彼はどんどん私との距離を縮めた。心臓が高鳴る。
ふと話しかけたいという思いがこみ上げる。どうしようもなくこみ上げてくる。
人込みのざわめきが、いつからか私の耳に入らなくなっていた。
まるでこの世界には二人しかいないのではないだろうか、という錯覚に陥るほど、その景色は静かで、緊張したものだった。
彼は否応なしに、私へと近づいてくる。私は決心していた。なんとかいちファンとして彼に話しかけたいと思っていた。
どんどん近づいてくる。私も前進した。驚くほど勇気が湧き上がってきた。彼に、彼に話しかけたい!
何を言おうかなんて決める時間はなかった。とりあえず、応援しているという気持ちを伝えたい。それから……それから。
時間はなかった。彼は私の数歩先にいた。
チャンスは今しかなかった。
夢だと思った。