には生まれつき
恋愛細胞が無いのよ!
頑固だなあ~
優奈、お前さあ……。
恋愛ができないのは
研究室にひきこもってる
せいだろ?
原因をよそに求めるなよ
お兄ちゃんには
私の気持ちなんか
わかんないよ!
はあ、駄目だこいつ。
人の話を聞こうとしない
そうだねえ~。
(カサコソ……)
パクンッ
こんなときに、
いきなりアメなんか
食ってんじゃねえよ
だって走ったら
お腹減ったんだもん。
祐希くんも食べる?
あ、どうも
お義姉さんもどうぞ♪
あ、どうも
コロコロ……
甘い物食べると
落ち着くね……
そうですか?
もっといります?
ありがとう。
よく考えたらここ最近ずっと
研究室にこもりっきりで、
甘い物なんて
食べてなかったよ
ママがね、
疲れたときや心が荒んだときは
甘い物がいいって
言ってましたよ。
家計簿を見ながら
(シビアな単語が聞こえた)
そうだね……。
甘い物食べたら、
なんか自分がやってることが
馬鹿馬鹿しく
なってきちゃった……
単なる
糖分欠乏症だったのか
女の子はスイーツが
大好きですよねー?
そう!
甘い物は正義!
……太るぞ
んっ?
なんか言った?
何も
パパが
『みずきは背がちっちゃいから
たくさん食べて大きくなりなさい』
って言ったもん!!
祐希くんのバカバカバカバッ!!
だから何も言ってねえっつーの。
あと俺は河馬(かば)じゃねえ
これが、
夏休みに起こったラブラブで
ミラクルな出来事だよ!
これがきっかけで
祐希くんと私の仲は、
とっても進展しちゃった
そして夏休みが終わって、
新学期が始まったの……
おはよっ!
元気してた?
おはよう!
元気だったよ~。
友美ちゃんは?
(あ、友美ちゃんと傘子ちゃんだ)
おはよ……
(あっ!
そういえばあの二人には
絶交されたんだった)
(気まずいなあ。
帰っちゃおうかなあ……)
おはよっ!
みずきちゃん!
おはよう
友美ちゃん……。
傘子ちゃん……
どうしたの?
二人とも、
もう話してくれないと
思ってたから……
なんで?
だって絶交したじゃん、
私たち
あー。
そんなこともあったね
あの頃は若かったからね、
私たち
そうそう。
若かりし頃の
あやまちってやつ?
(あれは……。
若作りしているけれど
もうすぐ50歳という大台に乗る
私への宣戦布告かしら?)
それじゃあ二人とも、
もう怒ってないの?
私を許してくれるの?
許すも何も、
もうどうでもよくなってるし?
これからもずっと友達だよ、
みずきちゃん
わーい!
友美ちゃん、傘子ちゃん、
大好きっ♪
友情っていいものね……
そうか?
アイツらまた
しょうもない事で
ケンカするんちゃう?
ゆーうーきーくーん!
来たよぉ~!
おう、上がれ
あれ?
今日は嫌がらないの?
俺が油島みずきを
呼んだんだ
えーっ、本当?
想いがやっと通じて、
私と祐希くんは
お付き合いすることに
なったんです♪
ちげーよ。
優奈がやったことのお詫びに、
夏休みの宿題を手伝うんだよ
夏休みの宿題って……。
もう9月だよ?
いつもは友達の宿題を
写すんですけど、
今年の夏休みは絶交してたから
写せなかったんです
それで先生にすんごい
怒られちゃったーって
祐希くんに話したら、
手伝ってくれるって
言ったんですよ♪
ま、まあ。
油島みずきが
友達に絶交されたのは、
半分は俺のせいだからな……
ふうーん?
よくわかんないけど
良かったねみずきちゃん
はい!
理科で良ければ
私も手伝うよ
あ、でも理科の宿題は……。
植物の観察日記なんです
それだったら
私が毎日書いてる、
隣りのおじさんの
観察日記が有るよ
植物の観察日記だって
言ってんだろ
隣りのおじさんの顔は
ウツボカズラに似てるから、
別にいいんじゃない?
お前ひでえ奴だな
やった♪
それじゃあ理科の宿題は
お義姉さんに
お願いしますね!
まかせて!
(絶対また先生に怒られるぞ)
↑
面倒だから放っておく
家まで送ってくれて
ありがとう
ストーカー加害者に
ここまでしてやるなんて、
俺もお人好しだよな
だから私みたいなのに
好かれちゃうんだよ
おい、お前な……
ところで祐希くんは、
私が小学生だから
彼女にしてくれないの?
まあ、そうだな。
非常識なところにも
原因があるが
私が大人になったら、
祐希くんに似合う女の子に
なれるように頑張る!
だから、それまでは……。
祐希くんの
友達にして欲しいの
うーん……
ま、友達ならいいか
本当!?
ありがとう祐希くん!
やっぱり私たち
両思いだったんだね!
だからなんでそうなる
このお話は、
ここでおしまい。
でも……
これからもずっと、
祐希くんと私の
ラブラブな毎日は続くよ♪