はあッはあッ、屋上ってカギ……
開いてるッ!
はあッ……はあッ……い、『いつな』なの?
思ったより早かったね
⁉
ヤッホー
ゆ、ゆうか?
ホントにゆうか?
それともまたいつなが……ッ
違う違う
本物だって、私は
今、『いつな』に反応した……
そりゃそうだよ
私だってその、『いつな』を知ってるんだからね
何言ってんの?
どういうこと?
そもそもあんたが本物のゆうかだって……
厳しいなあ
でも、それくらい疑ってかかる方がいいだろね
そうだねー
どうやって本物かどうか信じてもらうには……
クイズだね
うさらちゃんが出したものを、私が答える
これでいこう
何勝手に話進めてんのよ
まあいい。じゃあ……
よく言い間違える単語は?
言い間違える単語?
そう、ワザとかどうか知らないけど、結構間違えるヤツ
んーと、もしかして……
お、『オードソックス』の事……?
あ、当たってる
そんないつもじゃないでしょ……
ええい、二問目
ええーッ
今のでダメなの?
何が起きてもおかしくないのが、あたしの周りなの
そりゃわかってるけど……
好きなシャンプーの銘柄は?
難易度ガタ落ちだね
『はな髪』だよ、ずっと使ってるもん
ちッ、簡単すぎたか……
いやいや、もういいでしょ
一体何問出すつもりなの?
それは……
納得するまで!
ひいい、それじゃあ休憩時間終わっちゃうよ
本物、本物だから信じて
うさらちゃんが『いつな』と戦うのをサポートしに来たんだから
はいそうですかって、信じられるワケないじゃん
そもそもなんでこの事知ってるのよ
私もあいつと同じ存在だから、って言ったらわかる?
管理者、ってこと?
そうそう
説明すると長くなるから、そういう認識でいいよ
何、何かの罠?
ま、まあそう思うのも当然だよね
これまで色々あっただろうし
でも、「信じて」としか言えないのが辛いとこだね
…………
時間もないから、簡単に事情を説明するね
あいつからどういう説明を受けているかわからないけど、今、世界の数を減らそうって動きがあるのは聞いてる?
うん
そっか
それでね、どうせ解体する世界だからって、普段は禁止されている大きな干渉を行っている管理者がいるの
その中の一人がうさらちゃんの知っている、『いつな』ってワケ
警察的な何かなの? ゆうかは
ううん。ただの管理者
でも、こんなことあってはならないことだよ
だから独自に動いてるの
あんた、本物のゆうかなんだよね?
うん
おかしくない?
だって、管理者はいつなみたいな形でしかこれないんでしょ?
ならゆうかの身体を使ってるだけだから、本物ってワケじゃないはず
なるほど
でも、私は身体を借りてるってワケじゃないんだ
その、実は私も……あんまり良くないことをしてて……
やっぱりあんたたちって……ッ!
ちょ、ちょっと待って
その、実はゆうかというのは、私自身が作った存在なの
いわゆるアバターってヤツで、それでこの世界で遊んでたの
合間の時間にね
その、本来は許可を取ってやらないといけないんだけど……
それであいつみたいにこねくり回して笑ってたんだ
違う、そんなことしてない
ただうさらちゃんたちと同じように暮らしているだけ
水泳だってやってたのはホントだよ
それにもしどうにかするなら、私は今頃五輪選手で金メダルだよ
それは、そうかもね
話を戻すね
私はずっと前からどうにもあいつがおかしなことをしてるのに気づいてたの
私だけじゃなくて、みんなだけどね
でも、あいつは管理者の中でもなかなか上の立場にいる存在でね、だから誰も動こうとしなかったの
でも私はそれでもあいつのしていることを許したくない
だから、こうやって色々と探ってたの
しかしやられたよ
まさかアバターである私の認識すら曲げてくるなんて、技術だけは超一流なのがまた嫌らしいよ
なんかヘンだとは思ってたんだよね
うさらちゃんとれいなちゃんの様子とか
今はわかるの?
一度認識してしまえばこっちのもんよ
身体が損傷して、修復作業の時にズレがあることに気づいたの
一度接続が切れたのがきっと良かったんだね
とにかく、今の私は四つの世界、うさらちゃんの言う『ひいな』ちゃん、『ふうな』ちゃん、『みいな』ちゃん、『よおな』ちゃんの存在を認識できるようになってる
まったく、四つの世界を一つに混ぜるようなことしてくれちゃって
それでよくもまあなんとか壊れずにすんでるよ
あたしが、どれか一つの世界を選ばなきゃいけないの、知ってる?
えっ?
あたし、四人のれいなの内、一人を選ばなきゃならないの
選んだ世界だけ残すって……
⁉
あいつ……とんでもないクズね
そうか、それでうさらちゃんあんな辛そうだったのか
やっぱりあいつはなんとかしないと、ダメだ!
…………
ちなみに、選ばなかった場合は?
全部消すって
……ちょっと待っててね
…………
あいつ……
?
ウソだよ
あいつ、選んでも全部解体するつもりだ
四つすべてを解体するよう、申請を出してる
えっ
そして……承認されてる
それって、あたしたちはもう……
ごめん……ごめんなさい……
そんな風に謝られても、そんな……そんなッ
結局、ただの使い捨ての玩具だってたってことかッ!
…………
あんたも同じなんでしょ!
!!
あんただって管理者なら、世界を解体するんでしょッ!
別の世界をッ! そこに住んでいる人たちのことを考えずにッ!
…………
黙ってないで……ッ!
ごめん、なさい
驕っているように見えるだろうけど、でも、こうやって全体のバランスを整えてるの
一つの世界でもあらゆる可能性から数え切れないほどに分かれて新たな世界を作るの
それがとても、容量を責めていて、パンクしてしまえば、すべて消えてしまうかもしれない、だから……
ううん、納得できないよね
納得、できるはずないよ……
その承認をどうにかできないの?
ごめん、私にはどうにもできない
例えあいつのしていることが明るみに出たとしても……
くそッ! くそッ!
くそ……ッ
…………
この世界って、四つだけなの?
ううん違うよ
言った通り、色んな分岐しているから
だからうさらちゃんも数え切れないほどに存在してる
そっか……じゃあ、みんなもいると言えば、いるんだ
まったく同じというワケじゃないけど、その存在自体は
そっか
でも、ちょっとホッとした
え?
みんな、ホントにいなくなるワケじゃないんだね
生きてるんだ、みんな
うさらちゃん……
あたし、決めた
な、何を?
どうせ解体は免れない
でも、あたしもみんなも別の世界にいる
なら、ここのあたしを賭けていつなを管理者から引きずり落としてやるッ!
……とんでもない
とんでもない精神力だよ、うさらちゃん
こんな状況でそう思えるなんて、とんでもないことだよ
ふん、やられっぱなしは気に食わないだけ
あんたも手伝いなさいよね
謝罪はいらないから、全力であいつを叩きなさい
返事は?
はいッ!
も、もちろんですッ!
よしッ!
で、この事、あいつにはバレないの?
それは大丈夫
あいつに見られているかどうか、それを察知するセンサーを新しく組み込んであるから
だから安全を確認してからじゃないと、うさらちゃんとは接触しないよ
もう今は存在するだけで不自然になっちゃったからね
話があるときはどうすればいい?
それは、私の携帯の番号に掛けてくれればいいよ
しっかりその辺りの防御策も考えてるから、あいつに見られているときでも大丈夫なはず
でも、基本的に私からうさらちゃんに会いに来るよ
より安心なのはそうだね
で、何か手があるワケ?
まずは今の事、上に掛けあってみる
でも、きっと通らないだろうから、もっと証拠になるようなことがあれば……
なら、あいつのマズイ行動、発言を出していけばいいってことね
そういうことになるね
とにかく過干渉であることがはっきりとわかれば、あいつだって処分されるはず
あいつ、うるさいくらいに口が動くから、簡単にいくと思うよ
簡単にいくかどうかはともかく、口に関しては同感
あと、選ぶのに期限があるの
おとといから一週間だって
なっ、一週間
これはかなり急がないとダメだね
ここと向こうは時間の流れが違うから
お願いするよ
任された
管理者は全員気に入らないけど、あんたは信じる
ゆうか、だからね
ありがとう
まあ、もし怪しい動きをしたら容赦しないからね
しないしない
じゃ、私はこれで
そろそろチャイムが鳴るし、うさらちゃんは教室に戻らないと
わかった
じゃ、また
うん、また