帰路を急いでいたはずがいつの間にやら知らぬ道へスイスイと入り込む。
いくら童話好きの痛い系女子だろうが最早夜の時間帯にこの軽率な行為はありえない。
ちょっ、ちょっと冒険、しすぎたかな……
帰路を急いでいたはずがいつの間にやら知らぬ道へスイスイと入り込む。
いくら童話好きの痛い系女子だろうが最早夜の時間帯にこの軽率な行為はありえない。
でも、本当にこんな道、今まで見たことなかったよね……
何度も何度も通い慣れた通学路に見慣れない分岐点を見つけ、冒頭のアリスよろしく素直に足先を曲げたのはあまりにも童話的行為だった。
いくらそんな、自分がお伽話みたいな世界に憧れようが、取るべきではない選択肢。
ところがそれが、憧れの世界への入り口どころか自分の人生の岐路となるなどとこの時は想像だにしなかった。
家だ……だけど、随分と古そうな……明かりもないし
しばらく進んで見つけた茅葺の屋根。周りに街灯はなくとても薄暗い。だが、幸か不幸かそんな気味の悪い場所に人だかりができているのが分かった。
何……? ここ、何なの? あの人達、誰?
んっとになんだよこの村ー、住民とかいないわけ?
キッヒヒヒヒ、シラユキ、見つけたぞシラユキィ!
っげ、キルティス……こんなところまで!
……?
特徴的なボーダードレスにシラユキという呼び名。片手にリンゴを持つ彼女のあまりにも固定化されているイメージに、脳内でまさかという予感がよぎる。
あぁいずこへ。貴方はどこへ行ってしまうの
なんだか、思っていた以上に勢揃いね
貴殿が来るのは予想していたよ、アリス
私もあんたがいることは分かってたけど、思った以上に知り合いが多い村だわ
ぜぇ、ぜぇっ……み、皆もう着いてたんだね
あぁぁぁっ、アリスっ、この村はなんだか不穏だっ。早く離れたほうがいい!
そうは言うけど、あんたねぇ……どうやって抜けろってのよ
アリス……? それに、あの帽子をかぶった男性……
シラユキという少女に抱いた一つの予感が、連鎖的に別の人だかりへ影響する。
……不思議な、変な夜だね。僕も迎えたことのない、僕の知らない夜
……Zzz
わっ、わぁっ、なんだか人がたくさんいるなぁ……村に人気はないのに。でもここから、皆マッチ、買ってくれるかなぁ……?
マッチを買う……? それって……
常日頃から親しみのある大好物の読み物に、思い当たる節がある。
あら? なんだか人がたくさん集まってきたわ。あたしが来た頃は静かだったのに
あぁよかったわ、人はいるようね。無人村の無人家で野宿だなんて真っ平ごめんだから
言われて来てはみたものの……村の住人はいないのか? 皆々、外部の人間に見えるが……
異様に髪の長い女の子と、赤い頭巾をかぶった女の子。笛吹きの男。
それらのどれにも、私の好きなものに心当たるものがあった。
何なの……何、ここは
しかし考えたなシラユキよ。村の中に逃げ込まれては人目に付く……困った子だなぁ、ッハハ
しつこいったらないわね……!
やぁやぁ、皆、集まったようだね
今度は誰っ?!
白髪の、見た目優しそうな風貌の男がふと現れる。
この男には、見覚えがなかった。
和洋東西入り乱れた、御伽話の始まりだよ
何ですって……?
今日皆をこの村に呼んだのは他でもない、僕だ
唐突にそう言ってのける白髪の男。ピエロじみたその外見と発言の内容には胡散臭さしか感じなかった。
貴方が呼んだ、って……アリスたちは、ハートの女王の裁判で
僕は、マッチを売りに歩いてたら……
私は、生涯の伴侶を求めに参りまして
そう、全部全部、僕が仕向けたことさ
何、お前ら知り合いなの? ずるくない? 俺仲間すら見つけられてないんだけどさー
知り合い……っていうよりは、確かに耳にしたことがある人はいるけれども
……Zzz
土に絨毯を広げたような金髪の女の子が、眠た気なお姫様の方を一瞥してそう零す。
そういう君は、塔の上の……
え、えぇ
笛を携えた男も、その話題に割って入った。
(ラプンツェルと眠り姫、ハーメルンの笛吹き男はドイツのグリム童話……だから?)
私の想像が正しければ、ここに揃っているのは皆、童話の登場人物だ。
劇者か何かは知らないが、皆、童話に出てくるキャラクターをなぞったような容姿をしている。
(不思議の国のアリスの登場人物は勿論、マッチ売りの少女、赤ずきん……それとあの子は雪女伝説? と桃太郎伝説かな。
イギリス、ドイツからフランス、日本まで)
同作品で共演したキャラクターたちは勿論、同じ国の童話出身者たちは、互いを知っているらしい。
紳士淑女諸兄。よくぞお越しくださいました
本日、皆にここに来てもらったのは他でもない
そうして誰もが状況を把握していない中で、この白髪の男は、
これから皆には、人狼ゲームをしてもらうよ
人、狼……?
誰が理解も納得もしない、素っ頓狂なことを言い始めるのだった。