細身の小柄な少年は、
聖剣の柄に手をかけた。
細身の小柄な少年は、
聖剣の柄に手をかけた。
ん~~~~!
しかし、
剣は微動だにしなかった。
ねえ、ログ?
なんだい?
手伝ってもいいかしら?
いや、だめだろ!
僕らはあるがままを記録しに来ただけなんだから
……ハァ……ハァ
はい、もう下がってね
……今、手ごたえあったんで! もうちょっとでスッとイケそうな感じなんで!
はいはい、後ろつかえてるからね
くっ……
残念だったね
ちっ、賭けてたのに
おい。…ていうか、賭けの相手誰だよ?
ニャ
お前か! 撮影に集中してくれ……
グオオオオオオオオ!
問題の彼の番ね
邪魔しちゃだめだよ
大丈夫。邪悪な存在には勇者の証を抜くことなんてできないわ
だから勝手に邪悪にするなって……
大男は、
聖剣の柄に手をかけて力を込めたが、
剣は微動だにしない。
男はとうとう両腕で柄をつかんで、
身をのけぞさせた。
すると、
ギシギシと音を立てて、
岩に刺さった刀身が少しずつ姿を現した。
あっ、抜けそう!
……どう見ても怪力で抜いてるわよ。あれは勇者の素質とか関係ないんじゃない?
そうだね。勇者だったらスッと抜けそうなもんだよね。
でも、ひょっとしたら史実はこうだったのかなあ……
どうすんのよ? このままだと大鬼が世界を救ったことになるわよ? いいの?
事実なら受け入れるしかないよ
大男が勇者になろうとしていたその瞬間、
1人の兵士が広場に飛び込んできた。
大変です! この広場に魔物が潜入しているとの情報がたった今入りました!
何!? それはまことか!?
間違いありません!
ばかな、そんな者はこの広場には……
グオオオオオオオオ!
……
やつをつかまえろ!
大男は、
兵士たちによってまたたく間に取り押さえられた。
騎士長どの! 彼は今、もっとも勇者に近い人物だったのですぞ!
なぜ……
……
まあ……
わからんでもないですが……
……だろう?
私の読み通り! やっぱりあいつは魔物だったみたいね!
そうかなあ…? 何の証拠もないよ?
グルルル! ハナセ!
勇者の剣を奪い、勇者の出現を食い止める狙いだったようだが、ぬかったな!
チガウ……。ワタシハ、ムラノミンナノタメニ、ユウシャニナリタクテ……
だまれ! 魔物め!
神聖な儀式の場を汚した報い、今こそ受け……ん?
ガハッ!
突如、
群集の中から、
次々と火球が打ち出され、
取り押さえていた兵士もとろも、
大男を焼き焦がした。
ギギャ!
なんだなんだ?
あ、あれは!
広場にいた人々の視線は、
火球を放ったと思しき人物に集まった。
……
勇者様!
鬼野郎をやっつけたってことは、やっぱり彼が真の勇者だったのね!
……いや、どうもそうじゃなさそうだよ?
……くくく
よもや、剣を引き抜き真の力を手に入れる前に勇者を倒すことができるとはな
ま、まさか。では貴様が……
そう。潜入していた魔物とはこの私……。イルビス様の命により、勇者となる人物を即座に排除するために来たのさ
誰が勇者かわからぬ状況では、うかつに力を無駄遣いするわけにはいかなかったが……
君たちが取り押さえてくれたおかげで、効率よく排除できたよ……
もう恐れるものはない! 貴様ら全員、根絶やしにしてくれる!
そっちかーい!
勇者じゃなくて、魔界のプリンス的な美少年だったのね!
ありだわ!
ありだわじゃないよ! これ相当マズイ状況だよ?
おかしいな。きょうは間違いなく勇者が見出されて伝説が始まる日のはずなのに……
勇者になりそうだった鬼ノ助はやられてしまったわね……
鬼ノ助て
……ねえ、ログ。こうは考えられない?
今、この場には、本来の歴史に存在しなかったはずのものが存在しているわ
……僕らのことかい?
そう……つまり
私たちが歴史に干渉したせいで、勇者が現れない世界線が生まれてしまったのよ!
……
メモリ……
いや、僕らしゃべってただけで、まだ別に干渉してないし
……
もっともらしいことをそれっぽく言ってみただけよ
適当かよ!
ズバッ!!
ぐはああああっ!!
あっ、いつのまにか魔界のプリンスが斬られてる!
えっ!
ちょっと! 無駄口叩いてたせいで決定的瞬間見逃したじゃないの!
無駄口叩いてたのはおもにそっちだよ
それにしても、いったい誰が?
人々の視線の先。
そこには、
誰もが抜くことができなかった聖剣を、
軽々と振るう男の姿があった。
……
あ、あれは……
整理券配ってた人!?
……騎士長どの
どうやら、真の勇者は……私だったようですな
おっさんじゃん!
おっさんじゃん!
ニャ
……
おっさんじゃん
……なんかすみません
せめて俺じゃね?
……私もそう思う
……ねえ
これから私たち、勇者の長い冒険の旅をずっと記録していくんでしょ?
そうだね
その主役が、おっさんで本当にいいの?
……史実なら、僕らは受け入れるしかない
え~~~
伝説の通り、
この日、勇者は選ばれた。
ウオオオオオオオオ!
聖剣を高らかに掲げ、
勝どきの声を上げるおっさんの姿に、
誰もが動揺していた。
そんな中、
ログエルは1人、密かに思うのだった。
……
ヒゲのおっさん萌え~
だが、彼の性癖が、
白日のもとに晒されることはなかった。
今は、まだ……。
選ばれた日の記録《完》