うさら

うーん、いい天気

うさら

ガラスの雨が降ってなきゃね

うさら

なんか降る量も多くなってるし、いよいよもってまずいわね

うさら

しっかしこれだけ降ってもみんな気づかないって、それはそれでいいことなのかもね
こんなの、パニックにしかならないよ

うさら

あたしには当たるんだよね……
止まないと外出られないんだけど

うさら

ったく、傘でも差せばいけるかな?

うさら

ん?
このぞわっとした感じ、まさか……

…………

うさら

朝早くから元気ねえ

いつな

やあ、うさら

うさら

どうも

いつな

それにお茶まで出してくれて、すまないね

うさら

客人では、あるからね

うさら

で、なんの用?

いつな

いや、ちょっと様子を見に来ただけさ
しかしあんまり慌てていないものだね、キミ

うさら

どうしたってあたしの勝手でしょ
で、あたしはいつ選べばいいわけ?

いつな

いつ?

うさら

一週間とか言ってたけど、詳しい時間とか聞いてないもん

いつな

ほう、そういうことを気にする者かキミは
確かにそうとしか言ってないので、気になるものまあわかるか

いつな

明日が最後の一日
そして、その最後の一日から次と変わる時、選択する。そうしよう

うさら

日付の変更の時、でいいのね?

いつな

そうだな
しかしその言い方、キミは誰かを選ぶということのようだね

いつな

ほほう、やはり生き残りたいものな

うさら

ふん

うさら

ちっ、全部解体するつもりなのが顔に出てるっての

うさら

まあ、あたしが消えるのはさすがにちょっとねって

いつな

ほう、では世界を解体する覚悟ができたワケだ
己の意思で

うさら

あたしが選ばなかったっていうのも、バレないしね

いつな

ふふ、確かにその通り

いつな

この短い間にそういう考えにいたるとは、なかなかキミも管理者に向いているのかもね

うさら

あっせんしてくれない?

いつな

残念だが、それはできない
キミは世界の人だからね

うさら

ちっ、就職先が見つかると思ったのに

いつな

申し訳ないねえ、オレたちと同じでも簡単になれるものじゃない

うさら

ふーん

うさら

で、それはともかくだけど
管理者ってそんなやりたい放題できるもんなの?

いつな

ほう、やりたい放題?

うさら

あたしに選ばしたりだとかだよ
れいなに入ったりね

いつな

ほう、どうしてまたそう思うのかな?
オレは権限を持っていると一度言ったような気がするが

うさら

そんなこと言ってたっけ?

いつな

ああ、言った
オレはこの世界の管理者、そしてその管理者の中でも上に立つ者
だからこうしてできるのだとね

うさら

ほーう
でも、それだと管理者って感じじゃないけど
管理ってこんなめちゃくちゃに手を加えるものじゃないでしょ?

いつな

普段ならばね
しかし解体前の世界だ、どうしても構わないようになっている

うさら

あんたら管理者って、そんな風になってるワケ?

いつな

管理者はそういう者だということだ

いつな

まあ、管理している世界に思い入れを強くして、仕事のできないヤツもいるがね

うさら

それ、ちゃんと見守っているだけじゃないの?

いつな

ん?

うさら

ちゃんと管理してきたから、だからしっかりと思い入れが強くなるんじゃないの?

いつな

前言を撤回する
うさら、やはりキミは向いてないようだ

うさら

解体するのは仕方ないかもしれない
でも、だからってこうしてあんたみたいに何でもかんでも好き勝手やるヤツがいい管理者だとは思わないけどね

うさら

むしろ、普段仕事ができなさ過ぎて、そのうっぷん晴らしじゃないの?

いつな

うっぷん晴らしだって?

うさら

つまり、あんたは自分が仕事できるように言ってるけど、実はぺーぺーなヒラもヒラ、そんな管理者だってこと
毎日毎日怒られ続けて、で、それでこんなことしてんだ

いつな

お、オレが仕事のできない管理者だと……ッ

うさら

ふん、図星だった?

いつな

当たっているワケがないだろ

うさら

どうだか
大体そうやってムキになるところがさらに怪しいのよね

いつな

よくも管理者であるオレに、そんな口を……ッ

うさら

なによ、神様じゃないんでしょッ?

いつな

この世界からすれば神に等しい存在だッ

うさら

神様ならなんでもやっていいって?

いつな

そうだオレはそういう力を持っているのだ
どうせ解体される世界、オレがどうこうしようと止められる者などいない

いつな

うさら、キミは口が動きすぎた
罰を与えなければいけない

うさら

ほーう、やってみなさいよ

うさら

口だけのヤツにできることなどあるもんか!

いつな

う、さ、らァ……ッ!

いつな

後悔させてやろう……オレの力にッ!

うさら

くっ、何が起こっても……ッ

うさら

え、いきなり周りが真っ暗に……

うさら

ま、まさかやり過ぎて世界を解体しちゃったとか?

うさら

いやでも、それじゃああたしが生きてるのがおかしい

うさら

な、何が起こってるの?

ふふ、そうか真っ暗か

うさら

いつな
一体何をしたのッ?

ふふ、何ってわからないかい?

うさら

おかしい、声はするのに姿がどこにもない

うさら

痛ッ!

うさら

どこかに手をぶつけちゃったか……ん?

うさら

手が、手が見えない……絶対、見えるところにあるはずなのに
いくら暗いからってそんな……

ふふ、もう気づいたか?

うさら

まさかあたしの目……

見えなくしてやった。それがオレを侮辱した罰だよ
キミはもう二度と何も見えないようにしてやったのだ

うさら

こ、こいつッ!

大したヤツだよキミは
目が見えなくなっても歯向かおうとするなんてね

うさら

こ、こんなくらい……でッ

うさら

こんなことくらいで……ッ

うさら

こんな……ッ

ふふ、怯えるのも仕方がない
生きてくるのにかなり頼っていた視力の力、無くしてしまってはそうもなろう

安心しろ
周りの反応も書き換えて目が見えない設定にしている
周りの人に支えてもらって選択の日まで過ごすんだな

うさら

くそッ、どこッ? いつなッ?

いつな

ふふ、れいなの身体はここに置いておく
じゃあね

うさら

くそッ!

うさらさん!

うさら

どうしました?
何か手伝えることありますか?

うさら

このしゃべり方、ふうな

うさら

い、いや……なんでも、ないよなんでも

ふうな

でもすごく焦っていたような、そんな

うさら

気のせいだよ、気のせい

ふうな

そう、ですか……

うさら

見えないってのは、やっぱり不便だねえ、ははは

ふうな

…………

うさら

そういやこんな朝からどうしたの?

ふうな

あ、散歩でも、どうかなと思いまして

うさら

散歩!
いいねえー、行こう行こう

うさら

もうすぐ解体されるんだから、目が見えなくなったって……

うさら

それにゆうかがやってくれてるはず!

うさら

玄関までは見えなくても覚えてるもんだね

ふうな

あれ、車いす乗らないんですか?

うさら

え、ああ、そうだねそうだ
乗るよ

うさら

任せればいいし、助かるなー

ふうな

いい天気ですよ、うさらさん

うさら

うん、わかる
ちょっとセミの鳴き声も聞こえるね

うさら

ホント、眩しささえないんだね
ガラスも止んだんだ

ふうな

うさらさん、ここでひなたぼっこするの好きですよね

うさら

うん

うさら

見えなくなったあたしを別の世界から持ってきたってことか
そういうあたしもいるんだなあ

うさら

ということは、これまで見えなかったあたしは見えるようになってるのかも
奇跡、みたいな

うさら

そのあたしはきっとこの先も生き続けられるんだろうな……

うさら

そう思えば、あたしがここで消えたって、どうってことはないよ

ふうな

考え事、ですか?

うさら

いや、ぼうっとしてただけだよ

ふうな

そうですか

うさら

見えなくなったあたしは、なんで見えなくなったんだろ?
事故? 病気?

うさら

訊いてみたいけど、でもれいなが嫌な気分になるだろうしなあ

うさら

ま、いいや
今関係あることじゃないしね

ふうな

どこか行きたい所、あります?

うさら

んーっとそうだなー
特にないから、れいなに任せるよ

ふうな

わかりました

どう、この辺りは?

うさら

いいね

うさら

あれ、感じが違う
この感じは、『みいな』だ

みいな

まあ、やっぱり天気もいいから人も多いな

うさら

走ってる人も多いみたいだね

みいな

へえ、耳が良くなってるんだ

うさら

見えなかったあたしの感覚も徐々に引き継いできてるのかな?
なんだか音がよくわかる気がする

みいな

あ、自販機

みいな

ほら、アイス
暑いからな

うさら

え、でも……

みいな

気にするなよ
実はおばさんからちょっと貰ってたんだ

みいな

んー冷たー

うさら

ひー、冷たいねー

うさら

でも美味しい

みいな

やっぱり夏はこれだよな

うさら

そだね

うさら

コンビニの事はなかった事になってるのか

なのー

うさら

そして『よおな』

うさら

我ながら見えなくなっても、誰かってわかるんだ

うさら

まあ、よおなは一番わかりやすいけどね

よおな

む、はずれ棒なのー
残念なの

うさら

もう一本はダメだからね
お腹弱いんだから

よおな

そう言われると、返せないなの

よおな

でも、お腹を犠牲にしてでも食べたいときがあるなの!

うさら

まったく、お子様なんだから

よおな

れ、れいなお子様じゃないなの

よおな

うさらがうるさいから、今回は二本目食べないなの

うさら

はいはい

もうちょっとだけ、いい?

うさら

うお、いきなり『ひいな』
短い間に変わるなあ

うさら

うん、任せるよ

うさら

噴水広場?

ひいな

そう
ちっちゃい頃公園で遊ぶとなると、ここでよく集まってたね

うさら

そうだね
でもれいな、「一人は寂しいもん」とか言っていつもまずはあたしの家に来てたね

ひいな

う、うさらちゃんだってここにまっすぐ行けばよかったのに、よく私の家に来てたじゃない

うさら

そういやそうだ

ひいな

噴水のおかげでちょっと涼しいね

うさら

なるほど、涼むのにはいいもんね

ひいな

ここ最近で一番暑くなるんだって、今日
もう本格的に夏到来って感じかも

ひいな

ちょっと過ぎてテストも終わって、すると夏休みだね

うさら

そっか。そうだね

ひいな

ちょっと遠くまでお出かけしようよ
どこかって、それはまったく決めてないけど

ひいな

家族みんなでもいいしね
というか、そっちの方が安心かな

うさら

夏休み、ということは明日よりずっと向こうなんだ……

うさら

…………

ひいな

うさらちゃん?

ひいな


どうしたの? なんで泣いてるの?

うさら

なんでも、ない
なんでも……

ひいな

……ずっとだよ

ひいな

ずっとうさらちゃん、なんでもないって
でも、なんでもあってどうにもならないから、そんな涙流しちゃうんでしょ

ひいな

目は……先生に見えるかもしれないって、言われたんでしょ?

うさら

違う、違うの……

ひいな

やっぱり話せないこと?

うさら

……うん

ひいな

まったく仕方ないね
じゃあ、みんなから見えないようにするから、思いっきり泣いちゃえば

うさら

で、でも服が、胸のところが濡れちゃう

ひいな

そんなこと気にする幼馴染じゃないよ
ほら

うさら

れいな……ッ、れいな……!

うさら

ぐずっ、ぐずっ……

ひいな

わからないけど、きっとよく頑張ったんだよね
うさらちゃんなりに全力で頑張ってるんだよね

ひいな

私、ずっといるから
うさらちゃんとずっといるから

うさら

ごめん……ッ、れいな……

ひいな

よしよし、泣くのはいいことだよ
きっととても、いいことだよ

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