■前回までのあらすじ■
・地獄の沙汰も金次第


















     

ユリウス

ここが王国か……

ユリウス

すごい人の数だ。建物も大きいし

ユリウス

王様の城はあの、高い建物かな

ユリウス

王様から任命されて初めて勇者は一人前なんだ

ユリウス

父上だって、王様から魔王討伐を託されたって言っていたしな

王様の城を目指し、僕は歩きだした。










ユリウス

あ、あの

女性

はい?

ユリウス

私、勇者ユリウスと言います。王様にお会いしたいのですが……

女性

ああ、勇者志望の方

女性

それならそこの番号札を取って、並んでください

女性

順番が来たらお呼びしますから

ユリウス

番号札……

 受け取った紙には570番と書かれている。

女性

あちらでお待ちください

ユリウス

うわ……

 女性が指差した先には、長蛇の列。

 ひょっとしたら、ここに570人だろうか。
 それだけの数が王様に謁見を申し入れているのか。

ユリウス

仕方ないか……王様だから、忙しいだろうし
























































女性

570番の方

ユリウス

は、はい!

女性

7番扉からお入りください

ユリウス

ようやく私の番か……

ユリウス

とにかく、王様に会うんだ。

緊張して失敗しないようにしないと












ユリウス

……

面接官

……

ユリウス

……

面接官

……

ユリウス

……

面接官

……お座りください

ユリウス

え、あ、はい

 促されるまま、僕は小さなイスに座った。

ユリウス

これはどういうことだろう

ユリウス

どうみても王様じゃないし……

面接官

お名前は?

ユリウス

面接官

お名前です

ユリウス

え、あ、はい

ユリウス

え、えっと。ユリウスと申します。
ユリウス・ユージーン

面接官

……

ユリウス

……

面接官

……

ユリウス

すごい目で睨まれてる

ユリウス

なんだろう

ユリウス

なんか……
とても、怖い

面接官

それでは履歴書をお預かりしてよろしいですか?

ユリウス

り、りれきしょ?

面接官

お持ちでないのですか?

面接官

必ずご持参いただくよう。応募要項に明記しておりましたが

ユリウス

え……あ、す、すいません

ユリウス

咄嗟に謝ってしまった

ユリウス

りれきしょ……りれきしょって何だろう。
りれきしょ……

ユリウス

魔導書の一種かな? 
初級の魔法使いは魔導書が必要だし

ユリウス

あ、あの

面接官

はい

ユリウス

りれきしょはありませんが、大丈夫です

面接官

は?

ユリウス

魔法はしっかり習得していますから。中級の魔法までは魔導書の補助なしで使えます

面接官

……

ユリウス

……

ユリウス

……

面接官

まあ……良いでしょう

面接官

申し送れましたがわたくし、王国人事部のジェニーと申します。
よろしくお願いいたします

ユリウス

こ、こちらこそよよろしくお願いします

面接官

履歴書がないということで志望動機については割愛させていただきますが、自己紹介をお願いいたします

ユリウス

じ、自己紹介

面接官

ええ

ユリウス

自己紹介……?

ユリウス

自己紹介って言ったよね、今

ユリウス

聞き間違いじゃなさそうだし……

ユリウス

なんで自己紹介? さっき名乗ったのに

ユリウス

改めて自己紹介すればよいのかな……

ユリウス

あ、違うぞ!

ユリウス

前に同じようなことがあったじゃないか。
マニエラさんに挨拶しろって言われて。

ユリウス

その時は自己紹介して怒られた。

ユリウス

きっと、業界のアイサツのことだ!

面接官

……

私は拳を握りしめてーー。

ユリウス

何者だ!

その手を思い切り振りぬいた。

ユリウス

ここで何をしている!

面接官

……

ユリウス

……

面接官

はぁ……

ユリウス

な、なんだろう。あの人いま、溜息を吐いたぞ

ユリウス

なんだか……なんだか、とてもマズイ気がする。何かわからないけど

面接官

人格特性、Eマイナス

ユリウス

な、なにか今つぶやいたぞ……どういう意味だろう

面接官

結構です。
次の質問に移らせていただきます。

面接官

剣術と魔法のご経験はお有りですか?

ユリウス

あ、はい! それなら得意です。
剣術も魔法も、ずっと訓練してましたから

面接官

なるほど

面接官

では資格はお持ちですか?

ユリウス

え?

面接官

資格です。

面接官

ずっと訓練されていたのですよね?

ユリウス

は、はい

面接官

何か資格は取られなかったのですか? 剣術と魔法に関して。一級剣術技師や特殊魔法二種ですとか

ユリウス

そんなものがあるとは……

ユリウス

初めて知りました

面接官

初めて知った?

面接官

魔法は使われるのですよね? 資格もなしに魔法を使っていたのですか? 実戦で?

ユリウス

い、いえ。
実戦で魔法を使ったことは、まだ…………

面接官

実戦経験はお有りでない?

ユリウス

あ、あの。いえ、剣でなら戦ったことが

面接官

そうですか。では型を見せていただけますか?

ユリウス

カタ?

面接官

ええ。その剣を抜いてもらって、アナタの流派で剣を振ってみてください

ユリウス

ユリウス

そ……それは、ちょっと

面接官

できないのですか?

ユリウス

こんなところで聖剣を振ったら、城がめちゃくちゃになってしまう

ユリウス

すいません、この剣は、ちょっと、抜けないんです

ユリウス

でも、剣術は得意なんです。普段から山に出る熊と戦ってましたし……

ユリウス

あ、この間グリフォンを倒しました

面接官

グリフォン? あのグリフォンを倒したのですか?

面接官

討伐に最低でも一個師団が必要になるグリフォンを、アナタが?

ユリウス

はい。苦戦はしましたが

面接官

……

ユリウス

……

面接官

……

面接官

虚言癖の疑いあり、と。

ユリウス

な、なんだ。すごく……怖いぞ

ユリウス

僕はいま、何をされているのだろう

ユリウス

良くわからないけど……

ユリウス

グリフォンの爪やクチバシより、この人の目がずっと怖い……

面接官

それではリーダーシップを発揮されたご経験についてお話しください

ユリウス

リ、リーダーシップですか……

ユリウス

あの……

ユリウス

その、リーダーシップですか。特にそういったことは……

面接官

ふぅ……

面接官

勇者特性Eマイナス……結構です。
最後の質問に移らせていただきます

面接官

アナタを勇者として認可することで弊国にどのような利益が生まれるとお考えですか?

ユリウス

り、利益?

面接官

ええ

ユリウス

そ……それならあります!

ユリウス

魔王討伐の為にずっと訓練して来ました

ユリウス

必ず魔王を討ち、地上に再び平和を取り戻してみせます!

面接官

具体的なビジョンはお持ちではない?

ユリウス

面接官

やる気だけアピールされましても……

面接官

アナタが勇者として何をしたいかではなく、勇者として何ができるかを聞いているのです

ユリウス

な、何ができるか

面接官

ええ

ユリウス

け、剣も魔法も誰にも負けません!

面接官

実務経験もなく、資格もないのにですか?

面接官

その自信に何の根拠があるのですか?

面接官

がんばればできると思います、やれると思います。そんな甘い考えの方を勇者と認め、世界の命運を任せるとお思いですか?

ユリウス

え……

ユリウス

それは……

ユリウス

その……

ユリウス

……

面接官

……

ユリウス

……

面接官

ふぅー

 深い、深い溜息。

 心臓が痛い。

 とても、苦しい。

 これは何だ?

 私はいったい、何をされているんだ?

ユリウス

何か……何か言わなくちゃ

ユリウス

何だかわからないけど、このままじゃダメな気がする!

ユリウス

あの、ですが

ユリウス

剣は得意なんです……魔法も……

ユリウス

剣で一撃で倒してしまうので魔法は実戦で試してませんが……ここに来るまでもずっと魔物と戦って……

ユリウス

だから私は、あの……

面接官

一応確認させていただきますが、どこか他の世界で勇者として働いていたご経験はお有りですか?

面接官

異世界に転生したですとか、召喚されて戦った実績があるとか?

ユリウス

いえ……ありません

ユリウス

あの……ですが、その……僕……じゃなくて、私は勇者として、父の跡を継いで……ええと

ユリウス

ですから、訓練をずっと……あの、父は二十年前に魔王を倒した勇者でして……

面接官

弊国がコネでアナタを採用するとでも?

ユリウス

いえ! ち、違います!

ユリウス

あの、決して……いえ、違うんです

ユリウス

そういう意味で言ったわけでは……

面接官

本日はありがとうございました

ユリウス

え!

面接官

結果は追ってお知らせさせていただきます

ユリウス

で、でも……!

面接官

お引き取りください

ユリウス

……
























ユリウス

試されていたんだ

ユリウス

私は……

女性

571番の方ー

勇者

はい!


 あの女性の鋭い目と、深い溜息。

 思い出すたびに、心の奥が深くえぐられる。

















何が起こっていたのか、わからなかったけど。

ひとつだけわかったのは。


僕は、失敗したということだ。

ユリウス

……

ユリウス

…………

ユリウス

……………………

ユリウス

僕は、勇者ではないのか……

勇者ユリウスの冒険 第五話

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