うーん、いい天気
ガラスの雨が降ってなきゃね
なんか降る量も多くなってるし、いよいよもってまずいわね
しっかしこれだけ降ってもみんな気づかないって、それはそれでいいことなのかもね
こんなの、パニックにしかならないよ
あたしには当たるんだよね……
止まないと外出られないんだけど
ったく、傘でも差せばいけるかな?
ん?
このぞわっとした感じ、まさか……
…………
朝早くから元気ねえ
やあ、うさら
どうも
それにお茶まで出してくれて、すまないね
客人では、あるからね
で、なんの用?
いや、ちょっと様子を見に来ただけさ
しかしあんまり慌てていないものだね、キミ
どうしたってあたしの勝手でしょ
で、あたしはいつ選べばいいわけ?
いつ?
一週間とか言ってたけど、詳しい時間とか聞いてないもん
ほう、そういうことを気にする者かキミは
確かにそうとしか言ってないので、気になるものまあわかるか
明日が最後の一日
そして、その最後の一日から次と変わる時、選択する。そうしよう
日付の変更の時、でいいのね?
そうだな
しかしその言い方、キミは誰かを選ぶということのようだね
ほほう、やはり生き残りたいものな
ふん
ちっ、全部解体するつもりなのが顔に出てるっての
まあ、あたしが消えるのはさすがにちょっとねって
ほう、では世界を解体する覚悟ができたワケだ
己の意思で
あたしが選ばなかったっていうのも、バレないしね
ふふ、確かにその通り
この短い間にそういう考えにいたるとは、なかなかキミも管理者に向いているのかもね
あっせんしてくれない?
残念だが、それはできない
キミは世界の人だからね
ちっ、就職先が見つかると思ったのに
申し訳ないねえ、オレたちと同じでも簡単になれるものじゃない
ふーん
で、それはともかくだけど
管理者ってそんなやりたい放題できるもんなの?
ほう、やりたい放題?
あたしに選ばしたりだとかだよ
れいなに入ったりね
ほう、どうしてまたそう思うのかな?
オレは権限を持っていると一度言ったような気がするが
そんなこと言ってたっけ?
ああ、言った
オレはこの世界の管理者、そしてその管理者の中でも上に立つ者
だからこうしてできるのだとね
ほーう
でも、それだと管理者って感じじゃないけど
管理ってこんなめちゃくちゃに手を加えるものじゃないでしょ?
普段ならばね
しかし解体前の世界だ、どうしても構わないようになっている
あんたら管理者って、そんな風になってるワケ?
管理者はそういう者だということだ
まあ、管理している世界に思い入れを強くして、仕事のできないヤツもいるがね
それ、ちゃんと見守っているだけじゃないの?
ん?
ちゃんと管理してきたから、だからしっかりと思い入れが強くなるんじゃないの?
前言を撤回する
うさら、やはりキミは向いてないようだ
解体するのは仕方ないかもしれない
でも、だからってこうしてあんたみたいに何でもかんでも好き勝手やるヤツがいい管理者だとは思わないけどね
むしろ、普段仕事ができなさ過ぎて、そのうっぷん晴らしじゃないの?
うっぷん晴らしだって?
つまり、あんたは自分が仕事できるように言ってるけど、実はぺーぺーなヒラもヒラ、そんな管理者だってこと
毎日毎日怒られ続けて、で、それでこんなことしてんだ
お、オレが仕事のできない管理者だと……ッ
ふん、図星だった?
当たっているワケがないだろ
どうだか
大体そうやってムキになるところがさらに怪しいのよね
よくも管理者であるオレに、そんな口を……ッ
なによ、神様じゃないんでしょッ?
この世界からすれば神に等しい存在だッ
神様ならなんでもやっていいって?
そうだオレはそういう力を持っているのだ
どうせ解体される世界、オレがどうこうしようと止められる者などいない
うさら、キミは口が動きすぎた
罰を与えなければいけない
ほーう、やってみなさいよ
口だけのヤツにできることなどあるもんか!
う、さ、らァ……ッ!
後悔させてやろう……オレの力にッ!
くっ、何が起こっても……ッ
え、いきなり周りが真っ暗に……
ま、まさかやり過ぎて世界を解体しちゃったとか?
いやでも、それじゃああたしが生きてるのがおかしい
な、何が起こってるの?
ふふ、そうか真っ暗か
いつな
一体何をしたのッ?
ふふ、何ってわからないかい?
おかしい、声はするのに姿がどこにもない
痛ッ!
どこかに手をぶつけちゃったか……ん?
手が、手が見えない……絶対、見えるところにあるはずなのに
いくら暗いからってそんな……
ふふ、もう気づいたか?
まさかあたしの目……
見えなくしてやった。それがオレを侮辱した罰だよ
キミはもう二度と何も見えないようにしてやったのだ
こ、こいつッ!
大したヤツだよキミは
目が見えなくなっても歯向かおうとするなんてね
こ、こんなくらい……でッ
こんなことくらいで……ッ
こんな……ッ
ふふ、怯えるのも仕方がない
生きてくるのにかなり頼っていた視力の力、無くしてしまってはそうもなろう
安心しろ
周りの反応も書き換えて目が見えない設定にしている
周りの人に支えてもらって選択の日まで過ごすんだな
くそッ、どこッ? いつなッ?
ふふ、れいなの身体はここに置いておく
じゃあね
くそッ!
⁉
うさらさん!
⁉
どうしました?
何か手伝えることありますか?
このしゃべり方、ふうな
い、いや……なんでも、ないよなんでも
でもすごく焦っていたような、そんな
気のせいだよ、気のせい
そう、ですか……
見えないってのは、やっぱり不便だねえ、ははは
…………
そういやこんな朝からどうしたの?
あ、散歩でも、どうかなと思いまして
散歩!
いいねえー、行こう行こう
もうすぐ解体されるんだから、目が見えなくなったって……
それにゆうかがやってくれてるはず!
玄関までは見えなくても覚えてるもんだね
あれ、車いす乗らないんですか?
え、ああ、そうだねそうだ
乗るよ
任せればいいし、助かるなー
いい天気ですよ、うさらさん
うん、わかる
ちょっとセミの鳴き声も聞こえるね
ホント、眩しささえないんだね
ガラスも止んだんだ
うさらさん、ここでひなたぼっこするの好きですよね
うん
見えなくなったあたしを別の世界から持ってきたってことか
そういうあたしもいるんだなあ
ということは、これまで見えなかったあたしは見えるようになってるのかも
奇跡、みたいな
そのあたしはきっとこの先も生き続けられるんだろうな……
そう思えば、あたしがここで消えたって、どうってことはないよ
考え事、ですか?
いや、ぼうっとしてただけだよ
そうですか
見えなくなったあたしは、なんで見えなくなったんだろ?
事故? 病気?
訊いてみたいけど、でもれいなが嫌な気分になるだろうしなあ
ま、いいや
今関係あることじゃないしね
どこか行きたい所、あります?
んーっとそうだなー
特にないから、れいなに任せるよ
わかりました
どう、この辺りは?
いいね
あれ、感じが違う
この感じは、『みいな』だ
まあ、やっぱり天気もいいから人も多いな
走ってる人も多いみたいだね
へえ、耳が良くなってるんだ
見えなかったあたしの感覚も徐々に引き継いできてるのかな?
なんだか音がよくわかる気がする
あ、自販機
ほら、アイス
暑いからな
え、でも……
気にするなよ
実はおばさんからちょっと貰ってたんだ
んー冷たー
ひー、冷たいねー
でも美味しい
やっぱり夏はこれだよな
そだね
コンビニの事はなかった事になってるのか
なのー
そして『よおな』
我ながら見えなくなっても、誰かってわかるんだ
まあ、よおなは一番わかりやすいけどね
む、はずれ棒なのー
残念なの
もう一本はダメだからね
お腹弱いんだから
そう言われると、返せないなの
でも、お腹を犠牲にしてでも食べたいときがあるなの!
まったく、お子様なんだから
れ、れいなお子様じゃないなの
うさらがうるさいから、今回は二本目食べないなの
はいはい
もうちょっとだけ、いい?
うお、いきなり『ひいな』
短い間に変わるなあ
うん、任せるよ
噴水広場?
そう
ちっちゃい頃公園で遊ぶとなると、ここでよく集まってたね
そうだね
でもれいな、「一人は寂しいもん」とか言っていつもまずはあたしの家に来てたね
う、うさらちゃんだってここにまっすぐ行けばよかったのに、よく私の家に来てたじゃない
そういやそうだ
噴水のおかげでちょっと涼しいね
なるほど、涼むのにはいいもんね
ここ最近で一番暑くなるんだって、今日
もう本格的に夏到来って感じかも
ちょっと過ぎてテストも終わって、すると夏休みだね
そっか。そうだね
ちょっと遠くまでお出かけしようよ
どこかって、それはまったく決めてないけど
家族みんなでもいいしね
というか、そっちの方が安心かな
夏休み、ということは明日よりずっと向こうなんだ……
…………
うさらちゃん?
⁉
どうしたの? なんで泣いてるの?
なんでも、ない
なんでも……
……ずっとだよ
ずっとうさらちゃん、なんでもないって
でも、なんでもあってどうにもならないから、そんな涙流しちゃうんでしょ
目は……先生に見えるかもしれないって、言われたんでしょ?
違う、違うの……
やっぱり話せないこと?
……うん
まったく仕方ないね
じゃあ、みんなから見えないようにするから、思いっきり泣いちゃえば
で、でも服が、胸のところが濡れちゃう
そんなこと気にする幼馴染じゃないよ
ほら
れいな……ッ、れいな……!
ぐずっ、ぐずっ……
わからないけど、きっとよく頑張ったんだよね
うさらちゃんなりに全力で頑張ってるんだよね
私、ずっといるから
うさらちゃんとずっといるから
ごめん……ッ、れいな……
よしよし、泣くのはいいことだよ
きっととても、いいことだよ