セイさんの声がする。声だけ、姿は見えない。

……なんですか、今の

なんだと思いますか?

 突如目の前にセイさんは現れて、ふふふと微笑む。

わからない?

 くっそーバカにされている。

 俺は、必死に先ほどのサンザシの会話を思い出す。なんたら様に、おやすみなさいって声をかけてはしゃぐサンザシ。


 ……おやすみなさい?

あ!

イエス! ぴんときたね、いいね、だとしたらもうわかるはずだね

 セイさんが、人差し指と親指をぴんとのばし、俺に向けて銃を撃つようなしぐさをする。

二つ目のお話をクリアした、あとの話さ!

……二つ目

 脳みそが熱くなる。

 二つ目、ロジャーとアイリーの話を終えた、あとに。

セイさんは、矛盾があるって

 二つ目の話を思い出す。頭が痛い。


 なにか、俺は大切なことを見逃しているはずだ。

さあ、ではその矛盾を解き明かしにいこうか

 セイさんがいいねいいね、とにこにこしながら、両手を広げる。

 考えろ、考えろ。

確かめておいで

 セイさんの両手の先からでた光が、俺めがけてとんで来る。

そろそろロックをはずそうか

 俺は、また、とばされる。










 雨のにおいがした。湿った、土のにおい。さわさわと雨に濡れる、葉っぱの音。

 俺が飛ばされたのは、空き地だった。空き地のど真ん中のようだ。小さな空き地。

 テンプレートのように土管がおいてあるわけでもなく、本当になにもない。俺が立っているのは土の上で、足元には短いこけしかはえていない。

 子どもの遊び場なのかもしれない。空き地の奥の方にだけ草がぼうぼうとはえている。

サンザシ……?

 雨に濡れていたが、そんなの関係なかった。

 暖かい雨に、不快感はない。

崇様!

 俺の後ろから声がした。先程見渡したとき、確かにいなかったはずの場所に、サンザシがいた。

 セイさんと話をして、今飛ばされたのかもしれな――

崇様! よかった!

 突然、サンザシに抱きつかれた。

わっ

 小さいからだでも、勢いよく飛びついてきたらふらつく。

 二、三歩うしろによろめいて、なんとか彼女を受けとめる。

どうしたの、サンザシ

 回りにだれもいないことを確認しながら、俺は声を潜めてサンザシに話しかける。

崇様、崇様

 サンザシは、俺の質問に返事もせず、痛いほどに俺を抱き締めてくる。

 ……うーん。俺は背中をぽんぽんと叩く。

……サンザシさーん、少しだけ恥ずかしいんだけど、さすがに

 言うと、サンザシはぴたりと止まり、飛び退くように俺からはなれた。


 なぜだか、少し構えるようなポーズになっている。今から戦いでも始めるような姿だ。

…………大変失礼しました

 神妙な顔つきで、彼女は言う。

いいけどさ、どうしたの?

……いえ、なんでも

それはなかろうに

 サンザシは構えをとくと、とぼとぼとこちらに歩み寄ってきた。

悪夢を見ていました

5 駄菓子屋の未来 記憶の原点(1)

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