■前回までのあらすじ■
・地獄の沙汰も金次第
■前回までのあらすじ■
・地獄の沙汰も金次第
ここが王国か……
すごい人の数だ。建物も大きいし
王様の城はあの、高い建物かな
王様から任命されて初めて勇者は一人前なんだ
父上だって、王様から魔王討伐を託されたって言っていたしな
王様の城を目指し、僕は歩きだした。
あ、あの
はい?
私、勇者ユリウスと言います。王様にお会いしたいのですが……
ああ、勇者志望の方
それならそこの番号札を取って、並んでください
順番が来たらお呼びしますから
番号札……
受け取った紙には570番と書かれている。
あちらでお待ちください
うわ……
女性が指差した先には、長蛇の列。
ひょっとしたら、ここに570人だろうか。
それだけの数が王様に謁見を申し入れているのか。
仕方ないか……王様だから、忙しいだろうし
570番の方
は、はい!
7番扉からお入りください
ようやく私の番か……
とにかく、王様に会うんだ。
緊張して失敗しないようにしないと
……
……
……
……
……
……お座りください
え、あ、はい
促されるまま、僕は小さなイスに座った。
これはどういうことだろう
どうみても王様じゃないし……
お名前は?
え
お名前です
え、あ、はい
え、えっと。ユリウスと申します。
ユリウス・ユージーン
……
……
……
すごい目で睨まれてる
なんだろう
なんか……
とても、怖い
それでは履歴書をお預かりしてよろしいですか?
り、りれきしょ?
お持ちでないのですか?
必ずご持参いただくよう。応募要項に明記しておりましたが
え……あ、す、すいません
咄嗟に謝ってしまった
りれきしょ……りれきしょって何だろう。
りれきしょ……
魔導書の一種かな?
初級の魔法使いは魔導書が必要だし
あ、あの
はい
りれきしょはありませんが、大丈夫です
は?
魔法はしっかり習得していますから。中級の魔法までは魔導書の補助なしで使えます
……
……
……
まあ……良いでしょう
申し送れましたがわたくし、王国人事部のジェニーと申します。
よろしくお願いいたします
こ、こちらこそよよろしくお願いします
履歴書がないということで志望動機については割愛させていただきますが、自己紹介をお願いいたします
じ、自己紹介
ええ
自己紹介……?
自己紹介って言ったよね、今
聞き間違いじゃなさそうだし……
なんで自己紹介? さっき名乗ったのに
改めて自己紹介すればよいのかな……
あ、違うぞ!
前に同じようなことがあったじゃないか。
マニエラさんに挨拶しろって言われて。
その時は自己紹介して怒られた。
きっと、業界のアイサツのことだ!
……
私は拳を握りしめてーー。
何者だ!
その手を思い切り振りぬいた。
ここで何をしている!
……
……
はぁ……
な、なんだろう。あの人いま、溜息を吐いたぞ
なんだか……なんだか、とてもマズイ気がする。何かわからないけど
人格特性、Eマイナス
な、なにか今つぶやいたぞ……どういう意味だろう
結構です。
次の質問に移らせていただきます。
剣術と魔法のご経験はお有りですか?
あ、はい! それなら得意です。
剣術も魔法も、ずっと訓練してましたから
なるほど
では資格はお持ちですか?
え?
資格です。
ずっと訓練されていたのですよね?
は、はい
何か資格は取られなかったのですか? 剣術と魔法に関して。一級剣術技師や特殊魔法二種ですとか
そんなものがあるとは……
初めて知りました
初めて知った?
魔法は使われるのですよね? 資格もなしに魔法を使っていたのですか? 実戦で?
い、いえ。
実戦で魔法を使ったことは、まだ…………
実戦経験はお有りでない?
あ、あの。いえ、剣でなら戦ったことが
そうですか。では型を見せていただけますか?
カタ?
ええ。その剣を抜いてもらって、アナタの流派で剣を振ってみてください
え
そ……それは、ちょっと
できないのですか?
こんなところで聖剣を振ったら、城がめちゃくちゃになってしまう
すいません、この剣は、ちょっと、抜けないんです
でも、剣術は得意なんです。普段から山に出る熊と戦ってましたし……
あ、この間グリフォンを倒しました
グリフォン? あのグリフォンを倒したのですか?
討伐に最低でも一個師団が必要になるグリフォンを、アナタが?
はい。苦戦はしましたが
……
……
……
虚言癖の疑いあり、と。
な、なんだ。すごく……怖いぞ
僕はいま、何をされているのだろう
良くわからないけど……
グリフォンの爪やクチバシより、この人の目がずっと怖い……
それではリーダーシップを発揮されたご経験についてお話しください
リ、リーダーシップですか……
あの……
その、リーダーシップですか。特にそういったことは……
ふぅ……
勇者特性Eマイナス……結構です。
最後の質問に移らせていただきます
アナタを勇者として認可することで弊国にどのような利益が生まれるとお考えですか?
り、利益?
ええ
そ……それならあります!
魔王討伐の為にずっと訓練して来ました
必ず魔王を討ち、地上に再び平和を取り戻してみせます!
具体的なビジョンはお持ちではない?
え
やる気だけアピールされましても……
アナタが勇者として何をしたいかではなく、勇者として何ができるかを聞いているのです
な、何ができるか
ええ
け、剣も魔法も誰にも負けません!
実務経験もなく、資格もないのにですか?
その自信に何の根拠があるのですか?
がんばればできると思います、やれると思います。そんな甘い考えの方を勇者と認め、世界の命運を任せるとお思いですか?
え……
それは……
その……
……
……
……
ふぅー
深い、深い溜息。
心臓が痛い。
とても、苦しい。
これは何だ?
私はいったい、何をされているんだ?
何か……何か言わなくちゃ
何だかわからないけど、このままじゃダメな気がする!
あの、ですが
剣は得意なんです……魔法も……
剣で一撃で倒してしまうので魔法は実戦で試してませんが……ここに来るまでもずっと魔物と戦って……
だから私は、あの……
一応確認させていただきますが、どこか他の世界で勇者として働いていたご経験はお有りですか?
異世界に転生したですとか、召喚されて戦った実績があるとか?
いえ……ありません
あの……ですが、その……僕……じゃなくて、私は勇者として、父の跡を継いで……ええと
ですから、訓練をずっと……あの、父は二十年前に魔王を倒した勇者でして……
弊国がコネでアナタを採用するとでも?
いえ! ち、違います!
あの、決して……いえ、違うんです
そういう意味で言ったわけでは……
本日はありがとうございました
え!
結果は追ってお知らせさせていただきます
で、でも……!
お引き取りください
……
試されていたんだ
私は……
571番の方ー
はい!
あの女性の鋭い目と、深い溜息。
思い出すたびに、心の奥が深くえぐられる。
何が起こっていたのか、わからなかったけど。
ひとつだけわかったのは。
僕は、失敗したということだ。
……
…………
……………………
僕は、勇者ではないのか……