高さ80メートルから真っ逆さまに落ちて
そのままアスファルトに叩きつけられ
会場を鮮やかに彩った認可凪 アリスは
「アスファルトの下」へ吸い込まれた。

アリス

寒い

「アスファルトの下」
ダイヴァーや寿命を迎えたものがしばしば見る
集団幻覚の一種と政府機関は見解を出している。
だが、一部の人々の間では
かつて「地上」で伝承されていた神話に登場する
「黄泉の国」「あの世」「ヘル」なのではないか
と言われているが、そうしたことを口にすることは
法律で禁じられている。

アリス

寒い

ダイヴァーは頻繁に「アスファルトの下」へ
至ることが多いが、高所から叩きつけられた衝撃に
よるものではないかと、まことしやかに言われている。

アリス

怖い

「アスファルトの下」は寒く、暗く、怖い。
「怖い」という感情は「地下」で暮らす人々には
馴染みのない感情である。
「システム」により、人体蘇生ができるため
「死」に恐怖を抱かないためである。

アリス

怖い!

しかし「アスファルトの下」では恐怖が芽生える。
それはなぜなのか。














アリス

出、出たな!

おまえらはなぜ死を拒絶する
死は理(ことわり)
絶対の真理なのだぞ。

アリス

怖い!

お前たちがこちらへ来ない限り
新しい世界が始まらないのだ

アリス

そ、そんなの知るか馬鹿!
これは夢だ!幻覚だ!

お前も
もうそちらの世界は飽きただろう
こっちへこい
みんなが待っているぞ

アリス

うるせーっ!

突如、アリスの肉体?が光りだす。
とても暖かでしかし激しい光だ。

ムウッ!命の光か!小賢しい!
死んだ人間は!
生き返ってはならぬのだ!

闇がうごめいて、アリスの光を包むように動く。
恐ろしく冷たく暗い闇だ。
アリスは意識が遠のきそうになる。

アリス

だまれええええええええ!!!!!!!
納得行くか!まだ私は幸せになっていない!
こっちで幸せになるまで
そっちになんか行けるか!

とてつもない怒りと欲望をアリスは発した。
闇を光が切り裂いていく。

なんという強い光だ!
これほどまでのものは
お前で二人目だ

今は邪魔でしかないが
次の新しい世界のはじまりには
その光が必要だ
お前を新しい世界の二人目に
くわえてやろう。

アリス

?????

もしお前にその気があるなら
近いうちに出会う一人目に
ついていくがいい。

そして、その時が古い世界の
終わりの時となるだろう。
ではまた会おう。

アリス

?????









闇が晴れていく。
アリスは「人体3Dプリンター」へと戻ってきた。

アリス

また変な幻覚を見てしまった。
でも、いつもと違う幻覚だった。

アリスは大会の結果を確認するため
プリンターのある部屋から出た。
結果はやはり、優勝であった。









幾つかの古い建物は、先ほどの地震で崩れている。
しかし「地下」の世界の免震構造は盤石の強さだ。
人々は平静を保っている。
スピーカーからは安全を知らせる政府からの
音声が放送されている。

アリス

どこへ行くの

サチカ

エレベータよ
外へつながる

「地下」の世界には一つだけ
「地上」へ繋がるエレベータが存在する。
「地上」から「地下」へ避難した時に使われたものだ。
そして、放射能の半減期を経て住めるようになった
「地上」へと再び戻る時のためのものでもある。

アリス

無理だわ

エレベータへは軍事施設を抜ける必要がある。
施設を抜けたとしても、厳重な電子ロックが
幾重にも施されているのだ。

サチカ

大丈夫よ、私たちには
カニサナが付いているから。

その言葉通り、大丈夫だった。
2人は軍事施設を抜けてエレベータ前にたどり着いた。

電子ロックは先程の地震の影響か
すべてのロックが外れていた。

サチカ

行くわよ

サチカ

血まみれの服を着替えてから
来ればよかったかなぁ…

アリス

放射能は

半減期はまだまだまだ先の先だ

サチカ

さあ、どうかしら。
でも大丈夫よ。

不意にサイレンが鳴り響く。
おそらく監視カメラか何かに映ってしまったのだろう。
2人はエレベータへ乗り込み、ボタンを押す。

超高速でエレベータは2人を地上へ運ぶ。

アリス

世界が終わる、と言っても
実際どんなことが起きるのかしら

サチカ

さあ

2人は地上よりわずか1000メートルのところにある
地下ターミナルへ到着した。
ここから先はエスカレータだ。

そのころ「地下」の世界は地殻変動で
マグマの海に変貌していた。
一瞬ですべてが無に還ったのだ。
今、地球上にはアリスとサチカだけとなった。

エスカレータが登る間
2人はとりとめのない会話をした。
地下での暮らし、地上にいた時の思い出。
笑ったり、泣いたりした。

アリス

あっ

サチカ

??

アリスはサチカの鼻から血が垂れるのを見た。

放射能は地上に近づくにつれ濃度を増し
2人の体を蝕んでいった。

地上に着く頃にはもう歩くのもままならなかった。

アリス

ああ疲れた。
サチカさんは?

サチカ

私も、疲れちゃった。

アリス

見て、すごい綺麗

サチカ

本当だわ、神様さまさまね

アリス

新しい世界では
いい人と出会えるといいですね。

サチカ

フフ、大きなお世話よ。
あなたこそ、幸せになれるといいわね。

アリス

ありがとう…ございます
……すみません…
わたしはもう寝ます…

サチカ

おやすみ…
新しい世界で……

2人は長い眠りについた
頭上では七色に燃える隕石が
地表へ迫っていた。
その色は
今までの世界の終わりと
新たなる世界の始まりを
告げていた。

③ アスファルトの下

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