生存者がたった一人も存在しない市街地を走り抜け、ようやく辿り着いたセントラルタワーを前にして、輝明はその複雑な心中を、たった1つの質問としてリアに投げかけた。
輝明の真意、リアの本心、そして輝明のもう一つの質問とは……。

この回廊を超えれば、メインゲートです!!

ああ、解った!!しかし真下から見た時も凄かったが、近づけば近づくほど壮観な建物だな、こいつは!!

ええ、元々このタワーは後に軌道エレベーターとしての増築が予定されていたぐらいですから!!

あの、大気圏も超えて宇宙まで伸びていくって奴か!!そりゃあ、確かに凄い訳だ!!

セントラルタワー内部へと進入する為のメインゲートに繋がる回廊は中空をはしっており、回廊上も点々と配置されたベンチと街灯以外に怪しい物陰がほとんど無いのをいい事に、二人は辺りを気にも介さず大声で会話を続けながら、回廊を全速力で走り抜けていった。

お、見えてきたぞ、ゲートだ!!

ゲートは私が開きます!!
時間も余り多くは残されていません、すぐに中へ入りましょう!!

リアの言う時間とは、時間そのものではなくバディ・システムによって過剰に消費され続けている二人の肉体貯蔵エネルギーの事で、今現在もそれは通常の数倍の消費速度で減少し続けているからだ。

システムの影響で多少の身体的無茶や不死身に近い肉体を得ているとしても、もし肉体に貯蔵されているエネルギーを全て使いきってしまえば、忽ち肉体は電池の切れたロボットの様に身動きが取れなくなり、最終的には細胞自体の活動もストップ。
つまりそれは、この作戦の失敗と共に二人の死をも意味するのである。

メインゲートの前には、恐らくゲートを開閉する為に使用するであろうコンソールが置かれており、リアがそれを睨みつけるように見つめると、リアの目にバディ・プログラムと思しき紋様が浮かび上がると同時に、ピッという機械音の後にコンソール画面が独りでに起動した。

画面上には掌認証の為の手形のようなものが浮かび上がり、リアはその横を走り抜けると同時にコンソール画面を叩くようにして認証を完了させた。

開きました!!さぁ、中へ!!

おう!!

ゲートが開ききる前に二人はその勢いを殺すこと無く、ゲートの中へと体を滑り込ませた。

ふぅ、後はエレベーターに乗ってメインコンソールのある階まで移動するだけだったよな。

はい。

随分と長かったようで短い冒険もこれでようやくフィナーレだ……、と言いたい所だが。

……。

その、さっきの話の続きなんだが……。

その前にもう一つの重要な質問を、先にしていいか?

……はい。

               ・・・
俺達がここに来たのは、これで『何回目』だ?

……はい、四回目です。

       ・・
そうか、じゃあ今は何回目だ?

八回目……です。

そう、か……。

つまり俺達は既に七回も死んじまってるって訳だ。
七転八起きとは、良く言ったもんだ。

要するに、俺達二人が絶命した時の奥の手ってのは、そういう事なんだな?

もしもこの作戦行動中にバディ両名が死亡した場合には、バディ・システムによって強制的に緊急プログラムが作動するようになっています。

つまり、私達はこの作戦が成功するまでは、半永久的に……、そう何度でも。

 ・・・・・・・・・・・
『あの研究所からやり直す』

そういう事に、なっています。

それは【時間】をも巻き戻してのやり直しって事か?

その通りです。でなければ私達はとっくにこのシステムに殺されているはずですから。

なるほど、な。

……ごめんなさい。

本当に、本当にごめんなさい!!

おいおい、どうして謝るんだ?
俺の言い方が不味かったか?別に攻めてる訳じゃなかったんだ……。

確かに、人間そう何度も死ぬなんて体験は決して楽じゃないし、相当な苦痛のはすだけど……。

違うんです!!

……。

違うんです……。

本当は、私達の作戦は……。

 ・・・・・・・・・
『前回で終わっている』
はずなんです。

何度も何度も失敗して、少しずつだけど私達はその目的にようやく辿り着いたはずなんです。

ですが、この星が確かに壊れ行く中、最後に私達が光に包まれ何もかもが終わるその瞬間。

……気が付くと私達は、あの最初の研究所へと再び戻されていたんです。

……。

研究所の端末でその可能性や対処法を探しましたが結局見当たらず、原因については検討も付かない状態。

私にはどうする事も出来ない上に、それを言い出せないまま、私は……。

リア、落ち着くんだ。大丈夫。

話してくれて、サンキューな。
お陰で最後のピースがようやく揃った感じがする。

何を、言って……?

確かに、その話は絶望するに値する十分なものだよ。
だけどな、もしそれがバグやトラブルじゃなかったら?

……?

あくまで推測で確証は無いが、
俺に考えがある。

だから、もう一度だけでいいから、
俺を信じて最後まで付き合ってくれないか?

……。

そう、ですね。

いくら現状を悲観した所で、何も解決しませんよね。

ああ、そうだ。
それに例え同じ結果になるとしても、俺は少しでも可能性のある方に賭ける主義でな。

ふふ。

大丈夫、俺が何とかしてみせる。

……。

それと、もう一つの質問の答えだが……。

なぁ、あともう一つだけ聴いてもいいか?

は、はい。なんでしょう?

嫌な事を思い出させちまうかも知れないが、その……。
リアの親父さんは、最後に何て言ってた?

父が……、ですか。

確か……。

リア……、本当にすまない。
そしてこの星を頼んだぞ、出来ればお前だけは……。

……愛しているよ。

……そうか。

やっぱり……、そうだよな。

よし、解った。さっきのはナシだ。

?……はい。

もしさっきの質問の答えが見つかったらそん時は、俺に教えてくれ。

……はい。

私は……、私は……。

よし、これで話は終わりだ。
とりあえずその、メインコンソールまでまずは移動だ。

は、はい!この先に直通のエレベータがあるのでそれを使いましょう。

了解。

まぁ、そこまでに何事も無ければいいんだが……。

しかし、あれだな。
何で死ぬ前の記憶が、俺だけ曖昧になってるんだ?

恐らく、脳への負担を減らす為の自衛措置みたいなものなんでしょうか。

私は、バディ・システムのホストとしてあの時間軸へのバックアップがより強固になっているのかも知……。

!?

!?

何…だ……?今の音と衝撃は。

気をつけて下さい……。

何かが……来るぞ!!

この壊れた世界を壊すのはアナタ ~5話~

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