最終話
最終話
殺すか、愛すか……
愚問ですね
私はレジスタンスの言い分を信じます
そうか……
……あなたはどうです?
…………
俺もだ……
なら、決まりですね
ああ……
でも、お前は……
ええ。帝国のエレメントだとか
ということは普通の人間とはいえないのでしょう
もっとも薄々感づいてはいましたが
なぜ?
他の人から浮いてましたし
まあ、浮いていたといっても、
あなたとは少し意味合いが違いますが
……
……ショックじゃないのか?
大して
まあ、
今回色々な体験をしたおかげで、
耐性がつきましたから
耐性、ね
しかし……
もしセカイの再分裂に成功したら……
今いるこのセカイは終わってしまう
そして……
もうあなたとは会えなくなってしまうんですね
それはとても……
清々します
おい
とはいえ寂しくなくはない、ですね
短い間ではありましたが、
それなりにいい友人だったとは思います
……
……そうだな
ふたりは肩を並べて歩いていた。
昨日可南太はこう言った。
『俺たちは恋人にならなきゃいけない』
『とりあえずデートから始めるとしよう』
響も特に異は唱えなかった。
そこで近くの遊園地まで出掛けることにした。
ふたりは黙ってホームに立った。
電車が入ってきた。
日曜で乗客は疎らだった。
電車は郊外に向かって走っていく。
景色が緑がちになっていった。
目的地に着いた。
駅前はアウトレットモールだった。
イタリアンレストランで食事をした。
可南太にはデートの経験がない。
でもデートといえばイタリア料理のような気がした。
レストランは、
わざと古めかしくしたお洒落な店だった。
パスタも安いもので2000円近くした。
パスタとサラダバーのランチセットにした。
可南太はボンゴレビアンコを、
響は蟹のトマトソースを選んだ。
サラダバーのじゃがいもが生煮えだった。
じゃがいもって……
食べかけのいもをナプキンに吐き捨てて言う。
生でも食えるんだっけ?
食べられたと思いますよ?
と響はぼりぼり食べていた。
じゃあ君にやるよ
と皿の食べ残しを響の皿に空けた。
あなたの食べ残しを食べろと?
ま……嫌ならいいんだが
とはいえ残すのは気が引けますからね
と響は何だかんだで片づけた。
パスタが来た。
可南太は麺を啜った。
響は音もなく食べた。
どう? おいしい?
……濃い、ですね
麺はかなり塩っ辛いですし、
トマトがとても酸っぱいですし、
かにみそのニオイがすごいします
俺のは薄いな。
もっとにんにくっぽいのがいい
……
……味見させてもらえます?
いいよ
響に一口摘まませた。
可南太も試させてもらった。
私、こっちの方が口に合います
俺もこれの方が好きだな
だとすると……
交換した方が理に適っていますね
そうだな。食べかけだけど……
問題ありません
なら、いいけど……
ふたりでランチを終えた。
遊園地の前までバスで行った。
ふたりで爪先を揃えて遊園地の門を潜った。
空は青かった。
いい天気だな
確かに悪くない天気ですね
園内で響がきょろきょろした。
私、あれ乗りたいです
あれも。あと、あれも
そう言って指さすもの全てが、
絶叫マシーンの類だった。
ジェットコースターに乗った。
バイキングにも乗った。
フリーフォールにも乗った。
下りると地面が回っていた。
響はけろりとしていた。
君は平気なんだな、ああいうのも
もちろんです
私、帝国のエレメントですから
自虐か
自虐です
ふたりは笑った。
日が傾いてきた。
アイス食べたくないか
アイス食べたいですね
可南太はラムレーズンに、響はチョコレートにした。
うまいな
おいしいですね
でも冷たいな
冷たいですね
寒くなってきたな
寒くなってきましたね
夜が迫ってきた。
遊園地が光に縁取られた。
ボートに乗ろうか
ええ、乗りましょう
川は灯りを映じていた。
可南太はオールを漕いだ。
ボートが軋み音を立てた。
揺れないもんだね
揺れないですね
岩のトンネルが口を開けていた。
ボートがトンネルに這入った。
内部では波音が反響していた。
岩壁にふたりの影が揺れた。
トンネルを抜けると、島が浮かんでいた。
ボートをその島に着けた。
可南太は響の手を取り、島へと飛び移った。
島は鬱蒼としていた。
アトラクションの一種で、石造りの神殿がそびえていた。
岸に近い芝にふたりは腰掛けた。
遊園地の声が遠く聞こえた。
ふたりで夜空をみあげた。
懐かしい歌を思い出しました
何?
合唱曲
ああ……
“ヒールザワールド”か
歌詞はわからないけど……
可南太は口笛でその旋律を奏でた。
ほら、一緒に吹こうよ
私……
口笛吹けないんです……
え
帝国のエレメントなのに?
うるさいですよ
と微笑みながら可南太の肩を小突いた。
ふたりは笑い合った。
でも、ハミングなら……できます
可南太の口笛に響の歌声が重なった。………