Ⅰ 怪異の告白
九月の大型連休、通称、シルバーウィーク。
私たちは地元の飲み屋で中学校の同窓会をしていた。
社会人になって数年。
ぼちぼち結婚して所帯を持つ者や転職する者、家族の介護が必要になってしまった者――様々な事情を持つ私たちは、子ども時代を思い出して盛り上がった。

あれ、もうこんな時間

時計へ目をやると、すでに午後十一時半近くだ。

そっか。そろそろ解散するかー。早く帰らないと”出る”かもしれないもんな

私たちの住む街は山あいにある。
駅前は夜遅くまで賑やかでも、市街地まで十分ほど足を伸ばせば、人気のない崖や林に行き着いてしまう。

おーそうだなー。俺もさ、昨日見たばっかりで寝不足だから

警備関連の仕事をしているQが、ふと零した。

は?見たって、何を?

何って。見たって言ったらひとつしかないでしょ。幽霊だよ。正しくは、音を聞いただけだけど。ほら、今担当してるの、▲▲▲古戦場近くにある×××スタジアムじゃん?出るんだよね、実際

▲▲▲古戦場というのは、中世に何度も大きな戦が行われ、多数の死者を出したという場所である。
大昔はいろいろあった土地だが、現在は公園やスタジアム、新興住宅街や農地などとして平和的に利用されている。

え?

えええっ!?

普通にやばいね、それ

一同は驚いて顔を見合わせる。

そんな顔するなよ。昨日の夜とかさ、誰もいないのに。上の階からドドドドッってすっげー音するの。保守業者に相談しても、何にも問題ないっていうしさ。もう、うるせーのなんのって。工務店や保守点検業者にクレームあげ言っても、しらばっくれるしさ。原因不明です、って。

それ、落武者の亡霊なんじゃないのー。

あー、それ、業者の連中にも言われたわ。出るんじゃないっすか~?とか言って。気楽なモンだよな、奴ら。そういえば、外部の警備の人も変なモン見たって言い出して問題になってたし。

え、聞きたい。

ほら、去年だけど、●●が来てスタジアムで試合したんだ。観客も多いから外部から警備も来てさ、それで、深夜三時くらいに……見たんだって。

え……何を?

その場にいる者たちは、声を潜めて耳をそばだてる。

屋内トイレやシャワー室の灯りが、端から順番に点いていくのを。落武者も小便くらいするのかもしれないけど、はた迷惑な話だよなー。

怖っ!

怖いわ!

ありえないよ。なんでそんな平然としてるの?

え……だって、別に当たり前じゃねえ?古戦場なんだしさ、出ないわけがないっていうか。

……そ、それはそうだけど!

そうだよ、そういう問題じゃないだろ。

そうかなあ……あ、でも俺、近所にも心霊スポットあるしさ。

ああ、Pトンネルでしょ?おばけトンネルって言われてる。

そうそう、霊感のある友達がいうには、若い女の霊が佇んでるらしいよ。

そこにこれから帰るんだよね……怖くはないの?

全然!……っていうか、俺、その幽霊の正体には心当たりあるし。

はあ?どこまで呑気なの。

普通に怖くないか、それ。

何!何?Qは詳しいなあ。ってか、その幽霊って誰よ。

幼馴染のR……の、姉ちゃん。あいつの姉ちゃん、五年前くらいにあのトンネルの脇にある吊橋から、身投げしちゃったんだよね。だから、そこに立ってるのも納得っていうか。

平然と、Qは答える。

はああ!?何を納得してるんだよ。

そうだよ、怖くないの?

いや、だって友達のねーちゃんだし。ちっちゃい頃は世話になったしなー。

あっけらかんとした彼の物言いに、私たち一同は戦慄した。

じゃ、そんなわけで、俺はそろそろ帰るわ。ここから徒歩だと意外と時間がかかるしな。そんじゃあ、またな。

唖然とする私たちの前に、Q君は自分の分の代金を置き帰宅した。

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