これが最後の一匹……!

ぎぃええええええ!


 鳥の頭をした化け物が断末魔の悲鳴を上げる。いつ聞いても気味が悪い。まるで末代までたたられそうな声だ。初めのうちは耳をふさいでいたが、今ではだいぶ慣れた。化け物の腹は鉄骨で地面に打ち貫かれている。その鉄骨はさっき私が投げたものだ。根元から紫色の血がつたい落ち広がっていく。私はそれに一瞥をくれて、後ろを振り返る。

先輩!


 私は先輩に駆け寄った。上体をそっと起こす。ぐったりとして力がない。胸に耳をあてると鼓動の音が聞こえてくる。私はその音を聞いてほっとした。

ひらせ……

先輩……目を覚ましたんですか?

ああ、おかげさまでな


 先輩はそう言ってにっこりと笑った。笑っていられるような怪我じゃないはずなのに。

本当に強くなったな、平瀬は

先輩のおかげです


 私も笑った。そうだ先輩のおかげで私は強くなることができた。自分の運命を呪い自暴自棄になっていたころもあった。不特定多数の男と関係を持ち、酒と薬におぼれた日々……そこから救い出してくれたのは先輩だった。多額の借金も先輩が肩代わりしてくれた。力の使い方がわからず、うっかりアメリカの半分を消し飛ばしてしまったときも先輩は優しく笑ってくれた。私を救ってくれたのは先輩だ。先輩は私の光だ。

先輩安静にしていてください

いや、いいんだ


 立ち上がろうとした先輩がよろける。私はさっと肩を支える。

すまないな

大丈夫ですか

ああ


 山の稜線から朝日が差し込み、先輩の顔を照らし出す。

朝だな

はい


 だんだんと明るくなるにつれて、町の惨状が見えてくる。町の役場も、学校も、私たちの家もすべて瓦礫となってしまった。

ごめんなさい! 先輩の家、壊しちゃいました

いいよ。町を守ってくれたんだろ

でもその町も……


 先輩は私の頭にぽんと手を置いた。優しい重さだ。安心する。

いいんだよ

……ありがとうございます


 先輩と私は丘の上からしばらく町を眺めていた。この町は世界に残っている数少ない町だろう。もしかしたら、この町が最後かもしれない。
 世界をこのような姿に変えた元凶、それを『鳥人(とりじん)』と私たちは呼んでいた。鳥人の力は人類の力を遙かにしのぐもので、はじめの進行で人類の約半数が死亡した。それでも人類は知恵の限りを尽くして戦ってきた。だが鳥人たちの圧倒的暴力には為す術もなかった。蹂躙と言ってもいい。人々は蟻のようにただただ潰されていった。鳥人の翼から舞い散る黒い瘴気は大気を汚染し、水を腐らせ、人や動物の住む場所を奪っていった。
 その鳥人たちに対抗する唯一の力、それがこの私だった。私は日本の秘密機関T-RUFFEによって作られた兵器。自分の正体を知ったときにはさすがに驚いた。というか信じられなかった。だってそれまでは普通の中学二年生だったから当然だと思う。
 私たちは激しい消耗戦の末、鳥人をほぼ狩り尽くすことに成功したが、それと同時に最後の拠点も失ってしまった。

直にここも瘴気に覆われ、人の住める場所ではなくなる。……そのときはどうするか、わかるな望

はい

お前は方舟を起動し、残された人たちで生き残るんだ

はい

世界を救ってくれ

 頭がふっと軽くなる。ああ、私の光が失われる。だけど負けてなんかいられない。先輩から受け継いだ大切なことを、大切にしていかなくちゃ。今度は私が光になる番なのだから。

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