駅についてから、ようやく電車が動いているはずがないことを思い出した。
毎朝いやになるほど混雑している駅には当然誰もいない。電気もついておらず、日陰になっているホームは薄暗かった。
少し考えればわかることだ。セカイには、もう二人だけしかいないのだ。いったい誰が電車を動かしてくれるっていうんだ。
僕は彼女が運転席に座っていることを想像してみた。似合わない制帽の下の、困ったような表情が少し滑稽だった。僕は少し笑った。
馬鹿馬鹿しい。こんなことをしていたってどうなるわけじゃないんだ。他に方法がないなら歩いていくしかない。
いつもならすべてがせわしなく動き回っているような朝の時間帯――たぶんそうなんだろう、家を出てから結構な時間がたったにもかかわらず、太陽は相変わらず低い位置から動いていなかった――僕は線路の上を歩いている。
普段なら入ってはいけないところを歩くのは落ち着かないものだ。来るはずのない列車が来るんじゃないかと何度も振り返りながら歩く。
見慣れているはずの線路沿いの景色がひどくゆっくり通り過ぎていく。どうしてここに生えているか、ぽつりとひまわりが一本、太陽にむかって鎌首をもたげようとしていた。
まだその位置からじゃ、太陽は見えないんだろう――まだ?