新たな勇者の誕生だ！

勇者様万歳！

僕が新しい勇者に任命されたシノンです！

今、世界は悪の魔の手に狙われています。

魔王軍の力は強大！このままでは世界は闇に閉ざされてしまうでしょう。

ですが、僕が魔王を討ちます！その為の力が僕にはあります！

皆さん！どうか僕を信じて、勝利の日を待っていてください！

私は……

勇者では……

なかったのか……

お腹が空いた……

50Ｇだけだと

このパン一個しか買えないか

……

あっ

痛ッ

あ、ごめんなさい

前見て歩けよ

はい……

あ

パン……落としてしまった

……

まあ……

砂を払えば食べられるか

どこか人の少ないところに行こう……

すごい人の数だったな

勇者の就任パレードだから当然か……

魔王を倒さなければ、彼らが犠牲に……

魔王を……僕が倒さなければならないのに

勇者だと認められなかった

死んだ父上に顔向けができない……

……

とりあえずパンを食べるか

……

ワン

野良犬か……

ヘッヘッヘ

お前もお腹が空いてるのか？

ワン

でも、食べるものはこのパン一つしか……

ヘッヘッヘ

……

わかった、半分やるよ

ワン！

あ

……

パン、全部もっていかれてしまった……

……もう無一文だ

野山で狩りをするってワケにもいかないし

いったいどうすれば……

おお、迷える子羊よ

！

お腹が空いているのですね

あ、あなたは……？

まったく気配を感じなかった……

怯えることはありません

私はシスター・シェリル。弱き者の味方です

し、シスター？

ええ。困っている人を救うのが私の仕事です

こちらへいらっしゃい、迷える子羊

ひょっとしたら、食べ物でも分けてもらえるのかな

ありがたい。やっぱりどこの町でも、神に仕える人は変わらないんだ

そこの通りにお立ちください、迷える子羊

はい？

表の大通りが見えますわね。両側よ。西側と東側

はい……見えますが

そこから誰も来ないように見張っていなさい

は？

誰かが来たら大声を上げるのです

その時、間違っても私の名前を呼んではいけませんよ。

誰かが通りに入ってきたら、神の名前を呼ぶのです

え、あの

わかりましたか、迷える子羊

あの、これはいったい

誰かがこの通りに入ってきたら、アナタは急に主の御名を呼び祈りを捧げたくなる……

それだけの話ですわ。簡単でしょう？

主は祈る者を見捨てたりはしません。アナタの飢えと渇きは癒されるでしょう。おわかりかしら？

よくわかりませんが……わかりました

良い子ね

それでは、神のご加護がありますように

……

……行ってしまった

何だったのだろう

……

……

……

お腹空いた

いつまでここで待っていれば良いのだろう

……

……

ハッ

眠ってしまった……

あっ……

……

西側の通りから、人が近づいてくる……

え、ええと、大声で神の名前を呼ぶって言ってたな……

……ん？

おいお前、こんなところで何を……

女神様！　女神メーテルシュロープ様！　私の祈りをお聞き届けください！

……

……

何？

うわぁっ！

何の用？　５０００Ｇ貯まった？

呼んでないです！

え？　呼んだじゃん！

帰ってください！

なにそれ！女神だってヒマじゃないっつーの！呼ばれたから来てやったのに……

いいから帰ってください！

そういう自分勝手なところ、アンタのパパにそっくりねー

な、なんだコイツ……怪し過ぎるぞ……帰れだと？

見られてまずいものでもそっちにあるのか？

あ、そうか女神様の姿は私にしか見えないのか

きゅ、急に女神様への祈りを捧げたくなっただけです

良い心掛けだねー

祈ったからって５０００Ｇはまけたりしないけどね

帰ってください！

えー

おい、お前さっきから一人で何を言っているんだ……怪しいな、そこを動くな！

べ、別に私は怪しい者ではないです

武器を捨てろ！　大人しく剣を捨てるんだ！

いえ、ですから、私は！

ウオッ！　目がッ

こ、これは……目潰しの魔法！

ずらかるわよ、迷える子羊！

シスター！？

こっちですわ！

ま、待て！　ぬぅ、目が見えん！

まきましたわね

あの……あれは、いったい

アナタは気にしなくて良いのよ。はい、これは取り分です

こ……これは

6000Ｇ！こんな大金……

一応は見張りの役目も果たしてくれたからね。思っていたより稼げましたし。

主よ、アナタの恵みに感謝いたします

稼げた？　見張り……

ま、まさか！？

これ、盗んできたものじゃないでしょうね！

あら。神のシモベに向かってとんでもないことを言いますわね

お金は天の国へ持っていけません。人は旅立つ時、地上で積んだ徳だけを持って天へ上がるのですよ

つまり、お金をいくら集めても意味はないのです。それなのにそれでもお金持ちは、ゴールドを集めるでしょう？

私はお金持ちの皆様に、人生に大切なのは愛だけであると主の教えを説いているのです。ついでに貯め込まれたお金に愛の手を差し伸べて、再び活躍の場を与える。

すなわちこれは善行です。

どういう理屈ですか！

何が気に入らないのかしら、この迷える子羊は

アナタはひもじい思いをしている。あくどく金をため込む連中がいる

そして私は正しく再分配し、アナタを助けた。それだけのお金があれば、しばらく食べていけるでしょう？

弱き者には手を差し伸べよと、神も仰っているわ

そんなの……そんなのは、悪だ！

なら、そのお金はいらないというのね？

いりません！

あら

たとえ飢えて苦しもうと、私は勇者だ。

悪事に加担することはできない！

そう。それじゃそのお金は返してもらいましょう

……

体は正直ってこういうことかしら？

今日の食事代くらいは渡してあげましょうか？

い、いりません！

残念です。人の好意を無駄にするのですね、迷える子羊

アナタのは好意とは言いません！

そうですか

ではこれはどうですか？

パンと水筒……どこに隠してたんだ

これは私の好意です。どうぞお受け取りください

……いただきます

久々の食事だ……

やっぱりこの人は、良い人なのだろうか。

あの……ありがとうございました。

そう。よかった

それもカゴの中で眠ってたから貰ってきたのよね

え！？

凍える者には衣服を、流離う者には宿を、飢えた者にはパンを。人には施しを与えよと神も仰っています。

人のパンでしょう！

パンは天の国へ持っていけません。人が旅立つ時は積んだ徳だけを……

それはもう聞きました！

ずらかるわよ、迷える子羊！

え？　え！？

見つけたぞ！怪しい二人組！

なんで私まで……

さあ早く！　行くわよ！

……

…………

……………………

これで僕も、泥棒の仲間なのだろうか