【カミサマはポンコツ】

前編


日本のとある片田舎。
住宅街から少し離れた場所に小さな小さな社があり
街の人はそれを小星神社と呼んでいた。

しかし、小さな社に参拝に来る人はこの街にはいない。

なぜなら。

今日も水しかそなえられてない~

シロ

だってうちにそなえてもご利益ありませんし

クロ

だって星さま働いてねえし

この小星神社、神様が働かず
なんのご利益もご加護もないことで有名だったのだ。

でもあたい神様なのに

シロ

人の役にたってこその神様です
今のご時世、働かないで飯にありつけるなんて甘いですぞ

おまんじゅうたべたい

クロ

はたらけ

やだ!
あたい神様だもん!えらいんだもん!

シロ

うわ、ひらきなおりおった

クロ

わしらだって腹減ってるんだよ!
働け!このホーリーニート!!

やだやだー!!


この小星神社、500年間ずっとこんな調子である。

『働いたら負け』が信条のこの神を
崇うものも頼るものも当然おらず。

小星神社は今日も今日とて閑散としてるのであった。



そんなある冬のこと。

一磨

あれ、こんなとこにも神社がある
お参りしていこ

実に十数年ぶりに参拝客が訪れ
星たちはにわかにパニくる。

な、なななななななななな
なんかきた!!

シロ

なんかじゃありません!
参拝者です!

クロ

おちつけコミュ障!

最近引っ越してきたばかりで
小星神社の評判を知らない少年・一磨は
偶然ひっそりと佇む社を見つけ
参拝しようと足を向けたのだ。


チャリーン


もう十年以上使われていなかった賽銭箱に
100円玉が投げ込まれ
星たちはあまりの懐かしい音に戦慄する。

賽銭だ!お金の音だ!

シロ

なんて尊い音色だ!

クロ

ありがたい!ありがたい!

もはやどちらが崇められる立場か分からないけれど、
そんなことはいざ知らず一磨は手を合わせ
社に向かって祈願する。

一磨

高校受験合格しますように

こうこうじゅけん?

シロ

どうやら学業成就の祈願のようですな

しばらく考えてから
三人は顔を見合わせた。

シロ

そういえばうちの得意なご利益ってなんでしたっけ?

さあ?
無病息災とか安産祈願とか?

クロ

とか?じゃねえよ
あんたの仕事じゃねえか

シロ

そもそもうちって氏神なんですか?

鎮守神じゃないの?

クロ

おれは産土神って聞いてたぜ?

・・・・・

参拝を終え、去っていく少年の背を見ながら
社の中にはビミョーな緊張感が張り詰める。

シロ

……星さま

やだ!

クロ

まだ何も言ってねーだろ!

働きたくないでござる!!

シロ

星さま!働きましょうよ!
あなたもう自分の本分忘れかけてるじゃないですか!?
神通力なくなっちゃいますよ!

やだー!
神通力なくなったら神さまじゃなくなっちゃうー!

クロ

じゃあ働け

それはもっとやだー!!

シロ

星さま!
十……ええと、十八年ぶりの参拝客ですよ!
本気でこれがラストチャンスかもしれないんです!
ここで見せなきゃ一生神通力使う機会なくしちゃいますよ!!

一生使わなくていい!

クロ

ふざけんな!もうあんた疫病神に分類されろ!

かたくなにホーリーニートを貫こうとする星だったが、

クロ

働かない神にやる賽銭はねえ!

と、クロが100円玉を川に投げ込もうとしたのを見て
ようやく、それはそれはしぶしぶと、砂を噛むような思いで

……ちょびっとだけ働くから、おまんじゅう買って

涙目になりながら神の務めを果たすことを約束したのだった。



つづく。

カミサマはポンコツ・前編

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