Ⅱ 怪異の追跡と、意外な結末
Q君が帰った後のテーブルでも、私たちからはその話題から離れられない。

Q君、怖いもの知らずだよね……。

まああいつ、昔からああだったけどな。先生に呼び出されても、全然気にしないって感じだったし。

いやいや、さすがに教師と幽霊を比べるのはちょっと。

でもさあ、俺もなんか興味出てきたよ。なあ、これからあいつのあとを付けてみない?

ちょ!ちょっと!何を言っているの?

おー、じゃあAはここで帰っていいぞ。もうすぐ閉店の深夜零時だし、とりあえず俺たちも出ようぜ。

いやいや、そういうわけにはいかない!絶対、見たい!!

あれ、意外と興味あるんだ、幽霊

じゃあ決まりだな。みんなでQの家方面へ行ってみよう。今から追いかけたら、追いつけるかもしれないぞ

そうこうして、私たちはQ君の住む地域にある、通称”おばけトンネル”へ向かうことになった。

ねえ、雰囲気やばくない?

ちょっとちょっと、もう根を上げたのかよ。そんなんだから彼氏に振られるんだよ、A

う、うるさいわねっ!振られたんじゃなくて、私が振ったのよ

二人とも仲良さそうだね。お似合いなんじゃない?

はああ!?何を言っているの?誰がこんな奴!

A、おまえにそれを言われる筋合いはねーよ。俺から願い下げ

その反応。すごくお似合いだと思うけどなー。

減らず口を叩きあいながら、私たちは暗い山道を進んで行く。
ぽつんと灯された街灯が寂しげな、細い通りだ。

突然、背後から物音が聞こえた。
例えるなら、森の中を人間が走りぬけるような音だ。

な、何!?

こわっ!驚かすなよ!誰だよ。

二人とも冷静に。誰もいないよ。あんまり騒ぐと本当に”出る”かもよ。急ごう

三人は振り返り、周りを見渡すが、そこには夜の闇が広がるだけで、誰もいない。
慌てるAとKを、Mはなだめ、再び歩き始める。

んっ……分かったわよ。別に驚いたわけじゃないし。行こう!

出ました!Aの強がり!!

ばっ、馬鹿!強がってないってば

さあさあ、夫婦漫才してないで!早く行こう

してないってば!

夜道でふざけながら、一同はトンネルの前まで来た。
ここまで、Qには追いついていない。

Qの奴、意外と足、速かったんだな

あーたしかに彼、ずっと体育会系だったもんね

しかも、ここまで収穫なし、か。僕らもそろそろ帰った方がいいかな

疲れを感じ始めた三人は、立ち止まって溜め息を吐く。
その時――。

な、何よ!?

再び木の葉を揺するような物音がして、三人は前を見た。
前方を見ると、トンネルの前に、女子高生が立っていた。
なぜ女子高生か分かったかと言うと、彼女が地元の高校の制服を着ていたからだ。
セーラー服にスカーフ。膝ちょうど丈のスカートに白の靴下。
肩下十センチほどのストレートの黒髪に切り揃えた前髪。
真面目そうな外見の女子高生が、じっとこちらを見つめている。
まだ暑さの残るこの時期には、どう考えても早い。

早く帰りなさい。

え……?

しゃべった!?

どうしよう、本物なの?

三人は、その場に立ち止まったまま動けずにいる。
そんな様子を前に、少女は私たちへ向かって寂しげな声で叱咤すると――姿を消した。

やっべぇ……本物を見ちまったわ

あれ、たしかにR君のお姉さんだね。顔がRにそっくりだった。

こ、怖っ……!

三者三様の言葉を口にしたが、誰も皆、その表情は青ざめている。

帰ろう。もう馬鹿なことは止めて

Mが口にして踵を返すと、他の二人もつられるように元の道を戻っていく。
時計をみると、すでに深夜一時を過ぎていた。

うん、そうしよう。やっぱり冷やかしで見に行くものじゃないよ。

あー、M君の言う通りだわ。好奇心で見るものじゃないね、幽霊って。

ああ。それにしても俺たち……高校生に怒られちまったな。

ちょ!

まあ、確かに駄目だね、僕たち。

並んで歩きながら、三人は深く反省して、週明けからの仕事に励もうと誓ったのだった。

―了―

Ⅱ 怪異の追跡と、意外な結末

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