最初は、深い意味なんてないと思っていた。
つまらない日常、それをぶち壊す何かが欲しくて、きっかけを探していただけで。
それが何であろうが、なんでもよかった。
その噂を知ったとき、彼女は面白そうという理由でその世界に飛び込んだ。

閉鎖的な空間で、行われている非日常の戦い。
生きる死ぬのギリギリの駆け引きが日常の世界。
勝てば望むものが何でも手に入る。
この世が欲しいといえばそれすら、手に入ると。

悪くないと思った。
世界を取る、か。世界征服か。
面白いと思う。
世界を敵に回して暇潰しを出来るなら、何だって。
そんな中二病上がりの妄想のような動機。

まさか。まさか、だった。
そんな軽い動機で参加して、こんなことになろうとは。
思って、なかった。

なんで殺し合いしてるの?

私、何して……

……あっ……

最近、わたしの幼馴染が躍起になっている。
何でもやばいことに首を突っ込もうとしているみたいだった。
今日も学校帰りにわたしの部屋により、何故かわたしを無視して調べもの。
わたしこと、水渓静流(みずたにしずる)は付き合いの長い高瀬ひよりに声をかけた。

静流

ひより、もうやめなよ……

静流

探すだけ、無駄だって……
そんなん、あるわけないじゃん

ひより

静流は黙ってて!

スマホをイジる幼馴染に諦めるように言っても、無駄だった。
この程度でやめるほど、弱い性格してないし……。
わたしに怒鳴って、彼女は食い入るように小さい画面を睨みつけている。

静流

こうなるとダメだなぁ……
はぁ……

わたしはベッドに横たわり、本を読み始めた。
元ネタの銃火器の解説をしている、モデルガンの雑誌だ。
わたしはモデルガンが好きなので、一応知り合いを通じて暇があれば購入している。

ひよりは自分の立ち上げた古代魔術研究同好会なる部活をサボって、わたしの部屋を訪れていた。
……最近、ひよりの学校で行方不明者が数名出たというのは有名な話だ。
何か、突然出かけると告げたまま行方不明になってしまったらしい。
彼女はその行方不明の子と仲が良かっただか何だかで、直前に何かのゲームのことを聞いていたとかなんとか。
で、気になって行方を探している、というらしい。

静流

あー馬鹿らしい……

ゲーム。
それは端的に言うと、願い事を叶える命懸けのゲームだと言っていた。みたい。
いや、願い事叶えるって。
どこぞの白い小動物よろしく騙される感じがしてならない。
聞かれてなかったから言わなかったとか真顔で言われそうで怖いのだけれど。

それに参加して帰ってこないと心配しているひよりはこうして、無駄な時間を過ごしているわけだ。
当然、そんな犯罪真っ青のゲームがあるわけがなく、ネットで探しても答えは出ない。

まー出る訳がないんだけどね。
だってそんなん、ありえないし。
この情報社会において、そんなゴシップを完封することが出来るはずがない。
所詮は都市伝説、根も葉もない下らない噂なのだ。

静流

ふわあ~……

静流

ひよりー
わたし、そろそろ眠いんだけど
泊まってくのー?

ひより

泊まってく!
だから布団貸して!

静流

怒鳴りながら言わないでよもぅ……

結構遅くになってから帰ってきていたわたしは、睡魔に負けてシャワーも浴びずに、そのまま寝ることにした。面倒くさい……。
ついでに、雑誌もポイして適当にごろりと横になった。

ひより

絶対に何処かに情報があるはずよ……
必ず見つけ出してやるんだから!

静流

はいはい頑張ってねー

ほんと、よくやる気になるよ。
わたしの学校も数年前に行方不明者がいっぺんに出た、って話を聞いたことがあるけどそれはそれだ。
よくある話だし、わたしには関係ない。
まぁ、ひよりは当事者と交友関係あるし、気持ちは分からなくもないけど。
無駄な努力だと思うけど……。
わたしは投げやりに返事をして、ひよりがいいというのでそのまま灯りを消して、眠りについた。

後日、とんでもないことになるなんて思わなかったけど……。

静流

あれ……?
ここ……どこ……?

ひより

あたしたち、確か学校に向かってたはずなのに……

翌朝普通に起きて、消沈していたひよりを連れて最寄りの駅まで登校の為に徒歩で移動中、わたしたちは何かよくわかんないことに巻き込まれた。
道中、何か怪しいお兄さんたちにナンパ? だかなんだかされて、朝っぱらからお盛んなだと思いながら丁重にお断りしていったら、背後から突然襲撃されて……。

ひより

あたしたち、何かに巻き込まれたのかな?

静流

わ、わかんないけど……

何が何だかサッパリだった。
襲撃されたところまでは覚えている。
だが……そこから先の記憶は痛みで途切れている。
殴られたかして誘拐されたんだろうか……。

ひより

あれ、あたしのスマホがない!?

静流

わたしのケータイも!?

断定。
わたしたちはどうやら、誘拐されたようだ。
連絡手段の携帯を奪われていた。
挙句、見たことのないお城のホールみたいなところに放り込まれていた。
それに、わたしたち以外にも数人の男女が、横に倒れていた。
状況が飲み込めない。呆然とするわたしたち。

ひより

し、死んでないよね……?

ひよりが倒れてる人にいうけど、知ったことじゃない。
それよりも、早く逃げないと。
と、そこでわたしは手首に何かがついていることに気づいた。
今まで、脳みその処理が追いつけず気付かなかったようだ。
って……。

静流

手錠!?

ひより

うわ、なによこれ!?

二人して、真っ黒な手錠を見て竦み上がる。
ひよりは我武者羅に取ろうと必死になり、わたしもそれを手伝おうとする。
ただの手錠じゃない。やたら太くて無骨で重い。
わたしたちの非力では当然取れなかった。

残念ながら取れないんですよねーお嬢さんたち

ここいらで諦めちゃくれません?

ひより

へぁっ!?

静流

うわっ!?

突然、その手錠から流れる音声。
……手錠だよね? 手錠から流れたよね?

その音声は喜んだふうに、加工してるであろう声で言う。

GM

あーいむ、ゲームマスター!
略してGMと呼んでくれぃ!
ひと足早くお目覚めの美しいお嬢さんたち!

静流

リアル変態に誘拐されてた!

ひより

それじゃあたしたち完璧誘拐されたの!?
危ないヒト相手の商売道具にされるの!?
身体が目的っ!?

静流

……じゃない?

ひより

いやーーーーーー!!
帰りたい、帰りたいよおおおおおおお!!
おかあさああああああああんっ!!

GM

……
君たち、テンションおかしくなってない?

ひより

おかああああああさーーーーーーんっ!!

GM

……なんでこう、先に目を覚ます子に限ってろくな子がいないんだろうね……
あの子じゃあるまいに……

静流

うぁああああああああ!?
誰か、誰か助けてええええええーーーー!!

GM

あのー?
もしもーし?

静流

わたし食べても美味しくないよ発育不足だよまだ高校生だけど見た目小学生だよこれ犯罪だよ売春だよロリコンの相手嫌だよ綺麗でいたいよクサイおっさんの相手とか勘弁許してぇ!!

ひより

あたしまだ部活作ったばっかで一度も顔出してないのにこんなところでアンダーグラウンドな変態の相手させられるんだいやだいやだこわいこわいへんたいこわいへんたいこわいへんたいこわい…………

完全にわたしたちは錯乱していた。
互いに抱き合ってがたがた震えているしかできなかった。

GM

…………

GM

待機してるな?
許可する、襲え

???

襲う必要ないよ
価値もないなら、放置しておけば死ぬ

GM

二度は言わない
襲うんだ

???

やれやれ……
分かったよ、ゲームマスター

震えるだけのわたしたちに、転機が訪れる。

GM

震えてるところ悪いけど、早く逃げないと……真面目に死ぬよ?

静流

え?

ひより

は?

嫌でもその発言の意味を、わたしたちは知る羽目になった。
ほうけるわたしたちに、突如銃声が襲ってきたのだ。

身近に生命を危険を感じる音はそうそうない。
でも、この音――銃声は違う。
ドラマなどで聞き慣れている割に、自分に向くと……人間、意外にしっかりと反応できるものだ。

静流

逃げるよ、ひよりっ!!

ひより

はぇっ!?

特にわたしは銃が好きで、その手の映画を観ているせいで、殺されるという言葉は嘘ではないと理解した。
ひよりの手を取り、すぐに駆け出す。

道なりでいい。
これは、よくわかんないけどきっとまずい。
ホールの出口に向かって、わたしたちは一目散に逃げ出した。

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