1000年前。
イルビスという悪しき神官が
異界の魔物を操り、
世界を支配しようとした。
だが、
神に選ばれし1人の救世主と、
仲間たちの手で目論見は砕かれ、
異界へ封じられた。
それから1000年。
世界に再び異形の魔物たちが現れた。
異界の魔王となったイルビスは、
執念により現世へ還り、
またしても驚異となった。
神は、
1000年前と同じく、
この魔の王を封印しようと考えた。
だが、
1000年という月日は、
神にとっても長いものであった。
1000年前。
イルビスという悪しき神官が
異界の魔物を操り、
世界を支配しようとした。
だが、
神に選ばれし1人の救世主と、
仲間たちの手で目論見は砕かれ、
異界へ封じられた。
それから1000年。
世界に再び異形の魔物たちが現れた。
異界の魔王となったイルビスは、
執念により現世へ還り、
またしても驚異となった。
神は、
1000年前と同じく、
この魔の王を封印しようと考えた。
だが、
1000年という月日は、
神にとっても長いものであった。
封印って……
どうやるんじゃったかの?
神は、忘れた。
封印の方法を覚えていなかった。
当時の戦いの記録は、
口伝や古い書物により、
ごく断片的に、
あるいは、
虚実ないまぜに語られるのみ。
具体的にどうイルビスを倒し、
どう異界へ追いやったかは、
今や定かではない。
神は思った。
当時の詳細な資料が必要じゃな
さらに神は思った。
読むのが面倒な紙媒体ではのうて……
映像と音声でまるっと一発で伝わるような、わかりやすい記録が必要じゃな
ものぐさな神は、
自らのしもべ、
「天使」を過去へ送り込んだ。
かつての勇者がどのような軌跡を辿り、
どのように魔を封印したか、
調べさせることにしたのだ。
これは物語ではない。
天使たちがその目に焼き付けた。
遠い過去の記録である。
1000年前
城壁に囲まれた町ケンロック。
その中ほどにある大きな広場に、
さまざまな世代、人種の男女が集まっていた。
彼らは、
鎧に身を固めた兵士に整列させられて、
何かを待っているようである。
――さて。
その群集を見下ろすようにして、
1人の男と1人の女、
そして、
1匹の猫が空に浮かんでいた。
もちろん、
普通の人間ではない。
また、
普通の人間は、彼らを見ることができない。
彼らこそが神のしもべ、
「天使」であった。
えーっと、これってもう回ってるの?
ニャ
よし。じゃあ、始めようか。えーっと、何から話せばいいかな
ログの性癖からどうぞ
なんでだよ
ヘタすりゃこの記録、永遠に残るんだぜ。
性癖なんか晒したらエラいことだよ
暴露されたら困るような性癖ってことね
そうじゃないよ!
……とりあえず、この記録映像を見ている人のために一応自己紹介でもしておこうか
僕は二級天使のログエル
私は二級天使のメモリエル
2人あわせて?
いや、別にそういうの無いから
えーと。僕たちは、神様の命を受けて、1000年前の世界にやってきました。
今、ご覧いただいている映像は、1000年前にあった城塞都市ケンロックの風景です
生中継です
違います。これは、撮影担当の三級天使イマジンが撮影機で記録したものです
なあ、イマジン?
ニャ
はい。そういうわけで、この映像は未来の世界の資料用に撮影しています
イルビスを封印する方法が現在の世に明確に伝わっていないので
当時の勇者たちの旅を映像記録にして、現代の役に立てようというわけです
ねえログ。これを見る人は、そんなことはわかっているんじゃなくて?
そうだけど、ちゃんと説明しておくに越したことはないと思うよ?
トラブルが起きて記録映像だけが残ったとしてもちゃんと参考になるように、きちんと説明しなきゃ
私が聡明な勇者なら、こんな前置きはさっさと早送りするわ
念のためだよ……。そういうわけで、我々は今、記念すべき瞬間に立ち会っているわけだ
下を見てごらん
ずいぶんとたくさんの人が集まってザワザワしているわね
ガヤガヤだけどね
誰か処刑されるのかしら?
物騒だな
私の地元では人が集まる行事といえば、炊き出しか公開処刑のどちらかだわ
ハードな地元だね
あと、すっぱだかフェスティバル
いろんな顔を見せる地元だね
通称すぱフェス
いいよ、そんな掘り下げなくて
……とにかく、これは記念すべき勇者決定の瞬間なんだよ!
というと?
見てごらん。そろそろ始まるはずだよ
人でごった返す広場に1人の騎士が現れ、
壇上に上がった。
兵士たちが群集に静寂を求め、
やがて、場が静まりかえる。
諸君。感謝する。
こうして集まってもらったのは他でもない。この神に清められし岩と、古代の英雄が遺した聖剣を使い……
かの邪悪なる神官イルビスを討つ「勇者」を選出するためである!
男がそう告げると、
壇上には、
台車に乗せられた大岩が運ばれてきた。
大岩からは、
剣の柄とおぼしきものが飛び出している。
刀身は岩にしっかりと刺しこまれていた。
ははーん。読めたわ。アレね
その通り
BBQ
いや、岩と剣は?
焼いて食う!
それもう拷問だよ!
すぱフェスの恒例行事よ?
わりとシビアなイベントだね
そうじゃなくて、ホラわかるだろ?
岩に刺さった剣といえば?
アレでしょ? どうせ今から1人ずつあの剣に手をかけて、抜いたヤツが勇者だとかって話でしょ?
どうせって言うな
それで、どうせあのでかい鬼みたいのに一太刀浴びせるんでしょ?
鬼?
メモリエルは、
群集の後方にいる大男を指差した。
あいつを倒した者が真の勇者ってわけね
いや、あの人も並んでるから。勇者志願者だから
そう? どう見ても魔物サイドよ? くっころ系の女とセットで出てきそうな感じよ?
くっころ系……?
メモリ。人を見かけで判断しちゃだめだよ
心外だわ
人とすら思わなかったわよ
よりひどいよ!
だいたい、これから剣を抜く儀式に挑むのに、なんですでに剣持ってるのよ?
……護身用?
グオオオオオオオオ!
い、今の声は……?
どうやら例の彼だね
ねえ、ログ。彼は本当に人間なの?
……僕もちょっと疑問視することにしたよ
中編につづく……。