広大な大地に広がる田んぼと畑


























その間を抜ける一本道


























遠巻きには小高い丘が並んでいる。
























コウタ

おし、あの信号を渡ればスグだ。

リョージ

今度こそホントだろうな?

ユキ

いいかげん同じ景色ばっかりで飽きたー。

コウタ

大丈夫だって。
今度こそ間違いないって。

ほら、準備しとけよ。











歩行者専用の信号が変わった。










コウタ

いくぜ!!
GO!!!

リョージ

出力MAX!

ユキ

アクセルぜんか〜い!







コウタ

とうちゃーく!

コウタ

ばあちゃん、遊びに来たぜー!

おばあちゃん

おんやぁ、コウタでねぇか。
よく来たねぇ。
元気だったが?

ユキ

おばあちゃん、こんにちは。

リョージ

おじゃまします。

おばあちゃん

おうおう、リョージくんもユキちゃんも
良っく来たねぇ。
みんな一年ぶりだねぇ。
さぁ、あがって。
ゆっぐりしてぇな。












俺たち3人はFATライダーズ専門学校、

通称FAT専の65会期生だ。






毎年、俺達は夏になると

俺の田舎のばあちゃん家へ遊びに来ていた。

これまでは、公共の交通機関を使って来ていたけど。



卒業を控えた3年目の夏、

リョージ、ユキと共に夏休みを利用して

技能教習も兼ねてFATライドの旅をしてきた。





で、俺の田舎のばあちゃん家が

折り返し地点ってわけ。






夕食時。



俺達は、ばあちゃん家の近くの

信号機の話題で盛り上がった。



コウタ

にしても、ばあちゃん家に来る途中の信号。
まだあのタイプの信号があるなんて
ビックリしたぜ。

リョージ

歴史の教科書でしか見たこと無かったです。

おばあちゃん

ああ、あの信号か…。

ユキ

…あ…おばあちゃん、
ちょっと悲しそう。

コウタ

だいたい、あそこに信号が必要かどうかも
怪しいぜ。

おばあちゃん

あんまりあの信号の近くに
行ぐんじゃないよ。

コウタ

え?なんで?

おばあちゃん

あの信号は昔から交換が
出来ないんだけなんじゃ。

リョージ

…何か…ワケありのようですね。




おばあちゃんは

フゥー、と大きく息をすると

語調を変えてしゃべりだした。










おばあちゃん

月の光なき夏の夜




おばあちゃん

紅きシグナルが点滅する時




おばあちゃん

音速の扉は開かれん











ユキ

おばあちゃん、
なんか、かっこいい…

おばあちゃん

この村にむがしから伝わる言い伝えじゃ。

コウタ

えっと、つまり…

コウタ

どういう事?

リョージ

コウタ、もっと勉強しろよ。

ユキ

旧型のあの信号は、
青が点滅することはあっても、
赤は点灯しかせず、点滅はしない。

リョージ

…だが、赤が点滅する瞬間を目撃したら…

コウタ

あー…音速の扉ってのが開かれるのか!

おばあちゃん

コウタ。
あんたが乗ってきたあれはFAT、
ファンクショナル
オートマティック
トラック
じゃろ?

コウタ

げ!ばあちゃん知ってるの?

おばあちゃん

ああ、もちろんじゃ。

実はコウタのじいさまも、
FATライダーでなぁ…。

コウタ

へぇ…
祐一じいちゃんも…

おばあちゃん

昔はわしを後ろに乗せて
ブイブイいわせとったもんじゃ。


























おばあちゃん

あー!たまんないねぇー!
この感じ!

おじいちゃん

…飛ばすぜ、美幸!
しっかり掴まってろよ!

おばあちゃん

…うん。

おばあちゃん

祐一の背中…
あったがい…。

















おばあちゃん

祐一…

ユキ

おばあちゃん、
なんだかちょっと嬉しそう。

おばあちゃん

コウタのじいさまは
コウタの親が赤ん坊頃に
音速の扉の向こうに行っちまって
そのまんまだ。

コウタ

音速の扉の向こう!?

リョージ

にわかには信じがたい話ですね…。

おばあちゃん

死んだ事にしてあったが、
実際は生きているのか死んでいるのかも
わがらんのじゃよ…。

ユキ

…おばあちゃん、寂しそう…。

リョージ

だから遺影とかも無いんですね。

コウタ

………

おばあちゃん

ともがく、あの信号には
あまり近づがん方がいい。

























































その夜。









コウタ

…おい、起きろ。

リョージ

寝てないよ。

ユキ

あんな話聞いちゃったらねー。









外に出て空を見上げると満天の星空だ。

しかし、月は出ていない。






コウタ

月の光なき夏の夜ってか。

リョージ

…好条件だな。

ユキ

静音モード静音モード…と。




俺達は自分のFATを静音モードで起動する。



それぞれの機体に乗り

昼間の信号へと向かう。



星の光に照らされ黒光りする自機は

FATライダーにとって魅惑の光景だ。





コウタ

やっぱ俺のネーヴェ・ロッソが一番だな

リョージ

いや、俺のソーレ・アッズーロだ

ユキ

何いってんのアンタら。
アタシのオスクリタ・ビアンカに決まってるでしょ!




各々の機体の自慢会をしながら

俺達は信号のところへと着いた。








コウタ

着いたな。

リョージ

赤は…点灯か…。






ユキ

青になった。


俺達は信号が

青が点滅して赤へ、

赤から青へ、

と繰り返すのを期待しながら

眺めていた。






そして、30分が経過した。


コウタ

ふあぁ~、ホントに赤が点滅すんのかな?

リョージ

飽きっぽいやつだな。
この手の超常現象は根気が必要だぞ。

ユキ

あ…あれ。







コウタ

赤が…点滅…してる…


なんと、赤信号が点滅をし始めた。




しかし、それだけじゃなかった。

田んぼに囲まれた田舎道なのは変わらないが

周りの雰囲気もさっきまでとは何かが違う。


リョージ

…誰か居る!




リョージが指差す方向に染み出すように

旧式のFATに乗った屈強なライダーが現れた。




よう、ひよっこ共。

音速の世界へようこそ。

俺のリーゾ・ダルジェントに
かなうとでも思ってここに来たのか?

コウタ

誰だか知らねーが…
そんな旧式に負けるわけねーだろ!


俺は負けずに突っ張る。

ほほぅ。威勢はいいみたいだな。

OK。勝負しよう。

あのシグナルがあと8回点滅すると
青に変わる。

それがスタートの合図だ。

この道の先にある灯籠がゴールだ。
一番先に灯籠にさわった奴が優勝だ。

コウタ

その勝負、乗った!

自己紹介だけしておこう。
俺はソニックライダーのユウだ。

コウタ

俺の名はコウタ。
あいつらはユキとリョージだ。

リョージ

どうも。

ユキ

ハァーイ!




勢いでユウと勝負することになった俺達は

FATに乗り込み信号機の前に横並びに並ぶ。



その間も、信号機は点滅しスタートまで

あと3回の点滅を残すのみとなった。





リョージ

ユキ

……

……

コウタ

………







START!!!







コウタ

いくぜ!全開だ!!

ほう・・・
ひよっこのくせに
いい立ち上がりじゃないか。

ユキ

あいかわらず立ち上がりは早いわね。

リョージ

この舗装されていない道でのホバリングで
どこまで突っ張れるかな?














コウタ

へっへーん、よゆーよゆー!
このまま突っ切るぜ!

コウタ

…ん?


機体が横にブレる。

コウタ

しまった!レバーを取られた!

コウタ

いててて…
田んぼに突っ込んじまった。

おいおい、しっかりしてくれよ…。
張り合いがないぜ。

ユキ

おっ先にー!

リョージ

こんなことだろうと思ったぜ。




* * *


コウタ

…へっ…
最後尾から再スタートってか?


ネーヴェ・ロッソを道に戻す。

コウタ

主人公っぽい展開じゃねーか!


俺の心がたぎる…。

コウタ

こっから全員ブッチぎってやるぜ!






* * *





リョージ

あのFAT…旧式なのになんてスピードだ。
全く距離が縮まらない…。

ユキ

…あれ…?

コウタ

よぉ!

ユキ

コウタ、来た!

コウタ

またな、ユキ。

ユキ

コウタ、はやーい…。


* * *

リョージ

…もう来たのか!

コウタ

行かしてもらうぜ!

リョージ

…ふん、どうせ俺はブルーさ。






* * *





コウタ

あとはアンタだけだ!

…ふん、来たな。
ひよっこはとさかが生えてから
粋がるんだな…!

行くぜ!!
付いてこれるか!?

コウタ

マジか!
まだギアが上がるのか!?
あの旧式!

コウタ

だが、こっちだって負けねーぜ!


レバー先に取り付けたボタンに指をかける。

コウタ

見せてやるぜ!
夏休みの自由研究!!

アルティメット・フレア・ターボ!




* * *



くっ…このスピードなのに
差を詰めてくるとは…。

逃げきれるか…?

コウタ

アルティメット・フレア・ターボを
使っているのに抜けないなんて…。

効果が切れちまう…。




と、その時。









視界の先にゴールの灯籠の姿をとらえた。

見えた!

コウタ

見えた!




両者とも最後の力を振り絞る!



ぶっ飛ばせ!
リーゾ・ダルジェント!

コウタ

ふりしぼれ!
ネーヴェ・ロッソ!!!



激しいデッドヒートの中

次第にゴールが近づく。



あと、400メートル!



200メートル!

100!
50!

両者、灯籠に手を伸ばす!

コウタ

コウタ

お!













コウタ

な!?

同着かっ…!




















おばあちゃん

なんだべが!!



轟音と共にあたりの景色は夕方になった。


コウタ

…いてて

リョージ

どうなってるんだ?

ユキ

あれぇ?

音速の世界からはじき出されたんだ。

音速の世界にとどまれるのは勝者のみ。
引き分けでは勝者がいない。

コウタ

…そうなのか…。


ユキが何やら不思議そうに

首を傾げる


ユキ

…んー…。
音速の世界にとどまった勝者は
挑戦者がいない間、何してるんだろう…。

おばあちゃん

おーい、だーいじょーぶがー!?

コウタ

あ、ばあちゃん。


遠くからばあちゃんが

いそいそと寄ってきた。


おばあちゃん

はぁはぁはぁはぁ…

コウタ

ばあちゃん、無理すんなよ…。

おばあちゃん

いんや、もう、すんげー音
しだがたら、急いできたんだども、
そしだら、コウタ達のFATが見えでさ…。

リョージ

心配かけてすみません…。

おばあちゃん

無事で良がっだ…。

ユキ

ごめんね、おばあちゃん…。

おばあちゃん

…おんやぁ、こん人は…?

…ん?


おばあちゃんはユウを見て

目を丸くする。

おばあちゃん

も…もしがしで…

コウタ

おばあちゃん、どうしたの?

おばあちゃん

祐一さん・・・祐一さんじゃないが。

おじいちゃん

えーっと…どちら様でしょう?

おばあちゃん

あたいだよ、美幸だよ。

おじいちゃん

うぉ、ホントに美幸か?
昨日まであんなに若かったのに…

おじいちゃん

…老けたな…。いや、老けすぎだ。

おばあちゃん

れでーになんつー失礼なこと
言うんだべか、この人は!

アンタがおかしいんだ!!







ビンタの音が夕焼け空に木霊する。








ユキ

なるほどねー。

でも、おばあちゃん、幸せそう…





















拝啓、母さん。

今年もばあちゃんはとっても元気です。








おまけでじいちゃんも

とびきり元気です。
















《完》

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