広大な大地に広がる田んぼと畑
その間を抜ける一本道
遠巻きには小高い丘が並んでいる。
広大な大地に広がる田んぼと畑
その間を抜ける一本道
遠巻きには小高い丘が並んでいる。
おし、あの信号を渡ればスグだ。
今度こそホントだろうな?
いいかげん同じ景色ばっかりで飽きたー。
大丈夫だって。
今度こそ間違いないって。
ほら、準備しとけよ。
歩行者専用の信号が変わった。
いくぜ!!
GO!!!
出力MAX!
アクセルぜんか〜い!
とうちゃーく!
ばあちゃん、遊びに来たぜー!
おんやぁ、コウタでねぇか。
よく来たねぇ。
元気だったが?
おばあちゃん、こんにちは。
おじゃまします。
おうおう、リョージくんもユキちゃんも
良っく来たねぇ。
みんな一年ぶりだねぇ。
さぁ、あがって。
ゆっぐりしてぇな。
俺たち3人はFATライダーズ専門学校、
通称FAT専の65会期生だ。
毎年、俺達は夏になると
俺の田舎のばあちゃん家へ遊びに来ていた。
これまでは、公共の交通機関を使って来ていたけど。
卒業を控えた3年目の夏、
リョージ、ユキと共に夏休みを利用して
技能教習も兼ねてFATライドの旅をしてきた。
で、俺の田舎のばあちゃん家が
折り返し地点ってわけ。
夕食時。
俺達は、ばあちゃん家の近くの
信号機の話題で盛り上がった。
にしても、ばあちゃん家に来る途中の信号。
まだあのタイプの信号があるなんて
ビックリしたぜ。
歴史の教科書でしか見たこと無かったです。
ああ、あの信号か…。
…あ…おばあちゃん、
ちょっと悲しそう。
だいたい、あそこに信号が必要かどうかも
怪しいぜ。
あんまりあの信号の近くに
行ぐんじゃないよ。
え?なんで?
あの信号は昔から交換が
出来ないんだけなんじゃ。
…何か…ワケありのようですね。
おばあちゃんは
フゥー、と大きく息をすると
語調を変えてしゃべりだした。
月の光なき夏の夜
紅きシグナルが点滅する時
音速の扉は開かれん
おばあちゃん、
なんか、かっこいい…
この村にむがしから伝わる言い伝えじゃ。
えっと、つまり…
どういう事?
コウタ、もっと勉強しろよ。
旧型のあの信号は、
青が点滅することはあっても、
赤は点灯しかせず、点滅はしない。
…だが、赤が点滅する瞬間を目撃したら…
あー…音速の扉ってのが開かれるのか!
コウタ。
あんたが乗ってきたあれはFAT、
ファンクショナル
オートマティック
トラック
じゃろ?
げ!ばあちゃん知ってるの?
ああ、もちろんじゃ。
実はコウタのじいさまも、
FATライダーでなぁ…。
へぇ…
祐一じいちゃんも…
昔はわしを後ろに乗せて
ブイブイいわせとったもんじゃ。
あー!たまんないねぇー!
この感じ!
…飛ばすぜ、美幸!
しっかり掴まってろよ!
…うん。
祐一の背中…
あったがい…。
祐一…
おばあちゃん、
なんだかちょっと嬉しそう。
コウタのじいさまは
コウタの親が赤ん坊頃に
音速の扉の向こうに行っちまって
そのまんまだ。
音速の扉の向こう!?
にわかには信じがたい話ですね…。
死んだ事にしてあったが、
実際は生きているのか死んでいるのかも
わがらんのじゃよ…。
…おばあちゃん、寂しそう…。
だから遺影とかも無いんですね。
………
ともがく、あの信号には
あまり近づがん方がいい。
その夜。
…おい、起きろ。
寝てないよ。
あんな話聞いちゃったらねー。
外に出て空を見上げると満天の星空だ。
しかし、月は出ていない。
月の光なき夏の夜ってか。
…好条件だな。
静音モード静音モード…と。
俺達は自分のFATを静音モードで起動する。
それぞれの機体に乗り
昼間の信号へと向かう。
星の光に照らされ黒光りする自機は
FATライダーにとって魅惑の光景だ。
やっぱ俺のネーヴェ・ロッソが一番だな
いや、俺のソーレ・アッズーロだ
何いってんのアンタら。
アタシのオスクリタ・ビアンカに決まってるでしょ!
各々の機体の自慢会をしながら
俺達は信号のところへと着いた。
着いたな。
赤は…点灯か…。
青になった。
俺達は信号が
青が点滅して赤へ、
赤から青へ、
と繰り返すのを期待しながら
眺めていた。
そして、30分が経過した。
ふあぁ~、ホントに赤が点滅すんのかな?
飽きっぽいやつだな。
この手の超常現象は根気が必要だぞ。
あ…あれ。
赤が…点滅…してる…
なんと、赤信号が点滅をし始めた。
しかし、それだけじゃなかった。
田んぼに囲まれた田舎道なのは変わらないが
周りの雰囲気もさっきまでとは何かが違う。
…誰か居る!
リョージが指差す方向に染み出すように
旧式のFATに乗った屈強なライダーが現れた。
よう、ひよっこ共。
音速の世界へようこそ。
俺のリーゾ・ダルジェントに
かなうとでも思ってここに来たのか?
誰だか知らねーが…
そんな旧式に負けるわけねーだろ!
俺は負けずに突っ張る。
ほほぅ。威勢はいいみたいだな。
OK。勝負しよう。
あのシグナルがあと8回点滅すると
青に変わる。
それがスタートの合図だ。
この道の先にある灯籠がゴールだ。
一番先に灯籠にさわった奴が優勝だ。
その勝負、乗った!
自己紹介だけしておこう。
俺はソニックライダーのユウだ。
俺の名はコウタ。
あいつらはユキとリョージだ。
どうも。
ハァーイ!
勢いでユウと勝負することになった俺達は
FATに乗り込み信号機の前に横並びに並ぶ。
その間も、信号機は点滅しスタートまで
あと3回の点滅を残すのみとなった。
…
……
……
………
START!!!
いくぜ!全開だ!!
ほう・・・
ひよっこのくせに
いい立ち上がりじゃないか。
あいかわらず立ち上がりは早いわね。
この舗装されていない道でのホバリングで
どこまで突っ張れるかな?
へっへーん、よゆーよゆー!
このまま突っ切るぜ!
…ん?
機体が横にブレる。
しまった!レバーを取られた!
いててて…
田んぼに突っ込んじまった。
おいおい、しっかりしてくれよ…。
張り合いがないぜ。
おっ先にー!
こんなことだろうと思ったぜ。
* * *
…へっ…
最後尾から再スタートってか?
ネーヴェ・ロッソを道に戻す。
主人公っぽい展開じゃねーか!
俺の心がたぎる…。
こっから全員ブッチぎってやるぜ!
* * *
あのFAT…旧式なのになんてスピードだ。
全く距離が縮まらない…。
…あれ…?
よぉ!
コウタ、来た!
またな、ユキ。
コウタ、はやーい…。
* * *
…もう来たのか!
行かしてもらうぜ!
…ふん、どうせ俺はブルーさ。
* * *
あとはアンタだけだ!
…ふん、来たな。
ひよっこはとさかが生えてから
粋がるんだな…!
行くぜ!!
付いてこれるか!?
マジか!
まだギアが上がるのか!?
あの旧式!
だが、こっちだって負けねーぜ!
レバー先に取り付けたボタンに指をかける。
見せてやるぜ!
夏休みの自由研究!!
アルティメット・フレア・ターボ!
* * *
くっ…このスピードなのに
差を詰めてくるとは…。
逃げきれるか…?
アルティメット・フレア・ターボを
使っているのに抜けないなんて…。
効果が切れちまう…。
と、その時。
視界の先にゴールの灯籠の姿をとらえた。
見えた!
見えた!
両者とも最後の力を振り絞る!
ぶっ飛ばせ!
リーゾ・ダルジェント!
ふりしぼれ!
ネーヴェ・ロッソ!!!
激しいデッドヒートの中
次第にゴールが近づく。
あと、400メートル!
200メートル!
100!
50!
両者、灯籠に手を伸ばす!
う
お
お
お!
な!?
同着かっ…!
なんだべが!!
轟音と共にあたりの景色は夕方になった。
…いてて
どうなってるんだ?
あれぇ?
音速の世界からはじき出されたんだ。
音速の世界にとどまれるのは勝者のみ。
引き分けでは勝者がいない。
…そうなのか…。
ユキが何やら不思議そうに
首を傾げる
…んー…。
音速の世界にとどまった勝者は
挑戦者がいない間、何してるんだろう…。
おーい、だーいじょーぶがー!?
あ、ばあちゃん。
遠くからばあちゃんが
いそいそと寄ってきた。
はぁはぁはぁはぁ…
ばあちゃん、無理すんなよ…。
いんや、もう、すんげー音
しだがたら、急いできたんだども、
そしだら、コウタ達のFATが見えでさ…。
心配かけてすみません…。
無事で良がっだ…。
ごめんね、おばあちゃん…。
…おんやぁ、こん人は…?
…ん?
おばあちゃんはユウを見て
目を丸くする。
も…もしがしで…
おばあちゃん、どうしたの?
祐一さん・・・祐一さんじゃないが。
えーっと…どちら様でしょう?
あたいだよ、美幸だよ。
うぉ、ホントに美幸か?
昨日まであんなに若かったのに…
…老けたな…。いや、老けすぎだ。
れでーになんつー失礼なこと
言うんだべか、この人は!
アンタがおかしいんだ!!
ビンタの音が夕焼け空に木霊する。
なるほどねー。
でも、おばあちゃん、幸せそう…
拝啓、母さん。
今年もばあちゃんはとっても元気です。
おまけでじいちゃんも
とびきり元気です。
《完》