カミサマはポンコツ

後編


働いたら負けを信条とするホーリーニートこと
神・星だったが
参拝客の十八年ぶりの賽銭につられ
しぶしぶと神の務めを果たすことにしたのであった。

なにすればいいんだっけ?

クロ

なにって、あの参拝客の学力をちょちょっと上げてやりゃあいいんじゃねえの?

どうやって?

シロ

さあ?

まともに神の生業を務めたことのないこの一行。
いきなりのチュートリアルからつまづき途方に暮れる。

しばしなやんだあと
三人は有名な学業の天神さまの元へアドバイスを聞きに行くという
実に初心者的な手法をとることに決めた。


そうして訪れたのは
福岡県、太宰府天満宮。
菅原道真公が祀られている世界的にも有名な学業成就の神社である。

でっ……けええ!!

シロ

広いですねー
うちの5000倍くらいあるんじゃないですか?

うちはタタミ三畳の広さしかないのに~
差別だ 神さま差別だ

シロ

いやあ
仕事量に応じた適切な環境ですよね

ぐぬぬ

広すぎる敷地に圧倒され
グルグルと迷いながら
3人は天神さまの居る本殿を目指す。

とおい つかれた

シロ

若いのにとんだ機動力の低さですね

クロ

引き篭もりらしい体力のなさだよ

あたい小っちゃいから!
こどもだからしかたない!!

すでにくたびれている星を引き摺りながら
シロとクロは参拝客が一際集まっている場所を見つけた。

クロ

あそこだ
あそこが本殿だな

シロ

ほら、星さま シャンとして下さい
我々はご教授を頂きに来たんですから
失礼のないように

は~い

実に面倒くさそうに星が本殿に向かって
歩き出そうとしたときだった。

シロ

天神さまである藤原道真公は
勤勉でとってもお堅いことで有名な
方ですからね

シロの言葉を聞いた星の足がピタリと止まる。

まじめなの?

シロ

道真公は幼い頃から聡明で努力家
なことで有名な方ですよ

クロ

没後に政敵を急死に追いやったり
厳しい上に神通力も相当なもんだぜ

道真公のエピソードを聞きながら
星の足がジリジリと後ずさっていく。

シロ

星さま?

……やだ

シロ

は?

あたい、いかない

クロ

はあああ!?

そんなおっかないおっちゃんのとこ
あたい、いかない!

シロ

星さま!?

シロとクロが呼び止める間もなく
星は身を翻して全力ダッシュで去っていく。

さっきまでのダラダラした歩行は
なんだったのかと云うほど俊敏なダッシュだ。

クロ

ここまで来て帰るとか
ありえないぞ お前!

シロ

星さま!
ご教授も受けずにどうやって
参拝客の願いを叶えるんですか!?

しらねー! 
あたいの知ったこっちゃねー!

シロ

星さま!!

クロ

あんた最低だ!!


そうして何もせず
小星神社に帰ってきた3人。
もはや稲荷たちも呆れて言葉もない。

……だって あたい
人見知りだし

クロ

そーいうのはコミュ障っていうんだよ

シロ

本当にもう
……なんで星さまって神さまになれたんでしょうね

神さまとコミュ障は関係ないし

くたびれ損をしただけの3人は覇気をなくし
狭い社の境内でグダグダと時間を潰す。

そういえば おまんじゅうは?

クロ

うわ、図々しい!
逃げ帰ってきたくせに
何言ってるんだお前は!

おまんじゅう……

シロ

申し訳なさ過ぎて
このお賽銭受け取れませんよ。
今度あの参拝客が来たら返しましょう

えー せっかくもらったのにぃ


こうしてますます神社としての格を下げようとしていた
小星神社だったが……

その翌月、再びあの少年が参拝に訪れたのだった。

あの子だ!

クロ

本当だ!

シロ

どうしたんでしょう
まさか、ご利益がなかったことを怒って
怒鳴り込みに来たんじゃ……

ひええええ

己の務めを果たせなかったことに
戦々恐々とした3人だったけれど。

少年は前回と同じように
賽銭箱に百円玉を投げ入れると
パンパンと手を合わせ丁寧に頭を垂れた。

一磨

神さまありがとうございます
おかげで俺、無事に高校合格しました!

ええええええええ!?

シロ

ええええええええ!?

クロ

ええええええええ!?

3人は合わせて驚きの声をあげる。
身に覚えのないご利益の謝礼をされてしまい
ただひたすらポカンとするばかりだ。
しかも。

一磨

小さいけどここの神社
しっかりご利益があってすごいなあ。
みんなにも教えてやろうっと

よほど高校合格が嬉しかったのか
少年は嬉しそうにそんなことを呟くではないか。

梅の綻ぶ境内を
弾んだ足取りで去っていく後姿を見送りながら
3人は呆然とする。

たいへん……
あたいのご利益あったって

クロ

いやいや
どう考えても他の神社のご利益だろう

シロ

それか彼自身の
努力の賜物ですね

稲荷たちの言うことは正論だが
棚ぼたでお礼参りをされた星は
ニヤニヤと上機嫌だ。

いひひ
あたいすごいね さすが神さま

クロ

いやいやいや
お前何もしてねーだろ

したよ
天神のおっちゃんとこにお参りした

クロ

行きかけて帰っただけじゃねーか!

シロ

しかもご教授を受けに行ったんであって
参拝に行った訳じゃないでしょう!

あたいすごい

シロ

もし太宰府天満宮のご利益だとしたら
天神さまはものすごーく懐の深い
偉大な方ですね

クロ

こいつに参拝した人間が哀れすぎて
お情けを掛けてくれたんじゃねーの?

シロ

やっぱりすごいのは天神さまですね

クロ

つーわけで
この賽銭は太宰府天満宮の賽銭箱に
入れ直してくるのが正しいな

そんな!!!

三畳ほどの小さな小さな境内を
小さな神さまと小さな稲荷たちが
ドタバタと走り回る。

おまんじゅう!
おまんじゅう買うって言った!

シロ

働かざるもの喰うべからずです!

はたらくから!明日からはたらくから!

クロ

ウソだ!
お前これっぽっちも働く気ないだろ!


かくして。

ご利益があるんだかないんだか分からない小星神社には
ちらほらと参拝客が訪れるようになり。

小さな小さな神さまは
それからちょっぴり
働くようになったとか ならなかったとか。




【おしまい】

カミサマはポンコツ・後編

facebook twitter
pagetop